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木精の活用法

 トラキアの森の奥に立つ大木。

 影の者たちからはこの木は御神木と呼ばれ、敬われていた。

 もしかすると、これも迷宮核の一種なのかもしれない。

 アトモスフィアと同じように、この地に住む者たちに特殊な力を与えているからだ。


 御神木につく果実。

 その果実を毎年一つだけ食べることがトラキア一族には許されており、幼少時から毎年一つずつ食べながら、成長するにしたがって能力が発動していく。

 もっとも、それはアトモスの戦士たちのように全員が同じものではなかった。

 アトモスの里で育った戦士たちはみな巨人となっていたが、影の者は個々に違う能力を有している。

 そのなかでも一風変わったものといえばシオンの占いだろうか。

 が、基本的には迷いの森に潜む一族だからなのか、刺客として使える能力が多かった。


 そんな他では絶対に手にすることのできない能力を得られる御神木の果実を手にして、俺は食べずに魔力を注ぎ込み続けている。

 いまさら俺が食べて変わった能力を得られる可能性は低いだろうからな。

 それに、一度に大量に食べたところで短期間で不思議な力が身につくわけでもないらしい。

 なので、俺は当初の目的どおり、御神木の果実に宿る精霊の力を得ることにした。


 口に含んで齧ることができる程度の大きさにもかかわらず、御神木の果実には大量の魔力が入っていった。

 そして、その魔力が果実内部を蹂躙する。

 どうも、俺が感じる感覚として、果実の中にあるたくさんの粒それぞれに魔力が入り込んでいるようだ。

 その粒一つひとつに精霊が宿っているらしい。


 が、氷精や火精などと比べて木精の気配は弱い。

 これはもしかすると果実だからなのだろうか?

 本来であればトラキア一族の者たちがいくつも樹上に家を作る、そこで生活できるほどになる大木の種がこれだ。

 ゆえに、大きく成長する前の精霊の種のようなものが果実内部の粒にそれぞれ納められているのかもしれない。

 もっとも、それは本当に目には見えない感覚だけなので、合っているのかはさっぱり分からないのだけれど。


「どうですか、アルフォンス様? 御神木の果実から、精霊様のお力は得られましたか?」


「……ああ、成功だよ、シオン。無事に木精の力を得ることができた。これがそうだ」


「まあ。タンポポの綿帽子みたいでかわいらしいですね。これが木精様ですか?」


「そうみたいだよ。氷精や火精とかとはちょっと見た目が違うけど、木精としての力はあると思う。まあ、カイル兄さんが契約した木の精霊よりもさらに力が落ちるのかもしれないけど」


 御神木の果実から使役することに成功した木精。

 てっきり、緑色の光の玉として現れるのかと思っていた。

 が、どうやら違うようだ。

 小さくて白っぽい綿帽子のようなものがいくつも出てきたのだ。

 精霊なのでそんなことはないだろうけれど、風が吹けばヒューっとどこかに飛んでいきそうな見た目をしている。

 これは果実から使役したからなのだろうか?


 世界樹と呼ばれる古木から精霊契約を行ったカイル兄さんは、木精の力を使っていろんなことをしたみたいだが、この綿帽子のような木精では一つひとつにできる力の大きさは思ったよりも小さいのかもしれない。

 なので、戦場で木々を操って敵軍を翻弄する、などという大胆なことはできなさそうだ。

 が、それでも十分にこの木精には価値がある。


「おめでとうございます、アルフォンス殿。それで、その小さな精霊様をどのように活用されるのですか?」


「ん? トラキア一族の族長としてやっぱり気になりますか?」


「まあ、そうですね。どうしても万が一のことを考えなければなりませんから。たとえば、その精霊様のことがきっかけで迷いの森の結界が崩壊する、などということがないだろうかと気になったりもしますので。できれば、この御神木の周辺や森では精霊様の力をみだりに使わないように願いたいのですけれど」


「なるほど。そういう心配もありますね。大丈夫ですよ。この木精たちの使いどころはすでに考えています。この森では使用しないですからご心配には及びません」


「そうですか。それならひとまず安心ですね。ですが、それではすでに使用方法については見当がついているということですか。差し支えなければお聞きしてもかまいませんか?」


「柔魔木の増産です。グルー川の中州というごく限られた範囲にしか生息しないという柔魔木。それはこれまでグルーガリア国が主に管理していました。伐採なども樹木の数が不用意に減りすぎないように気を配りながら切っていたのです。ですが、それを解消したい。柔魔木の木材が増えれば魔弓オリエントの増産のめどもつきますからね。というわけで、この木精たちには柔魔木の成長促進とか、グルー川の別の場所でも生育させられないかに試してみようと考えています」


「ほほう。柔魔木はもちろん知っています。この森ですら手に入らない変わった木材を得るために精霊様の力を活用するのですね。納得いたしました。精霊様のお力の使い方としてはこれ以上ない良い考えだと思います」


 実際にできるかどうかは分からない。

 が、今までグルーガリア国が柔魔木をよそでも栽培できないか長年研究していて、結局できていないことを考えるとあとは精霊の力を使う以外に方法などなさそうだしな。

 どのみち、戦場で使えないのだから、そういう方法で試してみるのが一番いいと思う。

 こうして、俺は新たに手に入れた木精を使って、柔魔木の栽培・増産を試してみることにしたのだった。

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