血に飢えた者
「あっけないな。こんなんじゃ、全然すっきりしないぞ」
ギルバートを倒した。
ぺリア軍を指揮しておびき出したバルカ傭兵団を追い詰めていた者。
直前までは傭兵団団長にしてオリエント国の国防長官兼護民官である俺を倒したものだと喜んでいたぺリア軍は今は一転して静まり返っている。
全身に棘で差し込まれたような穴が体にあいて、そこから血を吸い取られてしまった男の姿を見てなにもできずにいた。
だが、俺はそのギルバートの姿をみても気持ちが晴れなかった。
魔法鞄という超貴重で大切な装備が壊されたこともそうだし、倒し方もそうだ。
勝ちはしたが、戦ったという感覚が薄い。
やっぱり武器を持っての戦いや頭を使っての戦術ではなく、一方的に倒しただけなのが面白くないのだろう。
「集まれ、ノルンたち」
周囲が静まり返っているからか、俺の声がよく通る。
一言発したら、周囲にいたぺリア軍に緊張が走ったのが分かった。
そんなぺリア軍のことなど、全く気にかけていないとばかりに俺のもとに集まる赤の騎兵たち。
ギルバートを倒すための原動力になったこのノルンたちを、俺は手で触れ、そして体の中に取り込んだ。
「……ふん。まあ、こんなもんかな」
騎兵として独立した活動をさせていたノルンたちから血を回収したことで、【反撃盾】によって失われた血液の補充を行う。
だが、こんなものでは足りない。
以前、周辺五か国からの攻撃を受けて撃退した時に集めた血が、結構失われてしまっていた。
今回のギルバートとの戦いで魔剣と鎧ごと血が吹き飛んだし、それに【ラッセンの獄炎釜】の中にノルンを送り込んだことも関係している。
あの時も、超高温の地中へとノルンが潜り込んで、結構な量の血が蒸発してしまっていた。
なので、もっと血がほしい。
今の俺は血に飢えていた。
「バルカ傭兵団に告ぐ。ぺリア軍を殲滅しろ。ここにいる奴ら、誰一人逃がさず、その血を奪い取れ」
ギルバートを倒したくらいでは気が済まない。
というわけで、傭兵たちに檄を飛ばす。
全方位に【威圧】をかけるように声に魔力を乗せて、こちらの意志を知らしめる。
味方にも敵にも分かりやすく、俺が何をするのかを伝えた。
この場にいるぺリア軍を全滅させる、と。
ギルバートと同じようにぼろ雑巾のように血の一滴まで搾り取られて死ぬ未来を宣告した。
これにより、ぺリア軍の士気は完全に崩壊した。
この場にいた騎士たちも含めた本陣の連中たちがギルバートの死体を放置してでも逃げようと動き出す。
抵抗して戦おうにも血の霧を見せられて対処できないとでも思ったのかもしれない。
我先に壁の中の都市に逃げ込もうと動き出す。
だが、そう簡単には逃げられない。
なぜなら、俺とギルバートが戦う直前に、本陣周辺をワルキューレが壁で囲っていたのだから。
その壁と壁の隙間から血を吸われないようにと逃げようとぺリア軍本陣の兵が殺到していく。
そこに俺たちが猛攻を加えた。
逃げようと背を向けているので攻撃するのは容易い。
戦果を拡大していく。
それでも、壁の隙間を通って逃げる者はいた。
その姿に囲いの外のぺリア軍の兵たちが驚愕する。
つい先ほど、俺を倒したとギルバートが高らかに宣言したと思ったら、痛々しい悲鳴と叫び声が聞こえてきた後、俺の死刑宣告が告げられたのだ。
なにごとか分からないが、よくないことになっているというのは理解していたのだろう。
そして、実際に本陣にいた強力な実力者であると思われていた騎士たちまでもが、必死に逃げる姿を見せている。
これによって、五千ものぺリア軍は完全に秩序を失った。
自分たちが負けたのだということだけを理解して、各々が逃亡する。
「パージ軍へ伝令。【壁建築】を使って逃げる連中を押しとどめろ。ワルキューレもそれを手伝ってやれ」
一応、逃げる先にいるパージ軍にも気を配る。
雪崩のようにぺリア兵が走ってくるのは危険だからな。
こちらの危機にかけつけてくれたパージ軍に損害が出ないように、【壁建築】をうまく使ってほしいと魔導通信器を使って伝えておいた。
うちの傭兵が帯同しているだろうから、パージ軍を指揮している者に伝わるだろう。
また、ワルキューレにもそれを手助けしてもらう。
どうやら、こちらの指示はうまく伝わったようだ。
というか、パージ軍もなかなかどうしてうまく統制がとれているようだ。
数は千と多いわけではなかったが、無理せずに堅実に戦っていたのか損害もそれほど出ていないようだった。
それに、俺からの指示を聞いてすぐに壁を作り、逃亡するぺリア軍の行く手を阻むようにしていく。
おかげで逃げようとするぺリア兵の足を止められていた。
そこに俺たちがさらに追撃を仕掛ける。
俺は魔剣で、バルカ傭兵団は敵を倒しながら、手のひらから血も吸い取っていく。
そのたびに力を少しずつ増していく。
塵も積もれば山となるっていうしな。
騎士一人を倒して血を吸うほうが効率がいいとは言え、そこらの兵から血を吸い取っていくのも一歩ずつ強くなっていくことにつながる。
この地にある血は一滴も無駄にせずに俺たちバルカ傭兵団の糧となってもらおう。
こうして、敗走するぺリア軍を攻撃し、その血を吸い取っていったのだった。
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