会談の行方
「リオンはこの冬は戻ってこないのか?」
「うん、そうみたいだよ、アルス兄さん。リオンさんは王都にとどまって三貴族同盟の会談の行方を見守るって連絡があったから」
「そうか。それは助かるけど大丈夫なのかな。護送隊を襲撃した犯人もまだ確定していないのに」
「ボクも心配だったからそういったんだけどね。リオンさんは大丈夫だって言っていたよ。これもフォンターナのためだからって」
「……もしかしてカルロス様たちが亡くなったことを気に病んでいるのかな? 自分の責任だとか言って。カイル、もしそうだったらいけないから、後で【念話】で気にするなよって俺が言っていたって伝えといてくれ」
「うん、わかったよ、アルス兄さん」
「で、ほかにリオンはなにか言っていたのか?」
「実は三貴族同盟の会談だけど、あんまりうまく話がまとまっていないらしいんだ。もしかしたら、話し合いではどこが覇権を握ることになるのかは決まらない可能性があるかもしれないって」
もうそろそろ冬が来る。
すでに雪が降り始めているのだから、新年の挨拶に間に合うようにリオンが帰ってくるにはいい加減こちらに向かって移動していなければいけない頃合いだった。
だが、連絡をとったカイルが言うところによると、リオンはそのまま遠方に位置する王領に滞在するらしい。
どうやら、三貴族同盟の会談がどうなるのかが不透明性を増しており、その結末を近くで見届ける気なのだそうだ。
三貴族同盟の会談というのは、もちろんフォンターナが聖剣をチップにして開催にこぎつけたものだ。
教会は基本的に中立である。
であるので、例えば交戦中にあったメメント家とフォンターナ家の戦いのような直接的な事象に介入というのはやりたがらない傾向があるらしい。
だから、フォンターナ家は三貴族同盟同士の会談が行われるようにセッティングした。
これは、すでに元覇権貴族のリゾルテ家が三貴族同盟に敗北しており、あとは3つの貴族家のどこが覇権をとるのかという問題だけだったのもある。
教会側としては、三大貴族家に対して「戦ではなく交渉のテーブルについて話し合いで決めるのはどうか」と提案したに過ぎない。
なので、三大貴族家のどこが覇権を握ることになろうとも、俺が約束した聖剣の奉納は間違いなく履行されることになる。
この会談で覇権貴族が決まるのならこちらも方針を決めやすい。
最悪、俺が自分の命を優先するだけであれば、覇権貴族に頭を下げて彼らの下に付けばいいのだから。
一度手に入れた領地を減らされたり、不平等な条約を結ばされる可能性もあるが、こちらとしては一応メメント家の軍と戦ってそれをはねのけたという実績がある。
ある程度の配慮はしてくれることだろうと考えている。
が、どうやらそうはいかない可能性が高まってきた。
それは「王の死」が関わっている。
フォンターナが保護し、メメント家をはねのけながらも王都へと送り届けることになるはずだった王が死んだ。
しかも、それがどこの誰によるものかがはっきりと分かっていないのだ。
だが、誰だってこう思うだろう。
今、王を殺そうとする動機があるのは三貴族同盟の中のどれかだ、と。
それがこの会談を複雑にしていた。
三大貴族家がお互いに「お前のところが王に剣を向けたのだろう」と牽制しあっているのだ。
すでに王家には力がない。
だが、それでも王を直接殺めるようなことは禁忌とされていた。
そんな禁忌を犯したものが新たに覇権を握るなどとはとんでもない。
3つの貴族家が残りの2つの貴族家に向かってそれぞれそう言い合っている状態なのだ。
だが、何事にも怪しいやつというのはいるものである。
今回の件もそうだ。
王を殺す、という禁忌を犯すなどとんでもないが、それをする可能性があると思われている貴族家があるのだ。
と、言っても決定的な証拠も無ければ、否定の声も上げている。
だが、三大貴族家の中でメメント家は「王の身柄の引き渡しを要求する」としてフォンターナ家と戦っている最中だった。
これは、力ずくで王の身柄を確保しようとしているものの、王を殺すために軍を出していたわけではない。
そして、三貴族同盟の中で最大の勢力を持つと言われるラインザッツ家は王が王領へと戻り、話し合いが上手く進めば一番覇権貴族になる可能性が高かった。
わざわざ王を殺して混乱を招くことをすると考えるのは少々不自然である。
では、最後に残ったもう一つの貴族家はどうだろうか。
三貴族同盟の中では一番勢力が弱いと言われているのだ。
そのまま、何も手を打たなければ最大勢力を誇るラインザッツ家が覇権を持っていきかねず、その次に力のあるメメント家が王の身を押さえれば話し合いを待たずに覇権を名乗るかもしれない。
せっかく、他の貴族家と同盟を結んでまで旧覇権貴族であるリゾルテ家を倒したというのに、このまま座して待つばかりではなんの利益も得られないのではないか。
王の死という痛ましい事件は、そう考えたがゆえの凶行だったのではないか。
三貴族同盟の周囲ではそういう意見がチラホラと出てきているのだそうだ。
もちろん、それが正しいことであるとは限らない。
今述べた理由だってかなりいい加減なものだ。
メメント家やラインザッツ家が絶対に王を殺すことがないなどという証明にはなりはしない。
が、疑心暗鬼というのは一度陥るとなかなかそこからは抜け出せないのだろう。
三貴族同盟の中で亀裂が生じ始めている。
覇権にたどり着く間際になって躓いてしまったがゆえに、「これは誰の責任だ」と他者にうまくかない原因を求めてしまうのかもしれない。
それぞれが強大な勢力を持つ3つの貴族家がそれぞれを敵視し始めている。
だが、冬になる前に暴発することはないだろう。
おそらくは冬の間も続くであろう会談で話し合いがうまくいかなかった場合、王の死という火種が大きく燃え上がる可能性がある。
やはり、リオンには王都に残って三貴族同盟の会談についての進捗を逐一報告してもらおう。
もしかすると、来年はさらに各領地が大荒れすることになるかもしれない。
リオンの報告をカイルから聞きながら、窓の外に降る雪を見つつ俺はそう思ったのだった。
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