魔導王
『今のブリリア魔導国は偉大なる王が君臨する国でござる。それまでももちろんこの国は強かったでござるが、今の王によってあのアトモスの戦士を族滅に追い込み、帝国などとの戦いにも武威を振るっていたのでござる』
新年が明けたすぐに魔導通信器でバナージと話す。
バルカ教会の布教には俺の結婚が関わってくるというが、どうしてそんな話が出てきたのかを説明するためにまずは現状の説明を行ってくれている。
それによるとどうやらブリリア魔導国の王の状態が関係しているようだ。
「もしかして、今まで魔導国を率いてきた指導者である王の容体が悪くなっているんですか?」
『いや、そうではないでござるよ。魔導王は元気でござる』
「あ、そうなんですね。じゃあ、なんで内部争いなんて起こるんです? 絶対的な王者が君臨している限り、そんなことが起こりそうにないですけど」
『うむ。拙者もこの国に訪れて詳しく事情を調べるまでは、まさかそんなことになっているとは思わなかったのでござるよ。ただ、内部争いはまだ起きてはいないのでござる。あくまでも、水面下で進行しているという話なのでござるよ』
よくわからないな。
水面下であろうが、表面化していようが関係ないと思うんだけど。
ブリリア魔導国は王家や貴族家で構成された封建制の国だ。
内部争いなんてものは、いつでもありそうだし、けれど、魔力量的にも力の強い王が健在であるのであればどうにでもなる問題だとも思う。
正直、身元不明に近い俺を取り込むような結婚の話なんて出てくる余地がないように思うんだけど。
『ところがそうではないのでござるよ。いつの時代も権力者の考えることは変わらないのでござる。どれだけ健康な体であってもそこで満足することはないのでござるよ』
「……どういうことですか?」
『魔導王は若いころから力があり、その力を存分に奮って活躍してきた御仁でござる。けれど、歳をとり、次第に自身の体が衰えてきていることを感じていたのでござる。いつかは自分も老いていく。例え健康であっても、老いという問題は常に付きまとっているのでござる』
「……もしかして、魔法が魔導王に影響を与えた、とか? 魔導王と呼ばれるくらいの大国の王ならば、【命名】によって名付けされれば【回復】が使える。いつでも自分の体の傷を治せる」
『どうやら、そうらしいでござるな。そして、こんな話も聞いたようでござるよ。【回復】を使いこなせば老いすらも克服できる、と』
「へえ。え、ってことはもしかして魔導王はそれができたとか? 老いの克服、つまり寿命の延長が可能になったってことですか?」
『まさか。そんなはずはないでござるよ。人間の寿命というのはおおよその相場が決まっているのでござる。【回復】という強力な治療法があれば長生きできるのかもしれないでござるが、寿命を延ばすことは無理でござろう。だが、それを魔導王は信じたのでござる。そして、そのことを教えてくれた者を厚遇し始めたのだそうでござる』
あれ?
バナージは【回復】で寿命が延びることを知らないんだったか?
まあ、知っていても普通は疑うか。
実際に寿命が延びるなんてのは、実例がない限り判断しようもないんだし。
東方には神の使徒みたいな数百年以上も生きた者と出会うことはありえないしな。
だけど、魔導王はそれを信じたのか。
いや、もしかしたら、その可能性を評価したのかもしれない。
それまではなかった魔法という存在の中に、大きな傷もあっという間に治せる【回復】があったのだ。
それを使うだけでも、体の不調は無くなる。
ある程度の年齢になっていたんなら、魔導王が自分の体に毎日のように【回復】を掛けているだけでも絶好調の日々が送れるんじゃないだろうか。
そして、その【回復】をさらに使いこなせれば寿命問題を気にする必要がなくなる。
不老不死の秘法を授けられたようなものだろう。
それをもたらした者を評価してもおかしくはないと思う。
「【回復】が寿命に効くってのは、シャルル様が王に言ったんじゃないですか?」
『そうでござる。よくわかったでござるな。まさにそのとおりでござるよ、アルフォンス殿。魔導王にそのことを伝えたシャルル殿下はそれまで以上に王からの信任を得たのでござる。が、シャルル殿下は王子ではあるが、王位継承権の第一位ではござらんのでござるよ。すると、どうなると思うでござる?』
「……俺が知っている限り、シャルル様は自分から王位を求めたりはしないような気がしますね。ブリリア魔導国の軍人だったし、将軍としての務めを果たすとか言いそう。けど、もしかするとそういう状況だと周りの連中がいろいろと口を出すかもしれませんね」
『そのとおりでござる。魔導王は健康には不安はない。けれど、魔導王の寿命が無くなるという話を信じている貴族はいないでござるよ。であれば、そこに争いが起こる余地が生まれるのでござる。シャルル殿下と親しい派閥の貴族たちが勢いづき、それに対抗するかたちで別の派閥が反発する。今のブリリア魔導国は水面下で貴族の派閥争いが起きているのでござるよ』
なるほどなあ。
まあ、王家と貴族家は複雑に絡まり合っているから、そういう派閥もよくあることなんだろう。
シャルル様もなかなか面白い状況になっているみたいだ。
よし。
面白そうだし、この話は俺も加わろう。
もしかしたら、ブリリア魔導国の中で起こる争いに呼ばれることがあるかもしれないしな。
「状況は理解しました。俺の結婚の話、進めておいてください、バナージ殿」
『え、いいのでござるか?』
「いいですよ。まあ、それなりに強い勢力を持った相手がいいですね。いざというときに味方の軍として使える戦力を持っているかどうかが重要ですか」
『わ、分かったでござる。では、拙者が良縁を結んでみせるのでござるよ。楽しみにしているでござるよ、アルフォンス殿』
即決即断だ。
どうせ、ここで結婚の話を断っても、またすぐに誰かが俺にそういう話を持ち出すだろうしな。
そうなった場合、多分相手はオリエント国内か、近くの小国の相手から探すことになると思う。
けど、小国の名門程度ではブリリア魔導国の貴族とは格が違いすぎる。
それなら、ここで話を受けておいても損はないはずだ。
こうして、俺は自分の結婚についてバナージに丸投げしながら話を進めることに決めたのだった。
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