川岸の拠点にて
『戦況はどうなっているでござるか、アルフォンス殿?』
「オリエント軍はここ最近はずっと拠点での防衛ばかりだね。【壁建築】で逐一拠点の壁を作りなおしていっているから、だんだん拠点面積が大きくなっているくらいだよ。ま、今のところは守りに専念すれば大丈夫かな。川からの補給はこっちがおさえているから食料に不安はないしね」
魔導通信器でバナージと話をしていた。
グルーガリア国との戦いでは、援軍であるイーリス軍との戦闘後はこちらの防衛戦となっている。
ほかの小国からも次々と軍がやってきたからだ。
グルー川の川岸に作った拠点を取り囲むようにして、小国軍が攻撃を行ってくる。
三千人に満たないオリエント軍の防衛にたいして、集まった小国軍は数万をこえている。
三倍差を優に超える攻撃陣による攻城戦だ。
だが、それは今のところ突破されていない。
やはり、壁を作れるというのが大きいだろう。
魔導通信器を使い、戦場のあらゆるところに瞬時に指示を出して守りの壁を作らせることで、むしろ包囲されているのに陣地を広げることにも成功していた。
そんな攻防をすでに数月ほど過ごしている。
普通ならばそこまでもたないだろうが、オリエント軍がきちんと防衛できているのはやはり川での輸送を確保できていることにある。
食料や迎撃のための矢などの物資が常時補給されているので、非常に戦いやすいのだ。
さらに言えば、この防衛戦では俺も【回復】を使いまくっている。
年金制度を定めて特定の条件を満たした人にしか俺が【回復】を使わないと規定したのだが、今は特例として陣地内でともに戦い大怪我をした者には【回復】を使って治療を行っている。
なので、防衛側にはそれほど死者というのは出ていない。
こうなったら、困るのは攻撃側だろう。
普通ならば包囲戦というのは攻撃しないことも多い。
周りを取り囲んで、補給を断ち、相手が食糧難で力が出なくなった状態でいよいよ攻め込むというのが一般的な戦術となるからだ。
だが、いつまで待ってもオリエント陣地内では士気も下がらない。
毎晩、相手を寝させないように大きな音をたてても、【瞑想】のおかげで精神的な負担も与えられないからだ。
『守りは完璧ということでござるか。その分では、先に食料が尽きるのは包囲している小国軍のほうで間違いなさそうというわけでござるな』
「そうなりそうかな。意外とアロンダルがやり手でね。うまく、食料の調整をしてくれているんだよ」
『食料の調整? どういうことでござるか? イーリス軍のアロンダル殿はアルフォンス殿について、グルーガリア国の食料を荒らしているはずではないのではござらなかったか?』
「そうなんだけど、本国であるイーリス国に向けて自分たちはちゃんとやってますって見せかける必要もあるからね。十剣士三人を失ったアロンダルたちは後方支援をするとほかの小国軍に伝えて、食料確保に動いた。で、こっちの陣地を取り囲んでいる小国軍にたいして、軍勢をギリギリ維持できない程度に集めた食料を送っているんだよ。だんだんと送る量を減らしながらね」
『なるほど。本国や小国軍にオリエント軍と連携していることを怪しまれないようにというわけでござるな』
「そういうこと」
アロンダル隊はグルーガリア国やその周辺国から食料を集めている。
一応、対外的にはまだグルーガリア陣営という立場に立ってだ。
小国軍に食料を送るために集めるから、ほかの軍は安心して包囲してくれと言いながらも、集めた食料を全て送っているわけではない。
怪しまれないように、けれど、少しずつ包囲している軍勢がやせ細るように調整しながら食料を送っているのだ。
そして、その間にも周囲の土地からは食料は消えていっている。
今も、オリエント国が高値買い取りをしているからだ。
アロンダル隊が部隊を率いて各地の村や町で徴収しようとする食料。
それらは基本的には無理やり持っていかれるか、安値で引き取られる。
が、住民からするとたまったものではないだろう。
なるべく高く買い取ってくれるオリエント国に売ったほうが実入りがいい。
だから、村や町の人間はアロンダル隊には食料を提供したくないと拒否の姿勢を示す。
が、それはグルーガリア側からは利敵行為となるわけだ。
だから、食料提供を拒否した者をアロンダル隊が武力行使することとなる。
敵に与えるくらいであれば焼いてしまえとばかりに、米を燃やすのだ。
グルーガリア側の総意として。
おかげで、周辺の土地からは食料は次々と消えゆき、そして、グルーガリア側の評判は地の底にまで落ちていっている。
「で、バナージ殿が連絡してきたってことは、いよいよ成功しそうってことかな?」
『そうでござる。お待たせしたでござるな。イーリス国に向かった者からの報告でござるが、ようやく切り崩しが完了したようでござるよ。イーリス国はオリエント国の味方となることになったでござる』
「本当にようやくって感じだな。外交ってのは時間がかかるものなんだな」
『相手の国内事情あってのことでござるからな。そればかりはしかたがないでござるよ』
「ま、そうだね。なんにしても、包囲側の食料確保を担当しているアロンダル隊がオリエント国につくことになるんだ。外の連中はそれを知ったら慌てるだろうね。もちろん、グルーガリアも。そうなったら、戦況はまた動きそうだ」
アロンダルによって調整された貧弱な補給。
小国軍の胃袋を満たすことのないそれは不満もあったことだろう。
だが、目の前に戦うべき相手がいるからこの場を離れるわけにもいかなかった。
だというのに、食料確保に動いていたイーリス軍が相手につくという。
そうなったらどうなるだろうか。
おそらくは、これまで貯め込んだ不満が爆発してしまうことになるだろう。
食べ物がないのはつらいからな。
腹を満たすためには自分たちで動くしかないとなれば、この場を離れて食料を求め軍が動くかもしれない。
グルーガリア国内、およびその周辺に飢えた軍がさまようことになる。
一応、オリエント国にそれらが来ないようにだけ注意しておこうかな。
陣地内で外の様子を観察しながら、俺はさらにバナージとその後のことについて話し合ったのだった。
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