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潜れない縦穴

「ふう。やりましたよ、バルカ殿。魔石があるであろう地点まで採掘が終わりました」


「お疲れ様です、ラッセン殿。じゃ、さっそくですけど採りだしてください」


「……え? 採るってどうやってですか?」


「はい? 魔力でちゃちゃっと操作でもして採りだせるんじゃ?」


「いやいや、無理ですよ。深く穴を掘るのは魔力さえあればできますけど、地底にあるのを持ち上げるのは大変なんですよ。魔力で地底にある魔石を採りだすのは難しいですね」


 地面に手を付けて魔力を流し続けていたラッセン。

 しばらくはその姿を見ていたが、途中で見飽きて近くを歩き回り周囲の警戒をしていた俺に作業を終えたラッセンが近づいてきて話しかけてきた。

 ここに来てから、すでに数日が経過している。

 最初は地面の下を探索し、どこに穴を開けるのが一番いいかを検討していたようだが、いつの間にか実際に穴を開ける作業にもとりかかっていたようだ。

 イアンが案内した秘密の修験場の一角に、穴が開いているのが見えた。


 かなり深くまで掘り進めたらしい。

 そこで探索通り、魔石の反応があるところまで掘れたというので報告してきたのだが、肝心の採取ができないという。

 まさかの驚きだった。

 だが、考えてみれば当たり前かもしれない。

 水ならば噴水のように地表に出すこともできたのかもしれないが、精霊石の噴水というのは作ることはできないだろう。

 魔石そのものを魔力で作り出すこともできないみたいだし、アルス兄さんとは似ているようで結構違うようだ。


「しょうがないですね。なら、その穴を降りて精霊石を採るしかないですか」


「それは無理でしょう」


「なぜですか、ラッセン殿? 縦穴が深すぎて危ないとかですか?」


「それもあります。効率を重視して最短で魔石までの穴を掘りましたからね。まっすぐ縦に延びている穴は、降りようとすれば落下して死ぬでしょう」


「えっと、それなら紐でも用意したほうがいいってことですか?」


「そんなに長い紐がありますか? 縦穴の長さは千メートルを越えますよ?」


 はあ?

 千メートルってまじかよ。

 どんだけ深いんだと思ってしまった。

 そりゃ、無理だろうな。

 そんな長さの紐なんて用意していないどころか、多分どこを探してもないだろうし。

 イアンの持つ自在剣もそんな長さには延びないだろう。


「それに、仮に紐があったとしても問題があります」


「……なにが問題なんでしょう?」


「呼吸ができませんよ。この縦穴は魔石までの穴を掘るためにという目的で作ったので。もしも人がそこまで行きたいのであれば、呼吸できるように穴を掘る必要があるんです」


「呼吸、か。それは確かに大事でしょうね。っていうか、やろうと思えば息ができる穴も掘れるってことですか?」


「さすがにここまで深い穴を掘ったことがないですが、やるなら横に穴を掘って少しずつ地下に潜るようにしながら呼吸できる空間も作っていき、そこに空気を送り込む方法があれば、まあ何とかできるかもしれませんね」


 無理じゃね?

 ラッセンの話を聞いても、それは実現できなさそうな話にしか思えなかった。

 ということは、この縦穴を途中途中で横に拡張したりしても精霊石のある地下には潜れない可能性が高いということになるのではないだろうか。


 枯れた迷宮っていうのは間違いなさそうだな。

 少なくとも大量に精霊石を手に入れるには、そこまで深く穴を掘る必要がある。

 だが、その手間がかかりすぎる。

 しかも、そこに精霊石があるというのはラッセンのような力がない限りは分からないので、どうしてもその途中で諦めざるを得ないだろう。

 多分、今後ブリリア魔導国が採掘を再び本格化させることはないと思う。


「ま、けど、こういうときにノルンは役立つな。頼んだぞ、ノルン。俺の魔法鞄を渡すから、穴の下まで降りていって詰め込めるだけ詰め込んできてくれ」


「俺は本来魔剣なんだがな。まあいい。炎の穴よりはいくらかマシだろうしな。行ってくるぞ」


「悪いね。頼んだよ」


 現状、ラッセンが掘った縦穴は人間が潜ることができるものではないということがよくわかった。

 なので、人間に精霊石を採りに行かせることはやめた。

 その代わりに呼吸の必要のない存在に採掘を依頼した。

 真っ赤な鎧姿のノルンだ。

 こいつならば、呼吸の必要は一切ないから大丈夫だろう。


 でも、そうなるとちょっともったいない気もするな。

 ラッセンが見つけた精霊石の鉱脈を生かしきれないかもしれない。

 それは容量の問題だ。

 俺の持つ魔法鞄は見た目以上に多くの物が入れられるとんでもない代物だ。

 だが、それはいくらでも入れられるというわけではない。

 あくまでも、たくさん入るというだけだった。


 あの魔法鞄にはここに来るまでの装備や食料なども入れているからな。

 空き容量に頑張ってノルンが精霊石を詰め込んだとしても、限界があるということだ。

 倉庫一つ分くらいになれば御の字というところだろうか。

 それでも、手に入るのであれば十分だけど。


 そうして、ノルンを送り出して地上で待っているときだった。

 急に地面に振動が走り、俺たちは襲撃を受けたのだった。

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