表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1067/1265

狙いの魔物

 いくつかの起伏を越えて見えてきたのは洞窟だった。

 山の斜面にできた洞穴とでも言おうか。

 入り口はそこまで大きくはないけれど、多分奥まで続いているんだろう。

 どうやら、そこに狙いの魔物が群れを作って住んでいるらしい。


 そういえば、大雪山を越えて西にたどり着いた人たちはたいていこういう穴を運よく見つけられた連中ばかりだと聞いたことがある。

 適度な大きさの穴であれば、大型の魔物も入ってこられない。

 それに雨や雪にぬれずに済むし、風も防げるから寒さにも耐えられる。

 ここに住んでいる魔物も安全のためにここをねぐらとしているんだろう。


 まだ、お日様の光は上空にあり、日が暮れるまでには時間がある。

 今から、穴の中に突入していくかどうか。

 いや、やめておこう。

 魔物と戦いになるだろうし、上手く生け捕りにした場合、そいつらを確保しておく必要がある。

 内部の状況が分からない洞窟を再利用するのは危険だろうし、こっちも仮設の陣地でも作っておこう。


 そう考えて、いったんその場から離れた。

 俺たちは洞窟からは離れた場所で上部が少し突き出た場所を見つけたので、そこで【壁建築】を使った。

 ピタリと合わさるわけではないけれど、周囲を壁で囲い、上部を天然の天井とすることで体を休めることができる場所に変えることに成功する。


「こういう時、アルス兄さんはもっと上手く拠点を作れるんだよな」


 隙間風が入ってくる仮拠点を見ながら、そんなことを呟いてしまう。

 大雪山を登り始めてエルメラルダに到着するまでにも何度も考えた内容だった。

 思った以上にこの大自然は厳しい。

 吸氷石があれば楽に山を越えられるかと思っていたけれど、全然そんなことはなかった。


 山を越えるならば、毎日移動をすることになる。

 そして、人間というのは必ず肉体を休める必要がある。

 つまり、寝る必要があるということだ。

 そのためには、寝床の確保が必須だ。


 普通の行軍でもそれは最初から計算に入れて動く必要があった。

 軍の規模が大きくなれば、その人数が眠れる場所の確保も必要だし、食事の用意もいる。

 こんな雪山の中ではまともに食べられるものは魔物の体くらいだ。

 それ以外の米や麦、あるいは野菜なんかもあったほうがいいだろうし、それらを調理するために火を使わないといけない。

 つまり、濡れていない薪がないといけないということになる。


 いくら、俺が魔法鞄を持っているといっても、軍を引き連れての行動は難しいだろうな。

 せいぜい、このくらいの少人数の騎兵隊が限度だろうけど、それも大雪山を超えられるかはギリギリだろうか。

 その点、アルス兄さんは魔力で好きに頑丈な住宅を建てられるし、魔法鞄も大量に作れるし、転送石や転移魔法陣で他の場所と行き来もできる。

 しかも、大雪山を越えた時には【氷精召喚】で兵士一人ひとりに氷精をつけて、兵がアルス兄さんから離れて独自に行動することもできたんだとか。

 考えれば考えるほど、軍を伴っての大雪山越えはアルス兄さんにしかできなかったことだというのが分かる。


 ちょっと悔しいな。

 アルス兄さんを越えるつもりなら、このくらいの山を自力で越えられるようになりたいと思ってしまう。

 ただ、同じようにはできないのは間違いない。

 俺は俺で、大雪山を越える方法でも考えてみようかな?


「アルフォンス様、拠点設営が完了しました」


「うん、わかった。じゃ、いよいよ本番だね。魔物の確保に行こうか」


 大雪山で経験したあれこれを考えていると、ひとりの兵から声をかけられた。

 どうやら、設営がすべてできたようだ。

 これで、魔物を捉えて夜を越すことができる準備が整った。

 というわけで、それまで考えていたことはひとまず頭の片隅においておいて、ふたたび洞窟へと向かうことにした。


「……お? なんだ、むこうから出てきているじゃないか」


 ふたたび、騎乗して雪の上を進み、洞窟までやってきた。

 すると、その場の状況に変化があった。

 というのは、山の斜面の穴から魔物が這い出てきていたのだ。


 体は大きくはない。

 氷熊や四手氷猿と比べると半分以下で、子どもの俺よりも低いくらいの身長しかない。

 ただ、このエルメラルダという雪一面の世界に適合したのか、ほかの魔物たちと同じように体の色は白色だ。


 白い犬。

 それがアイの求めた魔物の正体だ。

 だが、ただの犬ではない。

 普通ならば四足歩行するだろう犬とは違い、二本の脚で立っている。

 二足歩行する白い毛むくじゃらの犬がそこにはいた。


 犬人の亜種。

 それは、大雪山の西側のバイト兄さんの領地で発見された魔物だ。

 本来なら黒から灰色の毛をしている犬人という魔物。

 そんな灰色の犬人の中に一体だけ混じっていたという白い犬人。

 最初にそれを発見したのはアルス兄さんとバイト兄さんだったそうだ。


 そして、それ以降も白い犬人がいないかどうかはバイト兄さんが領地に接する山々で探索させていたそうだ。

 だが、結局は見つからなかった。

 そのわけがようやくわかった。

 白い犬人はもともと大雪山の東に住む別種だったのだろう。

 それがなんでかわからないけれど、黒の群れの中に一体だけ白が混じっていた。

 が、本来はこちらが白の生息域だったということだ。


 タロウシリーズ。

 天空王国バルカニアでひそかに飼育されているその白犬人タロウはオスだそうだ。

 そこで、オスだけのタロウを増やすために禁則事項に該当する技術を用いて数を増やすように繁殖させているらしい。

 が、ここにはそのタロウの本来の群れがあった。

 鉄から銀を作り出す魔物である白犬人のオスとメスが揃った群れが俺たちの目の前にいたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマークや評価などをお願いします。

評価は下方にある評価欄の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けますと執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本作の書籍版がただいま発売中です。

第一巻~第六巻まで絶賛発売中です。

また、コミカライズ第一~二巻も発売中です。

下の画像をクリックすると案内ページへとリンクしていますので、ぜひ一度ご覧になってください。

i000000
― 新着の感想 ―
[良い点] これは秘匿技術待ったなし!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ