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小さな巨人

 グルーガリアからやってきたヘイルたちと合流した時のことだ。

 その時点で、敵か味方かはっきりとは分からなかった者たちと行動をともにすることにした保険として、本来合流予定だったパージ街からの軍には別行動をとってもらっていたのだ。

 それができたのも、魔導通信器があったからこそだろう。

 パージ街にもバルカ教会はあり、そこに遠距離でも連絡を取り合える者がいたからこそ、パージ軍と話がついていたのだ。


 魔導通信器はヴァルキリーの角の共振動現象を利用して作る魔道具だ。

 ヴァルキリーの角だけでは同じ形に加工した角同士でしか通信できないが、それにアイの魔法陣の一部を組み込むことで複数の通信器に連絡先を切り替えて話をすることができる。

 つまり、これも腕輪の魔道具と同じで、アイの管理下にあるわけだ。


 そのため、俺はぺリア軍と交戦状態に入ってからは常に魔導通信器を作動させ続けていた。

 それは別に誰に通信するというわけでもない。

 が、あえて言えば作動状態ではアイが俺の声や周囲の音声を拾って状況を把握できているということでもあった。

 つまり、なにが言いたいのかというとアイはこの場にいないにもかかわらず、この戦場で起こっている状況を常に把握できていたのだ。


 俺たちがぺリア軍に突撃をした直後にパージ軍が参戦してきたのは、別にただの偶然でもなんでもない。

 パージ街にいた傭兵の一人が魔導通信器を用いてパージ軍に同行していて、こちらの突撃に合わせてぺリア軍の背後から攻撃を仕掛けたのだ。

 魔導通信器によって状況を正確に把握できているアイからの指示があったからこそだろう。

 その数は千ほどでぺリア軍の総数と比べると若干心もとないが、それでも後ろから急襲できたことで一定の戦果をあげている。

 確実にぺリア軍は動揺し、隙を見せている。


「やるぞ、ノルン」


 その絶好の好機を逃さずに、ぺリア軍中央にいる総指揮官めがけて全力を出す。

 ワルキューレに騎乗していた俺の姿がさらに一回り大きくなった。

 それまでの鮮血の鎧がちょっと大柄な成人男性くらいの体格だったのが、ググっと大きさを増していく。

 ワルキューレの背中に乗れる大きさ、かつ、速度を落とさずに走れるギリギリのところまで巨大化した。

 さすがにイアンのようなアトモスの戦士と比べると小さいが、それでも普通には絶対に見ないような巨体へと変貌する。

 へんな言い方だが、さながら小さな巨人といったところだろうか。


 それまではノルンが動かしていた鎧。

 その中にいた俺は自分の体を自分の力で動かしていなかったので休めていた。

 が、もはや休憩は終わりだ。

 今度は【慈愛の炎】でさらに高めた身体能力にノルンの力を連動させて鎧を動かしていく。

 それはまるで、それまでは金属鎧のような防御の役割を担っていた血の鎧が、体を動かす補助の筋肉となったような感じだろうか。

 小さな巨人となった俺の外殻が、その巨体には見合わない機敏な動きで動き始めた。


 血の鎧を大きくしたことで、さらに手に持っている武器も大きく変えておく。

 先ほどまでは馬上突撃槍のような形に魔剣を変化させていたが、今度は普通の剣の形だが三メートル以上もある剣身の魔剣としてワルキューレの上から振り回した。

 重く鋭い血の大剣の攻撃で、盾や鎧ごと目の前の相手をなぎ倒していく。


 背後からパージ軍の攻撃を受けてそちらに意識を向けていたのに、今度は自軍内部に小さな巨人が現れたことでふたたびこちらに意識が向いた。

 が、その意識もさらに他へと分散される。

 俺だけではなくほかの赤の騎兵までもが大きくなり始めていたからだ。

 あっちも鮮血兵ノルンだからな。

 大きさは変えようと思えば変えられる。

 もっとも、俺のように内部の肉体の身体機能が上乗せされていないので、ほかの赤の騎兵は見た目だけの変化なのだが、それでも十分に効果があったようだ。

 一度は止められていた傭兵たちも再び前に進み始めた。


「お前ら、なるべく血を吸っていけよ。とくに騎士相手はな」


 少しずつ進み始めた傭兵たちに声をかける。

 これまではぺリア軍の中を進むために、前に行くことだけに集中していた。

 だが、今は目の前に力のある相手が立ちふさがっている。

 傭兵たちでは力負けする生まれ持った魔力量が豊富な連中がいるのだ。


 だが、パージ軍のおかげでほかの部隊もそれらの騎士に傷をつけることに成功していた。

 だから、血を吸うように指示を出す。

 アルフォンス式強化術の本領発揮だ。

 バルカ傭兵団の傭兵たちには赤黒い魔石に俺の血を入れて、肉体に取り込ませている。

 そのため、俺と同じように相手の血を吸うことができるようになっているのだ。

 魔剣を出すことはできはしないが、手のひらから血を取り込むことができる。


 ここにいる五千のぺリア軍全員から血を吸うのは戦いながらでは到底無理だ。

 が、弱い兵ではなく魔力の多い強い兵であれば多少の手間をかけてでも血を吸うほうが得策だろう。

 血を吸えばその分自分たちの魔力が増え、より強力になっていくのだから。


 ほかの部隊も目の前の騎士に傷をつけ、その傷から出た血を取り込んで対抗している。

 が、特に多く血を吸うことができているのは、俺と行動をともにしている傭兵たちだった。

 小さな巨人となった俺が目の前の騎士を倒し、その倒れた騎士の肉体から傭兵たちが数人で干からびるほどに血を吸い上げる。

 そうすると、今度はそいつらも騎士相手に戦えるだけの魔力を手に入れられる。

 強化された傭兵たちが周りの騎士を倒し、さらに力を蓄えていく。


 そんなふうに戦いながらも強化されていくこちらの部隊がついにぺリア軍中央にまでたどり着くことに成功したのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 吸血部隊!
[一言] アイのおかげとアルフォンスは考えながら戦うのと比べ、戦好きではないけど基本戦略がまとめて殲滅や族滅なアルスの物語の方が脳筋ぽくなってきましたねー
[一言] 赤。 吸血部隊。 ううぅぅ、頭が…
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