建築条件
【瞑想】という呪文を作っておいたかつての俺を褒めてやりたい。
一晩寝ればどれほどの疲労もすっかり取り切れるという、ただそれだけの魔法。
しかし、その魔法の存在があればこそ、俺は作り手たるグランと行動をともにできたのだ。
さもなければ俺は幼いうちから過労死していたかもしれない。
「ようやく、革鎧も完成か……、疲れた……」
「うむ、見事なものができたでござるな。ただ、バイト殿はまだ成長期ゆえ、すぐに使えなくなると思うのでござるが」
「いいよ、バイト兄が着られなくなったら俺がお下がりとしてもらうから」
革鎧を作ることになったが、ひとつ問題があった。
それはサイズのことだ。
大猪の毛皮をしいたけ茶ならぬ魔力回復薬で鞣して皮革加工して鎧にしていく。
だが、俺用につくるには、いささか体が小さすぎるという問題点があったのだ。
一度小さなサイズで革を切ってしまえばそれ以上大きなサイズにはならない。
ゆえに俺ではなく、俺よりも大きいバイト兄にあわせて革鎧を作ることにしたのだった。
なんだかんだで、土地の仕事の割り振りをうまく他の人にやってもらっているバイト兄の存在は大きく、ちょっとしたボーナス代わりでもある。
体の各寸法を測り、それに合わせて専用に作る。
といってもバイト兄もまだ身長が伸びており、ぴったりすぎるとすぐに合わなくなる可能性がある。
そのため、一応大きめに作って、部位ごとに多少の調整ができるように仕立てたのだった。
これなら、いずれバイト兄が着られなくなった際には俺がお古としてもらって使うこともできるだろう。
「いや、それにしてもアルス殿のもとに来てからは毎日楽しいのでござる。さあ、アルス殿、次は何を作るのでござるか?」
「なんで次の話になるんだよ。俺はものづくりばっかりする気はないぞ」
「そんな殺生な。アルス殿は拙者から楽しみを奪うつもりなのでござるか」
「そんなに言うなら、うちで働いている連中にでも売れる商品の作り方でも教えてやってくれよ」
「うむむ。まだ当分この地にいるつもりなのでそれは構いませんが、やはり拙者は常に新しいものを作りたいと思っているのでござる」
「うーん、そうだなあ。それならこんなのはどうだ?」
ものづくりがしたいとそこまで言うのであれば、一度作ってみてほしいものがあった。
それは俺にはなかなかうまく作れないもの。
そして、もしかしたらグランの創作意欲もある程度満たすことができるかもしれない内容だった。
※ ※ ※
「ここに俺が用意したレンガが置いてある。このレンガを使って建物を作って欲しい。ただし、絶対にここにあるレンガの数を越えてはいけない。っていう条件付きなんだけど、どうかな」
俺がグランに提案したものづくりは武器でも防具でもなく、建物づくりだった。
グランは非常に多才で武具のほかに薬にも知識があった。
であるのならば、建築についても知識があるのではないかと思っていたのだ。
そして、その建物づくりにはある条件をつけることにしていた。
それは使用するレンガの数の上限を設定すること。
その上限とはズバリ俺が魔法で宿屋を再現したときに作り出したレンガの総数と同じだ。
俺は頭の中でイメージした建物を魔法で作ろうとすると、その建物の内部空間も全て含めた容積と比例して魔力を消費してしまう。
そのため、イメージだけではあまり大きな建物は作ることができないのだ。
だが、以前別の方法で魔法を使って宿屋を建築したことがある。
それは実物として存在する宿屋に魔力を染み込ませて構造を完全に把握したことによって実現した。
魔力で作りたい建物の形を正確に把握できていれば、容積ではなく、建材の量だけの魔力消費量で建築可能なのだ。
つまり、逆に言えば俺が必ず建築成功させられるのは現状で2階建ての宿屋に使われているレンガの総数と同じくらいとなるわけだ。
なので俺はその数のレンガをグランへと渡して新たに建物を建ててもらうことにした。
もし、いい建物をグランが作り上げることができれば、俺はそれを魔力で【記憶保存】する。
そうすれば、今後はその建物をいつでも何度でも再現可能となるわけだ。
「できるか? 言っておくけどレンガはなるべく効率的に使って広々とした建物にしてくれよ。豆腐建築とかも論外だぞ」
「なるほど、条件付きで建物を建てさせる、でござるか。面白い依頼でござるな。シンプルな条件だからこそアイデアの見せ所になるのでござる。普通ならばいくらレンガを使ってもいいから、いかに大きく豪華な建物を作れるかを考えそうなものでござるが」
「今のところそこまで大きな建物ってのは必要ないからな」
「質問でござるが、使えるのはレンガだけなのでござるか?」
「レンガ同士を固定するのにモルタルとかを使っていいよ。あ、あとあくまでも人が住むもので作ってほしいかな」
「いいでござる。拙者、アルス殿からの挑戦状、受けるでござるよ。さっそく作っていくでござる」
こうして、グランは俺の注文を受けて建物づくりを始めたのだった。
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