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過去話

「兄さんたちはすごいね。いろいろできるんだもん」


「カイルもそのうちいろんなことができるようになるだろ。まだ子どもなんだし、遊んでりゃいいじゃないか」


「それを言うなら兄さんも子どもだよ。ボクと2歳しか違わないじゃん」


「まあ、そう言われてみるとそうだな」


「ねえ、ボクにも魔法を教えてよ。バイト兄さんは兄さんに魔法を教えてもらったって言ってたよ」


「うーん。そうなんだけどな……。昔そのことで母さんを悲しませたんだよな」


「え? そうなんだ。何かあったの?」


 最近はいつも開拓地に入り浸っている俺に対して、弟であるカイルは村にある実家で手伝いをする事が多い。

 今日はどうやら俺のところに遊びに来たらしい。

 いつも開拓ばっかりで日中はほとんど家に帰らないし、夜も遅くあまり話をすることが少なかった。

 だからだろうか。

 ここぞとばかりに話しかけてくる。


 だが、魔法を教えてくれと言われるとは思わなかった。

 つい昔のことを思い出してしまう。

 あれはまだ俺が実家の裏の小さな畑でハツカなどの野菜の品種改良をしているときのことだった。


 まだまだ体の小さな俺が畑を耕して、大きな桶に水をなみなみと注いで水やりをしているときだった。

 バイト兄が聞いてきたのだ。

 なぜお前は俺よりちっさいのにそんなに重たいものを持ち歩いて平気なのだと。


 その時はちょうど魔力の使い方を試行錯誤しているときであり、身体強化を使い始めた時期だった。

 自分の体を実験材料にしてその効果を確認していた俺だが、ふと他の人でも同じような効果が得られるのだろうかと気になったのだ。

 そこで、これはちょうどいいとばかりにバイト兄に魔力の練り方と魔法の使い方を指導したのだ。


 バイト兄は俺が教えた中で【土壌改良】のようなものに対しての魔法効果を発揮するタイプの魔法は全然できなかった。

 だが、身体強化についてはわりと短期間でできるようになったのだ。

 自分の体の中に練り上げた魔力を満たして、フィジカルを全体的に強化する魔法だ。

 別に呪文として唱えなくともできる上に、自身の肉体に関することだからか理解しやすかったのかもしれない。

 その魔法を気に入ったバイト兄はそれからずっと身体強化を練習し続けていたのだった。


 だが、俺はこのとき、魔法を使えるようになるということがどういうことなのかを理解していなかった。

 あとから思い出すとこのときのことは反省しきりになるのだった。




 ※ ※ ※




 身体能力が上がったバイト兄がその魔法を使って何をするようになったか。

 それが問題だった。

 俺は魔法を教えたときには体を強化できるようになるのなら、水やりなどを手伝ってもらおうと気軽に考えていたのだ。


 だが、バイト兄はその後、強化された肉体を駆使して村の子供達と喧嘩を始めたのだ。

 まだ子供のバイト兄は周りにいる知り合いも同世代の子どもたちばかりだった。

 子供同士では何気ない一言から喧嘩が始まることも当然ある。

 だが、バイト兄はその喧嘩に常に勝ち続けるようになったのだった。


 同世代では無敵の存在となったバイト兄。

 だが、それを面白く思わない子どもたちも当然いる。

 その子達はどうしたかと言うと援軍を頼んだのだ。

 自分たちよりも年上の子どもたちに。


 だが、その年上にも喧嘩では勝利をおさめるバイト兄。

 多分、もともと体が人よりも大きく強かったのだろう。

 正直、当時のバイト兄の魔法技術ではそれほど大した強化はできていなかったはずだ。

 だが、バイト兄は勝ってしまった。


 年上たちからしたら自分よりも年下の子どもに負けるなど面目丸つぶれだ。

 だが、一対一ではまともにぶつかると勝てないかもしれない。

 ならばどうするか。

 複数でまとまってバイト兄に喧嘩をふっかけるようになったのだ。


 さすがにこれには勝てなかったらしい。

 ボロボロにされて家に帰ってくることも珍しくなくなった。

 だが、バイト兄の凄さは恐ろしいまでの精神性にあったのだ。

 普通ならばボコボコにされれば萎縮して、喧嘩をしないように心がけるものだろう。

 だが何度負けてもそれに立ち向かっていったのだ。


 そして、その経験はバイト兄の戦闘能力の向上につながってしまった。

 次第に複数で来られても撃退できるほどになってしまったのだ。

 そんな生活をずっと続けて、村の中でバイト兄に敵う者はいなくなってしまった。

 しかし、そこに至るまでは並大抵のことではなかったのである。


 毎日畑仕事をサボって喧嘩を繰り返すバイト兄は、いくら注意されても同じことを繰り返していた。

 ある日、そのことで母さんが泣き出してしまったのだ。

 自分の育て方が悪かったのではないか、と言って。


 これを聞いたときはさすがに俺も堪えた。

 身体強化なんて魔法を教えたばっかりに家庭崩壊の原因になってしまう。

 教会が村の住人に生活魔法を教えるのが最低限分別のつき始める6歳頃に設定しているのもそのへんが理由なのかもしれない。

 とにかく、むやみに魔法を教えるのは良くないのだと俺は実感させられたのだ。


「ってことがあってさ。カイルには魔法を教えたりしなかったんだよ」


「そんなことがあったんだね」


「まあ、それでも魔法を覚えたいってカイルが言うなら教えるよ。バイト兄みたいな脳筋と違ってカイルは賢いからな。頭が良くなる魔法だったら教えてあげるよ」


「え? いいの?」


「喧嘩しないって約束するならな」


「うん、約束するよ。喧嘩はしないから魔法教えて!」


「よし、わかった。それなら今から特訓しようか」


 まあ、反省はしたけど後悔はしていないんだよね。

 バイト兄が村の連中をうまく使って畑仕事を手伝うことができているのも、喧嘩が強いからという側面もある。

 結果オーライ、万事塞翁が馬というやつだろう。


 カイルにはぜひバイト兄のように魔力をすべて筋力に注ぎ込むようなことはせず、脳みそにつぎ込んでほしい。

 脳に魔力を集中させると記憶力のほかにも思考力や計算能力といった脳機能が向上するのだ。

 以前までと違って弟に勉強する時間を作ることができるようにもなっている。

 カイルには頑張って文字や計算を覚えてもらい、この村にはいない事務仕事のエキスパートになってほしい。

 俺は将来成長したカイルに仕事を手伝わせることを夢見て、魔法の習得方法を教えていくのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前半は誰視点か分からない。 主人公とバイト兄の視点が混じってるように見える。
[一言] 「兄さんたちはすごいね。いろいろできるんだもん」 凄いなのは主人公で、主人公の兄ではないだろうが。
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