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王になるために

「アル君が王に、ですか?」


「そうなんだ。王になる、ってできるものなのかな?」


 バイデンの町でラムダから言われた一言。

 王になる。

 その言葉が無性に気になった。


 なので、まずはそのことをアイに問うたのだが、オリエント国にある法では王になる方法は明記されていないとのこと。

 まあ、オリエント国は一級市民権を持つ者が議員へと立候補して、それを選ぶための選挙が行われる国だからな。

 王という存在なしで成り立ってきた国だからこそ、わざわざ王になるための方法を法体系としてまとめているなんてことはなかったのだ。


 ならば、法律を無視して勝手に王を名乗るのか。

 名乗りたいなら名乗ればいいだろうし、多分できるだろう。

 だが、いきなり「自分は王様だ」と言い出したやつのことを周囲は認めるだろうか?

 普通に考えて認めたりはしないだろう。


 いきなり世迷言を言い出した愚か者。

 そんなふうに思われるだけで終わることになる。

 そうなったら、どんなに力があろうとも周囲がついてこない。

 別に俺は周囲の評価を気にするつもりもないけれど、だからといって無視する気もない。

 というか、周りからそんなふうに思われたら、まともな統治なんてできないだろうしな。

 それにどうせ王を目指すのならば、少なくともブリリア魔導国あたりからはその地位を認められたい。


 ようするに、俺がほしいのは裏付けだ。

 俺が王を名乗るにあたって、王であると周囲を納得させられるだけの証拠なり根拠があればいいということになる。

 そういうものがあれば、統治が行いやすく、また兵も集めやすくなるだろう。

 というわけで、そういうのを知っていそうな身近な人としてエリザベスに話を聞いたのだ。


 エリザベス自身は王族などではないが、ブリリア魔導国という大国に所属する伯爵家という貴族家の令嬢だ。

 歴史ある名家であり、さらには貴族院でも優秀な成績を収めた才女でもある。

 彼女ならそのような情報を持っているのではないかと思ったわけだ。


「そう、ですね。アル君が王を名乗った場合、それがきちんと承認されるかどうかということが問題である、ということでよいのですね?」


「そうだね。内にも外にも認められるって感じでできたほうがいいかな」


「確かに、それならアル君がいきなり王を名乗ることはやめたほうが良いでしょう。それにはいろいろと理由がありますが、簡単に言えば各国から認められることがないと考えられるからです。小国だけならあるいは力で押さえつけることができるかもしれませんが、大国は無理です。ブリリア魔導国をはじめとして帝国や教国がアル君を王とは呼ばないでしょう」


「だろうね」


「ですが、一定の手順を踏めば、承認を得られるかもしれません」


「方法があるってこと?」


「はい。基本的に大国からすると小国はそのひとつひとつを国であると認めていません。というよりも、規模が小さなために国というよりはそれぞれの地域にある小さな領地程度なのです。ですが、小国家群全体で考えると違います」


「ん?? どういうこと?」


「これまで、歴史上で幾度か大きな国が小国家群を自国に組み込もうと企てたことがあります。しかし、それは現在もなされていません。普段は争い合っている小国がまとまって抵抗してきたからです。つまり、外の国からすると小国というのはどれも小さな貴族領程度にしかなりませんが、一致団結した小国家群全体としてであればそれなりに強力な国として見ることもできるということです」


「なるほど。小国全部で一つの国ってことか。小国に住む連中が聞いたら怒りそうだけど」


「そうかもしれませんね。ですが、そういうふうに大きな国からは認識されているのですよ」


「ふんふん。で、結局リズの言いたいことはどういうことだ?」


「分かりやすく言い換えましょう。アル君が正式な王としての地位を得たいのであれば、小国家群をまとめて一つの国とし、その国で王に戴冠するのが考えうる中で一番良い方法であると私は思います。霊峰の向こうにある国の出身であるアル君は血筋の証明が非常に行いにくく、難しい。ですので、各小国から自分たちをまとめる王であると選ばれるのがもっともよい形なのではないでしょうか」


 エリザベスの言いたいことがなんとなくわかった。

 俺が勝手に王を名乗るのは駄目。

 また、小国自体がどれも大国から見ると弱すぎるというのもあるらしい。

 実際にブリリア魔導国は小国で王と名のつく相手を自国の騎士や貴族と同格程度にしか認識していないというのもあるのだ。


 だが、小国家群全体としてみると違う。

 氾濫は多いものの、それ故に大地は肥沃で食べ物もとれるし、水も豊富だ。

 そんな九頭竜平野を統べる者が現れれば、王として認めざるを得ないだろう。

 そして、そのためには俺は小国から自分たちを統べる王であるとして推挙されなければならない。

 ようするに、小国家群の各国が自分たちの王であると選んだのであれば、それは大国と言えども認めざるを得ないというわけだ。


「うーん。でも、この場合はどちらかというと帝国みたいですね。小国家群にはいくつも王がいる国もありますから。それらから自分たちの代表であると認めさせていくなら、アル君は王ではなく皇帝として人の上に立つほうがいいかもしれませんね」


「皇帝、か。なるほど。王を統べる王ってことね。いいね、それ。じゃ、これからは皇帝になるために動いてみようかな」


 血筋の証明ができなく、王を名乗る根拠を持たない俺。

 そんな俺が王になるためには小国全体から自分たちの上に立つ者であるとして選ばれる必要がある。

 そうしなければ、ほかから王として認められないのだ。

 が、そうなったら、王を名乗る者がいる小国をまとめることにもなる。

 王の上に立つ王、それはある意味で皇帝という存在に近い。


 王になるために皇帝になる。

 よくわからないが、エリザベスとの話し合いでそういう結論にたどり着いた。

 なら、やってみようか。

 こうして、俺の今後の方針が決まったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 俺は王だって人はめったに見ないけれど、私は神だって人は年に何度も見かけるよww
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