増援防止策
「アルス様、進言したいことがあります。よろしいですか?」
「リオンか。どうしたんだ?」
「はい。このたびのアルス様の活躍によってアインラッドの丘の攻略は想像以上に早く進むことになると思います。ですが、それでもアインラッドの丘はすでにウルク家が占拠して数年たち、要塞化も進んでいます。簡単に終わるものではないと考えます」
「うん。そうかもな」
「流れとしては丘の周囲の村を奪還し終えたら、丘の攻略に取り掛かることになります。ただ、どれほど早くとも攻略できるまでは月の満ち欠けが一巡するくらいはかかることになるでしょう」
「まじか……。そんなに時間がかかるのか。俺新婚さんなんだけど」
「知っています。ですが、それは置いておきましょう。アルス様はカルロス様より攻略戦そのものは参加せずとも良いと言われたとか。それは確かですか?」
「ああ。そうだ。こっちは騎兵メインだから要塞化した丘の攻略なんて参加したくないしな。都合いいだろ」
「ですが、何もせずにいればいいというものではありません。まずはフォンターナ軍が丘の攻略に専念するためにも陣地を完全にしておくのが望ましいでしょう。そのうえでしておきたいことがあります」
「しておきたいこと? なんだそれは」
「敵の増援を食い止めることです。ウルク家の戦力はこのアインラッドの丘だけにあるわけではありません。ここを要塞化した意味はウルク領からの増援が来るまで持ちこたえるためにあると言えます。必ず増援が来るでしょう」
「あれ? 増援を止める役割を与えられたやつは他にいるだろ。フォンターナの街から出発した兵はここだけに集まったわけじゃないぞ。増援を止める別働隊はすでにカルロス様が命じて出したはずだ」
「そうですね。ですが、それはアインラッドの丘よりも北の街を攻撃してウルク家の目をそちらに向けるという意味も含まれます。増援を完全に防ぐことはできません。ですので対策しておくべきです」
「そうか。わかった。なら、増援を防ぐ方法も考えとくよ」
カルロスからウルクの魔法剣である九尾剣をもらって、スキップしながら自分の陣地に帰ってきた俺。
だが、その俺に対して意見を言ってきたものがいた。
今年俺と兄弟の関係となったリオンだ。
どうやら彼は現在の状況を把握した上で、次に取るべき行動を考えていたらしい。
俺としては攻略戦に参加しなくていいと言われた時点で仕事終わりのサラリーマンのような気持ちになっていたのに、えらい違いだ。
だが、その意見は一考の価値ありといったものだった。
ウルク家からの増援部隊か。
確かに、増援がないと考えるのは間違いだろう。
必ず攻略されている丘を助けるために援軍がやってくることになる。
カルロスの打った事前の策では別の地点でも戦闘を起こして、助けに来る余力を奪うというものだった。
だが、それも現状では微妙な効果しか発揮しないかもしれない。
なんといっても、俺がすでに一戦おっぱじめてしまって敵将を討ち取ったのだから。
別働隊に目が向くかこちらに目が向くかは微妙なところだ。
やはり、敵増援が来たときのことを考えておくべきだろう。
俺はリオンの進言を受けて、その対策を考えることにしたのだった。
※ ※ ※
「……アルス様。敵の増援を防ぐべきだ、といったのは私です。私ですが、まさか、こんなことをするとは考えもしませんでした」
「なんだよ。これなら敵増援を食い止められるだろ? なんか問題あるのか?」
「いえ、問題はないのですが……。ちょっと自分で自分の見ているものが信じられないというか……」
「そうか。まあ、ちょっと大掛かりすぎたかなとは俺も思うよ」
「大掛かりという次元ではないと思いますよ。まさか、増援を防ぐために丘を壁で囲むだなんて、普通は誰も考えませんよ」
「まあ、バルカ軍は壁を作るのが仕事みたいなところがあるからな。だんだんみんな慣れてきたし、作業効率も上がってきた。いい傾向だよ」
俺がリオンに敵の増援を防げ、と言われたためその対策を考え、実行した。
それを見たリオンは口をあんぐりと開けて、ありえない、とつぶやいている。
まあ、それも当然かも知れない。
俺がとった敵の増援部隊を防ぐという方法は、現在攻略中のアインラッドの丘そのものを壁で囲ってしまうというものだったのだ。
周囲の村を抑えてから、いざ攻略戦にとなって、実物の丘を実際に見たのだが、俺からすると丘というよりも小さいが山という感じだった。
いくつかの丘を登るルートがあるのだが、それ以外は結構岩などが転がっていたりして登りにくくなっている。
登りやすいルートには検問となるように防御壁が作られており、そこに至る道は狭く、上から弓矢で攻撃されやすくなっている。
なかなか一筋縄で攻略できそうになく、時間がかかるというリオンの意見はもっともなものだと感じた。
やはり持久戦は避けられないらしい。
必ず増援はやってくるだろう。
それだけの時間をこの要塞化された丘は稼ぐに違いない。
だが、その増援を数の少ないバルカ軍が押し止めることは難しい。
であれば、敵増援部隊を迎撃するのではなく、増援が丘へとたどり着けない状況にすればいい。
そう考えて丘の周りに【壁建築】をしまくったのだ。
ウルク家が増援に来たときに通りそうなルートから壁を作り始め、最終的には丘をグルっと一周回るように壁を造っていった。
もちろん、完全に壁が囲っているわけではないのだが、こちらには俺が造る壁よりも高い塔と遠距離を見渡せる双眼鏡がある。
どこから増援がやってきてもひと目で見つけて、壁を利用しながら迎撃することが可能となる。
攻略する側も安心して攻撃に専念できることだろう。
「リオン、これで終わりじゃないぞ。あくまでもこの壁は増援を丘に入らせないためのものだからな。周囲の警戒もしっかりしとかないといけないぞ」
「周囲警戒ってバイトさんの巡回ですか。あれはどこまで行ってるんですか?」
「一応、日帰りでここに帰ってくることができるところまでだっていいつけてある。そんなに遠くじゃないだろ」
「日帰りといってもヴァルキリーに乗ってでしょう? いったいどんな距離を走らせているんでしょうね」
壁がある程度完成してからは外にもバイト兄を出している。
バイト兄としては壁造りという作業は物足りないのだろう。
丘の周囲の村などに出かけて、ウルクの増援が来ないかどうかを確認しに行っている。
ヴァルキリーに乗って遠乗りすれば、多少は鬱憤も晴れるはずだ。
こうして、俺はカルロスがアインラッドの丘を攻めている間、周囲警戒を続けていたのだった。
お読みいただきありがとうございます。
ぜひブックマークや評価などをお願いします。





