ヴァンデンブルグ家への贈り物
「セバスにはこれを渡しておこうか」
「はい。確かに受け取りました。しかし、これはいったいどのようなものでございますか?」
「これはオリエント国で作られた魔道具だよ。魔導通信器って言うんだけど、遠距離で通話が可能な代物だ」
「……通話、でございますか?」
「そうだ。そいつを耳に着けてみてくれ。どうだ? なにか聞こえないか?」
「……き、聞こえています。耳元で人の声が私に話しかけているのが聞こえています。これはいったい?」
「話しかけられた内容に答えてみてくれ。そうすれば、相手も返事をするさ」
「ええ、分かりました。こちらはセバスです。聞こえますでしょうか? 聞こえていたら返事をお願いいたします。……ええ、確かにそのとおりでございます。ええ、はい……」
エリザベスとの話し合いで結婚相手が増えることについて了承を得た。
が、そこで話し合いは終わりというわけにはいかないだろう。
ぶっちゃけ、この結婚の決定権は彼女自身にはないのだから。
最終的には、彼女の父親であるヴァンデンブルグ伯爵にたいして了承を得なければならない。
が、さすがにいかにエリザベスが不治の病から治してもらい、そしてその美貌を長続きさせてくれると相手が言ったとしても、実の娘の結婚と同時に多数の女性を娶ると言い出す男は印象最悪だろう。
そう考えた俺は、セバスの説得にあたった。
彼はヴァンデンブルグ家に仕える執事で、おそらくはヴァンデンブルグ伯爵領内にある貴族の人間なのだろう。
セバスが必死に伯爵を説得すれば話は通ると考えた。
そこで、贈り物をすることにしたというわけだ。
それは、魔導通信器だ。
こいつは、このオリエント国でも限られた者しか持たない貴重な魔道具だ。
それを外の貴族に渡すという行為は危険でもある。
が、婚約の証として自動調整の魔法陣が描きこまれた魔道具の指輪をもらっているからな。
そのお返しもかねて、同じく魔道具を渡すほうがいいだろうと判断した。
それに、魔導通信器はヴァルキリーの角で作られているというのもある。
ヴァルキリーの角には共振動現象という不思議な特性が備わっていて、それを利用しての通信器なのだ。
そこに描きこまれている魔法陣というのは、あくまでも通話相手の調整ができるものであり、魔法陣そのものに通話機能があるわけではない。
なので、万が一にも暗号化された魔法陣が解読されて模倣されたとしても、同じものは作れないだろう。
まあ、作られても通話をアイが傍受できるということで、それなりにこちらにも利点があるしな。
「少し使い方について説明をしておこうか。今はすでに通話状態になった魔導通信器をセバスに渡したけれど、話し相手を切り替えることも可能だ。誰と話したいかを魔導通信器に言えば、相手にそれが知らせがいくようになっている」
「な、なんと……。離れた相手とそのように話ができるのですか。これは凄いものですね」
「だろう? こいつはまだ貴重でね。俺の周りやオリエント軍の指揮官級で利用しているけれど、議員にすら配れるほどの量はない魔道具なんだよ。それを特別にヴァンデンブルグ家に贈呈しようと考えている。ヴァンデンブルグ伯爵様は気に入っていただけるだろうか?」
「もちろんですとも。このような品がいただけるとあれば、いたく感激なさるに違いありません。むしろ、婚約指輪以外の秘蔵の魔道具をお送りするかもしれません」
「いや、それはいいよ。気持ちだけを受け取らせてもらう。けれど、そのかわりではないけれど、例の件についてセバスにはよろしく頼みたい。いいかな?」
「お任せください。アルフォンス・バルカ様とエリザベスお嬢様のご結婚について、このセバスにすべてお任せください。どのような条件であろうとも、必ずやご当主様を説き伏せてみせましょう」
セバスがやる気だ。
まあ、伯爵あてに渡した贈り物だが、セバス用にも包んだからな。
自分の魔導通信器を手に入れられるとあって、ひどく喜んでいる。
さすがに、欲に目がくらんで伯爵用の魔道具をちょろまかしたりはしないだろう。
しないよな?
エリザベスもセバスは信用できる男だと言ってたので、彼に魔導通信器を預けて俺と計五人の妻との結婚を伯爵に認めるように説得しに行ってもらうこととなった。
本来ならば、セバスと一緒にエリザベスも一度自国に帰るはずだった。
婚約者であってもまだ結婚していないわけだからな。
しかし、彼女は帰るのを嫌がった。
どうやら、あと数年間、俺が成人するまで離れ離れになって【回復】を受けられないということが許容できないみたいだ。
セバスや側仕え、護衛の兵たちがかわるがわるにエリザベスの説得を試みたようだが、頑として受け入れず、このオリエント国へと残ることが決まってしまった。
そんなこんなで、セバスがヴァンデンブルグ伯爵領に帰る前に、オリエント国の首都にある議会場で俺とエリザベスは婚約を発表し、国中にそれを知らせたのだった。
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