子どもの魔力量
「実際のところどうなんだ、イアン? スフィア家の跡取りになる自分の子どもの強さは」
イアンとハンナの間に生まれた子ども。
その子は新バルカ街にある病院にいる。
別に病気というわけではない。
ただ、ハンナが普段いるバルカ教会に近い医療施設がそこだという点と、そこで出産したからだ。
オリエント国ではもともと、こんなふうな大きな病院施設というのはなかった。
子どもを産む場合には何人も赤子を取り上げたことのある産婆が出産間近の家に行き、立ち会うことになる。
けれど、それはアイがいうには危険度が高いやり方らしい。
産婆の経験や知識が人によって違うし、出産が行われる家の状況も違う。
より安全に子どもを産むためには、出産が近づいてきたら病院施設に入院して、そこで周囲の体制を整えていつでも産めるようにしたほうがいいらしい。
今でもオリエント国の首都などでは旧来のやり方が一般的だが、新バルカ街では病院出産の人が増えてきている。
ハンナもその一人だった。
生まれた後もしばらくは病院生活が続くとのことで、俺とイアンはそこを出て、食事ができる店に入って話し始めた。
アトモスフィアからとって俺がつけたイアンの家名はスフィア家という。
そのスフィア家に男の子が生まれたからには彼が跡取りになるということだろう。
が、イアンのほうは跡取りという考えはあまりなさそうだった。
アトモスの戦士は一族全員が傭兵であって、誰の息子であるとかは関係なかったみたいだからな。
家柄というものをあまり気にしないのだろう。
「思ったよりは強そうだな。母となるハンナの力が弱いから、もっと魔力の少ない子が生まれてくると思っていた」
「まあ、ハンナはもともとただの孤児だからな。貧民街で拾って育てたって言っても、それだけだし。でも、予想していたよりはいい感じなんだな」
ハンナの魔力量はイアンが言うほどには少ないわけではない。
が、さすがにアトモスの戦士とは比較にならないだろう。
アトモスの戦士たちは、一族全員が戦場で一騎当千となりうる超人たちばかりだ。
そして、それは男に限った話ではない。
女性であってもそこらの騎士や貴族を蹴散らして戦うつわものたちだからだ。
そんな男女とも強いアトモスの戦士同士の子どもは当然ながら、生まれた直後から魔力量が高かったという。
イアンは最初から自分の子がそこまで強い状態で生まれてくることはないだろうと思っていたみたいだ。
確かにハンナの魔力量は微妙だからな。
一般人よりは多いし、【慈愛の炎】などという独自の魔法を持ち、バルカ教会の関係者に名付けをしている。
今、各地に作られた教会にはバルカ教の教えをしっかりと理解した神父やシスターが在中しているが、彼ら彼女らはハンナから名付けをされている。
そのために、誰もが【慈愛の炎】を使えるけれども、逆にそれがハンナの魔力量の増加を妨げていた。
【慈愛の炎】は自己治癒力も高まれば、身体機能も上がる魔法だ。
ミーティアの血を受け入れる際に出た高熱をもとにハンナが作り出した魔法だが、それが一番活躍するのはなんだかんだで戦場に出るときだろう。
そんな魔法を好き勝手に広げるわけにはいかない。
というわけで、バルカ教会で神父やシスターになる者は儀式によって制限がかけられる。
無許可で他者に名付けを行ってはならないという制限だ。
フォンターナ連合王国にあるような聖光教会の神父との一番の違いはそこかもしれない。
それにより、ハンナの魔力量はほどほどに上がっているけれど、ミーティアよりも増加量は少なかったのだ。
なのでイアンはあまり期待を大きくしすぎずに子どもが生まれてくることを想定していたが、思った以上にいい感じらしい。
ということは、ただの偶然ではなければ、生まれてくる子どもの魔力量には、親の魔力量以外にも他の要因が関わってくるのかもしれないな。
「ハンナは言っていた。妊娠して腹に子がいると分かってからは、自分の体に常に【慈愛の炎】を使っていた、と」
「【慈愛の炎】を母体にってことか? それが二人の子どもの魔力量の多さの秘密ってことか、イアン?」
「さあな。分かるわけがないさ。ただ、腹の中には子どもがいる状態が十月十日もあるんだ。そのときに、母体側で使っていた魔法が子どもに影響を与えることはあるだろう」
「なるほど。まあ、もともと【慈愛の炎】はハンナが作った魔法だしな。あれは体の中に炎を灯して、その炎に魔力を注ぐと身体機能向上や回復力増加がある。ってことは、その炎をお腹の中の赤ん坊のそばで発動していればなにかが起こるって感じか」
イアンの発言を聞きながら、なんとなく思いついた理屈を呟く。
が、それが本当に関係あるのかは分からない。
ただ、【いただきます】という俺の魔法もあるからな。
あれは、食事を取る際に使うと食べ物からより効率的に魔力を自分の体に取り込むことができる魔法だ。
それと同じような感じで、自分で食事をすることもない胎児の状態で、体に魔力を取り込んだりしてもおかしくはない。
どうせならば、自分の子も魔力多めで生まれてきてくれたほうがいいしな。
これからは病院で妊婦に【慈愛の炎】を使っていれば魔力量が多い子が生まれてくるか確認させるのも面白そうだ。
イアンとハンナに生まれた子どもを思い出しながら、そんなふうに新たな検証をはじめてみることにしたのだった。
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