教会襲撃
「不届き者が現れたようですね、アルフォンス様」
「エルビスか。うん。ぺリア国でバルカ教会が攻撃を受けた。目的はお金、っていうよりも銀だな。エンを銀と交換するって話から、教会建物に銀が保管されているだろうってことで動いたみたいだ」
「お金のことはどうでもいいのです。バルカ教はあのアルス様を神として崇めているのです。そのバルカ教を攻撃するのは、このエルビスが許しません。ぜひ、神への反逆者どもへの鉄槌をこの私に任せていただきたい」
「いや、俺も行くよ。これは聖戦だからね。教会に攻撃した者はどうなるか、知らしめてやらないと。一緒に行こう、エルビス」
「はっ。このエルビス、二度とこのような不届き者が現れぬように徹底した裁きをぺリア国の連中に下してみせましょう」
時は来た。
エンというこれまでになかったお金を発端にした騒動が現実のものとなった。
その記念すべき最初の国はぺリア国だ。
ぺリア国と言えばオリエント国から北東に位置する国で、かつてパージ街を領有していたところでもある。
オリエント国に進攻しようと企てていたところをバルカ傭兵団が機敏に動いてパージ街を落としたことがあったが、そういえばもともと新バルカ街の前にあった村が廃村になったのはぺリア国が塩を撒いていったからだったか。
その国が今度はバルカ教会を攻撃した。
どうやら、財政的にかなり厳しい状況みたいだ。
城壁都市でもあるパージ街がバルカ傭兵団との戦いで敗北し、その地は親バルカ派の人間によって統治されることとなった。
それ以降、パージ街からはぺリア国に税が納められていないから、単純に実入りが減っているというのもあるだろう。
さらに、小国家群全体を襲った不況もぺリア国に少なくない影響を与え、硬貨不足にあえぎながらの数年を経験してきたわけだ。
そして、とどめとなるのがバルカ教会の進出だ。
ぺリア国にもバルカ教会は出ており、当然、エンによる取引なども行われていた。
そのおかげである程度は商売が行われ、不況全盛期よりは持ち直してきていたはずだった。
が、これまでの負債が大きすぎたのだろう。
ぺリア国は焦ってしまったようだ。
なんとか傾きかけている財政を立て直そうと、税を重くしたらしい。
エンもそうだし、今年収穫できるであろう米の税負担割合も高めることを示唆する内容が出回ったという。
最初に機敏に反応したのは商人たちだった。
各地でお金を使って取引を行う商人たちにとって、ぺリア国はどうしても離れられない場所というわけではない。
重すぎる負担が待っている土地で、あえて商売をするくらいならばもっと割がいい商売ができる土地に移動するのもやぶさかではないのだ。
というわけで、商人たちはぺリア国を離れた。
パージ街に移動する者もいれば、そこを越えてオリエント国に来る者もいる。
商売道具はともかくとして、全財産をエンに替えてしまえば、極端に言えば身一つで移動できるのだから決断は早かったようだ。
こうして、重税を行うことを発表したぺリア国から多くの商人たちがいなくなった。
それにはさすがにぺリア国の連中も困ったらしい。
税を重くしてお金を得る。
それを見越して今後の予定を立てていたのに、それが一気に水泡に帰したのだ。
だが、一度立てた予定を変えるのはなかなかに難しい。
国としての舵取りでは特にそうだろう。
だったら、その不足する金額を補うように他からとろう。
というわけで、もとより税を重くすることを検討していた農民などからもさらに重税を課そうとしたのだとか。
それにはさすがに農民たちも嫌がったようだ。
その噂が流れただけで一気にぺリア国は住民たちからの求心力を失いかけてしまうこととなった。
さすがに、これはまずい。
そう悟った者がぺリア国内にもいたのだろう。
すぐに再度の重税案を撤回したことを発表したが、だからといって商人たちが戻ってくることはない。
どうしてこうなった、という思いがあったのかどうかは分からないが、だったら今度は農民以外から税を取ろうとなったわけだ。
その対象がバルカ教会だ。
だが、バルカ教会はそれを拒否した。
なぜなら、教会は別に生産活動をしているわけでもなければ、商売をしているわけでもないからだ。
世のため、人のために、人々の心を安んずることを目的としているバルカ教会が莫大な税負担をする意味が分からない。
ちなみに、オリエント国にたいしては厳密にいえば納税しているのではなく、金を納めているだけという立場をとっていたりする。
寄付というか、献金というか、まあ言い方はなんでもいいが、国から税として負担額を決められるのではなく教会側の判断で金を入れているのだ。
そんなこんなで、ぺリア国にあるバルカ教会は税負担を断った。
それに対して直接的に動いたようだ。
教会建物に銀が大量にあるだろうという推測のもと、攻撃を仕掛けた。
短絡的とも思えるが、以前バルカ傭兵団とは敵対したこともあって好戦派が動いたようだ。
それらは現地にいる傭兵たちが一時的にしのいでいるが、さすがに数が多ければ防ぎきれないだろう。
すぐに援護に向かうべき状況になっている。
こうして、教会を攻撃されたことにブチ切れているエルビスとともに俺はバルカ傭兵団を率いてぺリア国へと向かうこととなったのだった。
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