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威圧外交

「こちらをご確認ください」


「……確認しよう」


 拠点にいるオリエント軍のもとへとやってきたグルーガリア国からの使者。

 その使者が俺の前に出て、持ってきたものを検めさせた。

 いくつもの桶だ。

 その桶には丸い物体が納められていた。

 いくつかの桶を覗き見て、他の者へと目くばせをする。


 どうやら、グルーガリア国内での内部争いに勝利したのは反ミディアム派のようだ。

 そして、それらの連中と対立していたミディアム派は当然敗れたことになる。

 敗者となったミディアム派、とくにヘイル・ミディアムを中心とした面々は命を落とし、そして今俺の目の前に晒されている。

 つまりは、証拠品として俺のもとへと持ち込まれたのだ。


 ようするに桶に入っていたのは人の首だ。

 あんまり気持ちのいいものじゃないな。

 戦場で戦って勝つのとは違う。

 が、それはそれとして確認をしなければならない。

 オリバやほかのオリエント兵でグルーガリア国の人間の人相を知っている者たちを中心にして確認をとらせる。

 しばらくはそんなことをして、ミディアム派と言われる主だった連中であることが確認された。


「我らグルーガリア国とオリエント国がこのように争い合ったことは誠に遺憾です。愚かにも私怨を持ち出して交戦状態に陥らせた者たちは我らが処断いたしました。で、あるのでどうか和平を結びたいと考えています」


「分かった。だが、ただでとはいかない。こちらもそれなりの損害が発生したからな。相応の賠償を支払ってもらわなければならない」


「……分かっております。賠償金とともに柔魔木の伐採権を認めます」


「舐めてんのか? そんなんじゃ全然足りないぞ」


 当然だな。

 それは宣戦布告した際に俺が提示していた条件だからだ。

 だが、その条件はグルーガリア国との戦いを回避するためのものであって、交戦した後の和睦条件としては弱すぎる。

 すでに材木所のある中州はこちらが押さえているし、もっと条件を引き出していこう。

 その後はしばらく使者と話し合うこととなった。

 逃がしはしない。

 徹底的に搾り取ってやろう。

 首の入った桶を横にして、俺たちは長い時間交渉を重ねたのだった。




 ※ ※ ※




『中州の所有権と伐採権、および戦闘にかかった費用と命を狙われたことによる賠償金。さらにはグルーガリア国内にある町や村の領有権でござるか。話に聞いただけでもグルーガリア国の大部分を奪い取ったのではないでござるか、アルフォンス殿? 失礼ながら、そこまでアルフォンス殿に交渉力があるとは思わなかったでござるよ』


「言ってくれるね、バナージ殿。まあ、グルーガリアが出してきた使者の選び方が悪かったんだろうね」


『送り込まれてきた使者が、でござるか? その者には確か拙者もお会いしたことがあったでござるが、交渉術にたけ、深い知識を持つ人物だったと記憶しているでござるよ』


「そうだ。グルーガリアは俺との交渉に口が達者な人物を選んで送ってきた。多分、俺の機嫌を損ねないためだろうね。これ以上、戦闘にならないように交渉を成立させるのを第一に置いた判断だったんだろう。だけど、それがあだとなったね。俺を相手にするならもっと気の強い者や武人を連れてきたほうがよかったと思うよ」


『ああ、そういうことでござるか。アルフォンス殿の得意とする【威圧】でござるな。たしかに、かの御仁ではアルフォンス殿に気圧されたら抵抗できなかったかもしれないでござるな』


 グルーガリアとの交渉はうまくいった。

 使者がこちらの言い分をのんで首を縦に振るまで交渉し続けたのだ。

 そして、そのとき大活躍したのがバナージの言うように【威圧】だった。

 話をしながら、こちらの意見を通すときには相手の胸にめがけて鋭く尖らせた魔力の槍を叩きこむ。

 そんなふうに交渉中ずっと相手に圧力をかけ続けたのだ。


 もちろん、相手もグルーガリアの人間だ。

 幼い頃より弓術をたしなみ、それなりの実力を持っているのだろう。

 だから、多少は耐えられていたが、それだけだった。

 俺との交渉にたいして交渉術の得手不得手で選抜したからか、ヘイルよりは数段落ちる実力の者では【威圧】に対抗しきれずにこちらの要求に屈することとなった。


 その結果、グルーガリア国の領土の多くを削って奪うこととなった。

 全部ではない。

 全部奪おうとすれば、さすがにいかに圧をかけられても首を横に振らざるを得ないからだ。

 だから、相手から奪い取れるギリギリのところまで踏み込んで、折り合いがつくところで決着させた。


『よい判断でござるよ。もし、欲をかきすぎればいらぬ介入を招いたでござるからな』


「やっぱり? バナージもそう思うんだ。でも、そういうことは逆に今のところは介入がないってことでいいんだよな?」


『拙者が調べた範囲では、でござるがな。もし、戦いが長引くことがあれば、大国が介入する可能性があったでござるが、現時点では確認できていないでござるよ』


 大国の介入。

 小国家群が大国に飲み込まれずにいくつもの国に分かれて残っている理由の一つだ。

 小国家群に大国が攻めてきた場合、小国はそれまで争っていてもまとまって戦うことがある。

 それはある意味で、今回のグルーガリア国が十を超える援軍を集めてオリエント国と戦ったことと似ているだろう。

 それによって、小国家群は大国からの魔の手をはねのけてきた。


 が、これまで小国家群が一つの国としてまとまったこともない。

 それは、どこかの国が突出すると秘密裏に大国が介入してきたからだ。

 いわゆる代理戦争とでも言おうか。

 強くなったどこかの小国にたいしてそこと敵対している小国に大国からの援助という介入がはいることで、小国家群はいつまでも小国が乱立している状態が続いている。

 小国家群は自立しながらも大国からの影響は非常に強く受ける土地柄なのだ。


 だが、その微妙な均衡が崩れる日も近いだろう。

 オリエント国がグルーガリア国に勝ったからだ。

 オリエント国は軍の頂点に立つ俺がブリリア魔導国の貴族と婚姻関係を結ぶことになっている。

 つまり、それは小国オリエントがブリリア魔導国寄りの国として台頭することを意味していた。

 そんな国が複数の国から援軍を集めたグルーガリア国に勝利したのだ。

 それを面白く思わない大国もあるだろう。


 なので、それらの国から余計なちょっかいが入る前に戦いを終わらせる必要もあったわけだ。

 こうして、ガロード暦十四年の冬、オリエント国はグルーガリア国に勝利し、国土を増やして一年を終えることになったのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 舐めた事言う奴はいきなりぶった切るのがバルカ家の伝統ではないのか(スットボケ
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