雇用
「うーん、手が回らないな」
もらえるものは遠慮なくもらっておこう。
そう考えるのは当然のことだろう。
俺はパウロ神父に言われた内容で、自分にとって一番重要だった「土地の面積に制限がない」というアドバイスをもとに行動を開始した。
つまりは開拓である。
ヴァルキリーの背に乗って移動しながら森に生えた木を根本から崩すようにして次々に倒していく。
その木を「角なし」が引っ張っていき、空いた地面を整地してならしていく。
こうしてどんどんと土地の面積を広げていったのだ。
だが、土地を広げたところで収入は増えない。
お金を得るためには商品を作り上げなければならないのだ。
今、俺の持つカードはつぎのようなものだ。
ヴァルキリー種という使役獣の販売。
【レンガ生成】というオリジナル魔法で量産したレンガの販売。
【魔力注入】を使って栽培した魔力茸の販売。
ハツカを始めとした畑での収穫物。
これらのことをこなしていかないといけない。
使役獣の販売だけでも問題ないと思うが、いつ何があるかわからない。
もしかしたら、角を切った使役獣が早死するかもしれないし、そもそもの使役獣の卵がずっと安定的に補充されるかどうかも保証はないのだ。
だが、レンガの販売は今後特需がそう遠くないうちに終わってしまう可能性が高い。
魔力茸は需要がつきないと思うが、原木を用意しなければならない。
森で倒木状態になっている木が使えることは使えるのだが、きちんと枝を切り落とし、丸太状態にして保存しておかなければならないのだ。
さらに問題になるのが畑の収穫物だ。
土を耕すのは魔法で一気にできるが、植えたり収穫したりするのは人力である。
これが思った以上に時間がかかってしまうのだった。
「よし、誰かに頼むか」
とにかく早いうちに土地の面積を広げたい。
俺のやるべきことは開拓のみに絞ってしまうことにした。
だが、安定収入を得られるように保険を確保しておく意味でもほかのことを疎かにはしたくない。
そこで出た結論は他の人にやってもらうということだった。
押さえておくべきポイントはお金は人任せにしないということだろうか。
横領、ピンハネ、不正の数々。
そんなことももちろん問題になるのだろうが、この村ではそれ以前にまともに数を数えられないんじゃないかと思う人がほとんどなのだ。
どうも、普段から商売をしてお金の数を数えているのならともかく、物々交換で生活していると数という概念すら気にしないものらしい。
その時々で等価交換だと当人同士が納得さえすればそれでいいのだから。
そんな状態の人たちに財布を預けるわけにもいかないだろう。
であるならば、単純作業を頼むしかないか。
日雇いのバイトをしてくれる人を探すか。
木の枝を切ったり、作物を植えたり収穫して規定の倉庫に保管するという仕事をやってもらえばいいか。
こうして、俺は土地のオーナーとして動き出したのだった。
※ ※ ※
「おいおい、水臭いじゃないか。俺のことを忘れんなよ、アルス」
俺が事業計画の話を夕食時にしたときだった。
俺としては村人で誰かやってくれる人がいないか聞くつもりだったのだ。
だが、その話を聞いて飛びついてきた人がいる。
バイト。
アルバイトという意味ではなく、バイトという名前の男。
俺の兄で、我が家の二番目の子どもの男子だった。
「バイト兄が働いてくれるのか? 結構たいへんだよ?」
「何いってんだ。ほかのやつに話を持っていくなんてありえねえだろ。俺にまかせとけよ、アルス」
「母さん、バイト兄がそう言ってるけど、かまわないかな?」
「うーん、しょうがないわね。でも、麦の収穫期はバイトもアルスもうちのことを手伝ってもらうからね」
「りょーかい」
どうやら、両親は弟の俺のもとで兄が働くということを認めるようだ。
まあ、真面目にやってくれると言うのなら俺にも文句はない。
……やってくれるよな?
バイト兄は普段から家の仕事をサボって遊びに行ったりしているのを見ている身としては不安がある。
最悪、やらなかったり問題を起こしたらクビにすることも考えとこう。
「で、何が狙いなの、バイト兄?」
「決まってんだろ。ヴァルキリーを俺にも1頭くれよ。お前ばっかりヴァルキリーに乗るなんて生意気なんだよ」
「そういや、俺が乗ってないとき、勝手に背中に乗っていたっけ。そんなにヴァルキリーが気に入ったの?」
「あったりまえだろ。英雄と呼ばれる男はみんなさっそうと騎獣に乗ってお姫様を助けるために駆けつけるんだ。男ならみんなそれに憧れるってもんさ」
なるほど。
わからんでもない。
それに、これ以上ない取引だろう。
普通は騎獣型の使役獣なんてそうそう買えないのだ。
それを身内の仕事の手伝いをするだけで手に入れられるチャンスとくれば、バイト兄が飛びついてきたことにも納得できる。
だが、甘いぞバイト兄。
期限はしっかりと決めておけと俺は学んだのだ。
使役獣1頭でこき使ってやろうじゃないか。
こうして、俺は兄を従業員として雇い始めたのだった。
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