道路
【壁建築】という呪文を作り上げることに成功した俺は次に道作りに取り掛かることにした。
壁で囲ったのは一辺4kmの正方形の土地だ。
北側に森が広がり、南には村がある。
とりあえず壁の中にある拠点と村との接合部にあたる出入り口と北側の森で保護森林区域として指定しているところにつながる出入り口に向かって道を作ろうと思う。
この世界に転生してきてから、道のありがたさというのをひしひしと感じている。
というのも、まともな道というのが見当たらないからだ。
基本的にはよく人が通り自然とならされてできた通り道がこのあたりにある道なのだ。
村から街に行く途中も大変だった。
通行止めの原因になるような障害物をどかし、川などを通れるように最低限整備した状態で、歩くのも荷車に乗るのも移動がしんどかったのだ。
せめてもう少しいいものを作りたい。
実は出入り口に向かっての通路的なものを俺はすでに用意していたつもりだった。
畑とする部分には【土壌改良】の魔法を使うのだが、道は【整地】だけでとどめておいたのだ。
だが、それを台無しにするものたちがいた。
大猪のような獣ではなく人間だ。
バイト兄を始めとして俺の土地で仕事を請け負ってくれている人たちは決められた道を通るという当たり前のことを怠っていたのだ。
【整地】した土地というのはきれいに、平らにならしているため非常に歩きやすい。
ではあるのだが、収穫物を積んだ荷車などを引いて移動しているとそのところは地面がえぐれるようになってしまう。
それが続くとすぐにボコボコの土になってしまうため荷車の移動が大変になるのだ。
するとどうするか。
凸凹の土の上を通るくらいなら畑の上を通ってやるぜ、石ひとつ落ちてないんだからどこを通ってもいいだろう、と言わんばかりに耕した土の上を突っ切るように移動する連中が出始めたのだ。
俺も最初は注意していた。
だが、人間というのは他の人がやっているのを見るとそれが当然と思う思考回路を持つものらしい。
いつの間にか、ほとんどの人が最初に決めたルートを通らず好き勝手に畑の上を移動し始めてしまったのだった。
厳重注意をしてもいいが、埒が明かない可能性もある。
であるのならばこの際しっかりとした道路と呼べるものを確保してしまおう。
俺はそう考えたのだった。
※ ※ ※
「悩むな……」
俺はいくつかの道路を魔法で施策してみた。
最初はコンクリートで道を固めてしまおうかと思った。
だが、ふと気になることがあったのだ。
確か、コンクリートやアスファルトの道路というのは見た目はきれいだが、実はそれなりに維持費が必要だったのではなかっただろうか?
どうせ魔法で作るのだから建設費や維持費を考えても意味はないかもしれないが、せっかくなので長持ちする道路を作っておきたいと考えてしまうのは欲が出すぎだろうか。
そう思った俺は前世で聞いたことのある記憶を掘り起こす作業に突入した。
なにぶん道路づくりになど関わったこともなかったためよくわからない。
だが、確か1000年以上前の道路が現代でも残っているという話を聞いた覚えがある。
古代ローマ帝国が作り上げたという石畳式の街道。
紀元前から存在していた古代の国が、その卓越した技術で作り上げた道は確か現存していると聞いた気がする。
維持の手間についてがどうだったかはさておき、確か非常に理にかなった作りをしているというのをテレビでみたはずだ。
基本的な作り方はこんな感じだったはずだ。
まずは道幅に合わせて地面を深く掘る。
その掘ったところへ石を埋め、その上に粘土と砂利を敷き詰めるのだ。
そして、さらにその上に石畳の石をきれいに配置していく。
このとき注意点は道路の断面図を横から見ると道の中央部分が僅かに盛り上がり、端に行くほど低くなるようにすることだ。
これは雨が降った際に水が道の端に流れていく工夫だ。
だが、さらに利点がある。
僅かな傾斜があることで石畳の石がお互いの重さでずれにくくなっているのだそうだ。
こうすることで水や重量物に対して強い道路を敷くことができる。
だが、欠点もあったように思う。
基本的にはこのローマ式の街道はまっすぐにしか敷かなかったらしい。
それがどれほど徹底していたかと言うと、道路は山を迂回せずにトンネルを作って貫通するようにして目的地まで一直線に敷設していたというほどだ。
真っ直ぐにしかできないというのはなかなか恐ろしい話である。
目的地に向かっての角度が1度ずれただけで、10km先、100km先の到達点がどれほど場所がずれるかわかるだろうか?
ケタ外れた計測技術がなければこの道路は使いこなせないということだ。
「まぁ、でもこいつでやってみるか」
だが、俺はあえてこのローマ式道路を作ることにした。
理由は単純に俺の趣味だ。
石畳の道路に憧れがあるというただそれだけの理由だった。
正直、維持するのがどれほどの手間になるのかわからないが、呪文化してしまえばヴァルキリーたちさえいればそこまで苦にはならないだろう。
そう考えた俺は新たな道路を作るために頭の中でイメージをかためる作業へと入っていったのだった。
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