自身の強化
「行くのか」
「もちろん。怖いならイアンは来なくてもいいよ?」
「いや、行くさ。どのみち、アルフォンスから離れたら凍死するだけだしな」
ワルキューレに乗った俺が白竜のもとへと駆け出していく。
それにイアンがついてきた。
小型魔装兵器であるアイやノルンもだ。
それを見て、ほかの傭兵たちが少しのためらいを見せつつも後に続いた。
イアンの言うとおり、俺から離れたら吸氷石の効果範囲から出てしまうことになるだけだ。
そうなったら、生きては人間の世界には戻れない。
「ベンの生死確認を行う。最悪の場合は、遺体を持ち帰るぞ」
その傭兵たち以上にためらいを見せていた者にたいして俺が声をかける。
ブリリア魔導国第一王子の側仕えたちだ。
ベンジャミンは単身でオリエント国に来たのだが、それはあくまで貴人一人でということであり、身の回りの世話を行う者たちは同行していた。
そしてそれは霊峰行きでも同じだった。
白竜の住処の手前で俺たちバルカ傭兵団に対してもごちそうをふるまってくれたのは、彼らの働きがあったからこそなのだ。
そいつらはまだ生きている。
ベンジャミンとともに戦う戦士ではなかったことで、傭兵たちと待機していたからこそ無事だった。
雪崩が起こったときも必死にヴァルキリーにしがみついてこの場で俺たちと合流していたわけだ。
俺の言葉を聞いてベンの側仕えたちは口々に言葉を発する。
殿下はまだ生きておられます、などと言っているがどうなんだろうか。
少なくとも白竜と氷竜の戦いは決着がついていた。
魔装兵器でもあり精霊でもある氷の竜は白竜に組み伏せられ、ガリガリとかじられていた。
もともとアイの報告では白竜も氷や雪を吸収するらしいとあったしな。
氷精であっても食べたりするのかもしれない。
まだその氷の体が完全に消えていないからベンジャミン自身は生きている可能性もあるだろうか。
だけど、少なくとも魔力は枯渇している状態だろう。
そんな状態では白竜の体の一部が触れただけでも致命傷を負うことになる。
それを考えたのか、側仕えたちは一刻も早く自分たちの主を助けようと動き始めた。
そんなふうに一団となって氷竜をかじる白竜のもとへと駆けていく。
それに白竜は気が付いていない。
多分、強すぎる存在だからこそなのだろう。
目の前にいる王級魔装兵に気を取られたり、氷竜と戦ったりと、白竜は相手の存在が自身に傷を与えるほどのものでなければ気にもしないのだろう。
赤色で目立つはずの俺たちには何もできないと思って無視しているわけだ。
そして、それはこちらにとって都合がいい。
俺の目的も白竜ではないからだ。
白竜は強い。
そして、その体のどこか一部だけでも手に入れられれば莫大な富や貴重な素材となることだろう。
竜の牙で作った剣などであれば強力な武器になること間違いないはずだ。
だが、俺にとって一番のうまみであるはずの血を吸うということができないのが問題だった。
ほかの魔物もそうだ。
霊峰にいる数々の魔物相手に戦い、その血を魔剣を通して吸い取ったとしても、俺の力は増えていかない。
四手氷猿や氷熊などを倒して氷の魔術を手に入れられることはない。
なので、おそらくは白竜を倒しても同じだろう。
運よく白竜を倒しても、俺はその血を吸い取り自分を強化できないのだ。
ならば、この地で一番俺にとって効率のいい強化手段はなにか、ということになる。
それはまさしくベンジャミンだ。
最初に会ったとき、ベンジャミンの強さは分からなかった。
だが、白竜と激闘を繰り広げたことで、彼の強さはよくわかった。
王級魔装兵や魔装兵器の使用を含めたとしても、一時的にあの竜と対抗できる力があったのは、間違いなく彼の豊富な魔力量にあったのだ。
ベンジャミンの魔力を手に入れる。
それがこの地で俺が力を増すことができる一番の方法だった。
なので、行方が分からないベンジャミンを探す。
「においをたどれ、追尾鳥」
雪崩が起きた霊峰という極寒の世界。
白一面の中で白竜と氷竜が激闘を繰り広げ、そのたびに大地が揺れ、積雪が舞い、どこに何があるのかも分からなくなっている。
そんななかで生きているのかどうかも分からないベンジャミンを探すのは非常に難しい。
ベンジャミンの魔力が普段から抑えられていて遠方からでは視認もできないのがさらに捜索の困難具合を高めていた。
だが、そんななかでもベンジャミンを雪の中から探しだす方法はあった。
それは、俺がもつ使役獣だ。
たとえ距離が離れていようとも相手のにおいを感知してそれを追跡できる特性を持つ使役獣。
それが迷いなく霊峰の空を飛ぶ。
その先には間違いなくベンジャミンがいるはずだ。
「ベン、大丈夫ですか?」
白竜の動きを視界に入れながら警戒しつつ、全速力で追尾鳥を追いかける。
そして、その先にいた。
雪の中でうつぶせに倒れているベンジャミンを発見する。
先頭を走る俺がそこに一番に到着し、すぐさまワルキューレの背中から飛び降りてベンジャミンの体を抱き起した。
かすかに体温が感じられた。
胸が上下に動いていて、わずかに息をしているのも感じる。
生きていたのだ。
この雪の中を。
そんな九死に一生を得たベンジャミンの体に俺は彼の側仕えたちからは見えない角度で魔剣を突き刺し、その血をすべて吸い取ったのだった。
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