永久機関
「私がアイ議長に忠誠を誓うかですか? 愚問です。私は議長とともに仕事をし、ともにこの国のために働いてきたのです。それもこれもアイ議長の素晴らしい人格と仕事ぶりをこの目で見ているからにほかなりません。全幅の信頼を寄せているのは間違いなく、忠誠を示せと言われればなんでもいたしますよ」
アイの家で【寝ずの館】とも呼ばれる場所にいた職員の一人に声をかける。
アイに忠誠を誓うことができるかどうか。
そう聞いただけで、相手からは非常に熱い感情をぶちまけたような意見が飛び出してきた。
【瞑想】を使い、食事も配達させて、体は【洗浄】により清めながら、それ以外のすべての時間をアイとともに仕事をすることに使っているような者たちだ。
当然と言えば当然なのだろうが、やはりちょっと異常な連中だと感じるくらいに暑苦しい。
だが、そんな奴らだからこそ、間違いなくアイに忠誠を誓っているだろうということは分かる。
「じゃ、やってみるか。俺が魔法陣を展開するからお前とアイで向かい合ってくれ」
「お待ちください、バルカ様。私もアイ議長に忠誠を誓っています。それを証明して見せましょう」
「私もです。やらせてください」
【寝ずの館】にいた職員をアイと向き合わせで立たせる。
それを見ていたほかの職員たちもどこからともなく現れて、自分にもやらせろと声をあげてきた。
どうやら、俺が最初に声をかけた奴に負けたくないみたいだ。
というか、アイにたいして忠誠を示す一番最初の人間という立場をほかのものに奪われたくないようだった。
自分が先にやるのだと声をあげてくる。
「うるせえ! 全員まとめてやるから、一列に並べ」
次々と増えてきて声を上げ続ける連中を黙らせて、横一文字に並ばせる。
そして、その前にアイを立たせ、俺が少し大きめにした忠誠紋の魔法陣を展開させた。
彼らの中には俺が忠誠紋の使用試験として一度試している者もいる。
そいつは俺の時には手の甲に何の反応も現れなかったのだが、今回は違った。
その場に並んだ全員の手には間違いなく新たな紋章が浮かび上がったからだ。
「紋章が現れたな。成功だ、アイ。忠誠紋は間違いなく発現している」
「はい。私の中に魔力が流れ込んでくるのを感じます。魔力の移譲も正常に行われているようです」
「そっちも問題ないんだな。よし、後のことは別室で話そうか。ここにいると、こいつらがうるさそうだし」
手の甲に紋章が現れた職員たちの喜びようは半端なものではなかった。
口々になにか奇声をあげながら、狂喜乱舞している。
涙を流しながらうずくまり動かない者までいた。
そうとうにうれしいのだろう。
俺に対して反応を示さなかった奴がアイに忠誠を示せたことで誇らしげな顔をしているのを見るとちょっとイラっとしてしまった。
が、それらはいったんおいておいて、俺とアイは静かな環境を求めて場所を変えた。
開いている部屋でアイとともに話す。
「アイに流れ込んでくる魔力ってことだけど、それって結局どういう扱いになるんだろう? アイの本体というべき人格ってカイザーヴァルキリーの中にあるんだろ? ってことは、カイザーヴァルキリーの魔力になるってことなのかな?」
「いえ。そうはなっていないようです。あくまでもカイザーヴァルキリー様の中に私の仮想人格が保管されているのであって、私の仮想人格とカイザーヴァルキリー様が同一存在というわけではありません。ですので、私にたいして忠誠を誓った者の魔力がカイザーヴァルキリー様の魔力となるわけではないようです」
「人格に魔力が宿る、か。よくわかんないね、魔力って。食べ物から取り込んで力にできるのも魔力だし、魔石に宿っているのも魔力だし、人格そのものにも宿ることがあるのか」
「そうですね。魔力については賢人たちでもまだ研究の過程であり、これといった結論は出ていません。ただ、アルフォンス様の魔剣ノルンも人格を持ちながら魔力を保有していますので、私のような仮想人格でも同様のことが起こるのはあり得るのでしょう」
「なるほど。ノルンも人工的に作られた存在だし似たようなものか。ま、それはいいや。別に魔力の研究をしたいわけじゃないしね。それよりも、これでアイの忠誠紋に反応する者が現れたことを喜ぼうか。とりあえず、議会でも忠誠紋をバンバン使っていこう。そうすれば、より強力な党派を議会内で形成できるだろうし」
「かしこまりました。私自身が魔力を得たことで、今後はこちらで魔法陣の展開が可能となりました。アルフォンス様の手を煩わせることなく忠誠紋を使用することができるでしょう」
「あ、そっか。アイが魔力を得たってことは、自分でも魔力を使えるってことなのか。……ちょっと待って。それってかなりすごいんじゃないのか?」
「そうですね。私の仮想人格が魔力を得たことで、私の仮想人格を付与する魔法陣を組み込んだ魔道具の使い勝手が向上する可能性があります。もっとも、まだ総魔力量が少ないために効果は限定的ですが」
アイの忠誠紋試験が見事に成功し、アイは魔力を手に入れ、その行使が可能となった。
が、それにより思わぬ副次効果が得られることが分かった。
アイという人格に魔力が宿り、その人格が魔力を扱うことができる。
それは別に人型には限らないということだ。
アイはきれいな女性姿であるのが多くの人の知るところであるが、ほかにもいろんなものに組み込まれている。
たとえば、魔導通信器なんかもそうだ。
ヴァルキリーの角の共振動現象を利用した通信器はもともと一対一のやり取りのみであったが、それをアイの人格を組み込む魔法陣を使って、どの魔導通信器と通話ができるか瞬時に切り替えることができるようになっている。
つまりは、魔導通信器にもアイの人格は関わっているわけだ。
ほかにもいろんな魔道具にアイはかかわっている。
それまでは主に機能の調整や向上のために組み込んでいたアイの魔法陣。
だが、それらは今後、使用者の魔力がなくともアイの魔力で使うことができるようになるかもしれない。
今はまだ、アイの魔力は少ない。
が、今後はさらにアイの魔力が増えていくことは間違いない。
そうすれば、魔道具に更なる革命が起きるかもしれない。
使用者の魔力という燃料を必要とせずに稼働する永久機関の魔力。
それが手に入るかもしれないことに、今更ながら気が付いたのだった。
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