断固反対
「……って感じでノルンは言っているんだけど、どう思う、アイ?」
「分かりました。錬銀術を使える存在が増えるのであれば、やってみる価値はあるかと思います」
ノルンが言った内容をアイに伝える。
二足歩行する犬の持つ獣。
そいつと人間が繁殖できた過去が存在したというものだ。
もっとも、本当にそのときにいた獣人と今俺たちの手元にいるエルちゃんたちが同じなのかどうかも分からないので、ノルンのいうことが間違いないことなのかというと疑問だ。
だが、確かに可能性はある。
そして、それを相談したアイは可能性があるのであればやればいいという考えのようだ。
まあ、そうだよな。
やってみなければわからない。
アイならば情報の検証のためにも、徹底的にすべきだというだろうな。
相談する相手としてアイは正しかったんだろうか?
「いや、でも、あの毛むくじゃらの犬人と子どもを作ろうって人、いるのかな?」
「いるのではないでしょうか? 募集してみましょう。きっと見つかるはずです」
「なんかすごく自信満々だね、アイ。本当にいると思うの?」
「探せば見つかるでしょう。最近は【にゃんにゃん】や【うさ耳ピョンピョン】によって動物愛好家が増えていると聞いています」
「あ、それはなんか聞いたことあるかも。ヘンドリクセンが言っていたな。最近のパージ街ではネコミミをつけた女の子の人気が出てきているとかそんなことを言っていたような気がする。そうか、猫の耳がある人が好きなら、毛むくじゃらの犬人が好きな人がいるかもね」
世の中には変わった連中がいる。
それは今も昔もあんまり変わらないことなのかもしれない。
アイに言われて思い出したが、確かに【にゃんにゃん】や【うさ耳ピョンピョン】があるんだし、動物のことが大好きな人間もいるんだ。
犬人のことが好きな奴もいてもおかしくはないかもしれない。
ただ、募集するにしてもいろいろ考える必要はあるだろうな。
鉄を銀にする錬銀術はエンの根幹にも関わってくるうえに、超極秘の機密情報だ。
あんまり外部に漏らすようなことはしないように気を付けなければならない。
二足歩行する犬相手に子どもを作りたいと自分から手をあげるような連中が秘密をちゃんと守るだろうか。
むしろ自分から人に話したりしたりしないだろうかと思ってしまう。
誰だって、ほかの人がしていないことをしたら自慢したくなって口を滑らせるだろうし。
秘密厳守ってだけでは駄目だろうな。
むしろ、二度と表には出られないかもしれないけれど、それでも変わった犬と子どもが作れる可能性がある、という情報で手を上げるくらいの覚悟の決まった者を集める必要があるかもしれない。
興味本位では駄目だ。
最悪、死を覚悟するくらいの気合いの入った奴がいないかどうかで探してみよう。
「分かりました。では、募集をかけておきます」
俺がそのことをアイに伝えると、淡々とそんなふうに返してきた。
かなり事務的だが、本当にそんな奴が現れるのだろうか。
まあ、いないならいないで、エルちゃんたちが発情期になるのを待つだけだしな。
募集して損はないだろうということで、さっそくアイがその準備に取り掛かったのだった。
※ ※ ※
「何を考えているのですか? そんなの絶対にダメに決まっています。募集なんてしたら駄目ですよ、アルフォンスくん」
「……駄目かな? 人はたくさんいるんだし、手を挙げる人くらいいるんじゃないかと思うんだけど」
「そういう問題ではありません。全く、アルフォンスくんもアイさんもそういうところはちょっと問題ですね。いいですか? あなたたち二人はもうこの国で最重要の人間なんですよ? そういう印象が最低に落ちるようなことは絶対にしてはいけないんです。そんな募集なんて絶対に私が許可しませんからね」
俺とアイが話し合い、じゃあ準備を始めようとした後のことだ。
ローラから俺は怒られることになった。
顔を真っ赤にして怒るローラは初めて見たような気がする。
多分、こんなに怒った姿を人に見せるなんてローラ自身、ほとんど経験がないんじゃないだろうか。
アイがローラに話を通したのは、ローラが高級娼婦として働いていたからだろうか。
きっと、変人趣味の人を知っている可能性があるとかそういうふうに考えたんだと思う。
そして、それは間違いなかったみたいだ。
ローラは犬人相手に子どもを作りたがる人ではないけれど、今までにいろんな趣味嗜好を持つ人と出会ってきたらしい。
そして、その経験をもとに、俺たちにたいして絶対に反対という意見を主張してきた。
どうやら、これは相当にまずいことになる可能性があるらしい。
今まで高級娼婦に会うことができるような高位の立場の者が、そういう趣味が露呈したことで失脚した話をよく聞いて、見てきたそうだ。
どうやら、動物相手に欲情するというのは今の俺たちの役職から引きずり降ろされる可能性があるらしい。
言動には十分に注意するようにと何度も言ってくる。
「でもなぁ。それだと、エルちゃんたちの数を増やすことが当分できないかもしれないんだよな」
「そんなのそこらの犬にでも相手をさせればいいではないですか」
「え? 魔物である白犬人って犬相手でも子どもが作れるの?」
「知りません。けど、人間とできるというのであれば、犬相手でもできるのではないですか? とにかく、私は断固反対です」
「うーん。分かったよ。なら、犬と交尾するかどうかを確かめてみるよ」
普段怒らない人がここまで怒るくらいだから、言うことは聞いておいたほうがいいだろうな。
それに、面白い可能性も聞けた。
犬人が人間相手でも子どもを作れるならば、犬でも大丈夫だろうというのは、確かにそうかもしれないと思わせる不思議な説得力があった。
ならば、試してみよう。
そう考えた俺はすぐに犬を集めることにしたのだった。
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