アロンダル隊
「ほかの奴も投降するみたいだな」
俺がアロンダルと戦い、そして倒した相手を自陣営に引き込むことに成功している間にも、状況は動き続けていた。
俺と一緒に貧民を含めてイーリス軍を攻撃したオリエント兵は多くの兵を倒していた。
が、やはり相手の数が多かったのもある。
すべての相手を追いかけて殲滅することはできていない。
それは投降してきた者もいたからだ。
俺がアロンダルの治療を行ったからだろう。
目の前でイーリス国が十剣士の一人である剣の達人が倒された。
しかし、真っ二つに斬られた達人は倒した相手に助命を乞い、そしてその体を治してもらったのだ。
明らかに死ぬしかない状態になった体を治してまで敵将を助けた。
その光景を見たイーリス兵たちは白旗をあげたのだ。
今ならば自分たちも命が助かるかもしれないと思ったのだろう。
この東方には国際法と呼ばれるものがある。
基本的には大国などによって形作られた国家間における決まり事ではあるが、それを多くの小国も守る。
そのなかには降伏の仕方や、降伏した相手を助けるものがあり、白旗もその決まりの一つだ。
オリエント兵は白旗をあげたイーリス兵相手に対しての攻撃を中断し、この場は小康状態に落ち着いた。
そして、こちらが落ち着いたからか別の場所での戦闘の様子も分かった。
イアンがいるほうだ。
俺がこちらに襲撃をかけたのを見計らって、イーリス軍本陣に向かっていったイアンとオリエント軍。
そちらでは大きな音が響いていた。
アトモスの戦士が巻き起こす破壊音とそれを迎撃しようと動く者の戦いだ。
どうやら、向こうはまだ終わっていないようだ。
今も大きな音が聞こえてきている。
が、先ほどまでよりは大きな音がする間隔があいているような感じだ。
「本陣にはアロンダル以外の十剣士がいたりするのか?」
「この軍にはほかに三人が参戦しているが、たしかに今は本陣のほうにいるはずです」
「もしもだよ? ほかの十剣士と戦えって言われたら、アロンダルは戦えるのか?」
俺が味方になったアロンダルへと問いかける。
剣の道を極めたい。
その思いで、瀕死の状態から俺に助けを求めて命を救ったアロンダル。
その際にノルンが含まれる血と魔石まで埋め込まれて、誓いをたてている。
が、それでも相手の心情を完全に縛ることなどできはしない。
ついさっきまでは仲間として行動していた同郷の者。
そいつらと戦うことができるのかという俺の問いかけにアロンダルはすぐに答えた。
なんの気負いもなく、当然のことのように。
「愚問ですな。我が身は全て貴殿のために使うと誓ったばかり。いや、あえて私からもやらせてほしいと頼むべきか。こちらの忠誠を示す絶好の機会でもある。私に行かせてくれないだろうか、我が主よ」
「よし。じゃ、本陣のほうがどうなっているのか分かんないけど、こっちからも加勢に向かおうか」
なんかあれだな。
アロンダルのなかではもう気持ちに整理がついているんだろうか。
あっさりとそれまでの味方だった者と戦う決心がついているようだった。
だが、その言葉をそのまま信じるのは駄目だろう。
ちょっと前に行動をともにしたヘイル・ミディアムが背後から攻撃してきたんだからな。
イーリス軍本陣にはアロンダルから突っ込んでいってもらうべきだろうか。
「お待ちください、アロンダル様。我らもお供いたします。ぜひ同行させてください」
俺とアロンダルが本陣に行くための話をしていた時だった。
白旗を上げ、オリエント軍へと投降してきた者のほうから声が上がる。
すぐにオリエント兵に取り押さえられていたが、まだなにかを叫んでいる。
「あれは?」
「我が配下の兵です。どうでしょうか? もし主殿の許しが得られるのであれば彼らも連れていってやりたいのですが」
「うーん。ま、いいけど、もしあいつらが裏切ったら許さないよ? 白旗をあげた捕虜であっても遠慮はしない。それでもいいならかまわない」
「感謝します、主殿。彼らにはよく言って聞かせます。では、急いで再編成を行いたいと思います」
アロンダルのもともとの配下だという捕虜になった兵たち。
そいつらも、アロンダルとともに連れていくこととなった。
こいつらはアロンダルと違って誓いをしていない。
数が多い相手に一人ひとり誓わせていくのは時間がかかるからだ。
だが、アロンダルによる統制がとれているからか、再編成したアロンダル隊とも呼べるイーリス兵たちは、近くにいるオリエント兵の存在に気を取られながらもすぐにまとまって行動を行い始めた。
こうして、別動隊としてイーリス軍に攻撃を仕掛けた俺たちはアロンダル隊を吸収した状態でイーリス軍本陣にいるイアンのもとへと加勢に向かったのだった。
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