極上の血
「よっしゃ。魔力量がまた増えた」
【雷光】の騎士セシル。
純白の鎧を身に纏い、大剣を携えた強力な相手。
剣を交えるごとに肉体が強化されていくという力があり、その結果、俺は速度も力も太刀打ちできないくらいの差をつけられることとなった。
それでもかろうじて対抗できていたのはノルンとワルキューレがいたからだろう。
ノルンの力で血の鎧をつけていた。
こいつは俺の血を使い身を守ることができる鎧に変化したというだけではない。
自分の体を完全に覆うどころか、その身の丈を倍増するくらいの大きさになりつつも、自由自在に操ることができたのだ。
まるで、自分の体がそのまま大きくなり、そしてそれを体を守る防御だけではなく力を発揮する筋肉としても使えるみたいなものだ。
ようするに、こっちも体を強化していたみたいな感じだな。
普通ならば、力の増したセシルと剣を打ち合うようなことがあれば、俺の体はそれだけで傷を負っていたはずだ。
大剣の一撃で地面を大きく陥没させるような力なんて、【流星】みたいな破壊力だしな。
そんなものを魔剣で受け止めてはじき返されるということは、その力が俺の肉体にすべて襲い掛かっているのと同じはずだった。
それを受け止めても変わらず戦えていたのは、しなやかな筋肉代わりになっていた血の鎧のおかげだ。
あれがあることで、俺は剣を打ち合っても手や腕が痛くなるということが無かった。
本来俺が受けるべき傷や痛みを血の鎧が受け止めてくれていたというわけだ。
そして、以前アイに聞いたが、人間というのは無意識に自分の力を抑制しているらしい。
自分の肉体が持つ力を限界まで出せば、その力が自分の肉体を壊すことになる。
なので、そうならないように無意識に力を抑えるのだそうだけど、これも血の鎧のおかげで全力を出しても反動がなかった。
おかげでいつも以上に自分の力を引き出すことができたのだ。
さらに、それはワルキューレも同じだった。
というか、むしろワルキューレのほうが血の鎧の恩恵が大きかったかもしれないな。
もともと、俺よりも力が強いワルキューレ。
単体としても強いけれど、今は新バルカ街で使役獣の卵から新しいワルキューレも生まれていて、そしてそいつらと魔力を【共有】しているんだ。
群れ全体で【共有】している魔力を使ってワルキューレも肉体を強化していた。
そして、その強化された状態の肉体から普段は無意識で抑えている力をワルキューレも解放させていたのだ。
おかげで、いかづちのような速さにまで到達していたセシルに対抗できる速度と突進力を持つに至った。
この場にワルキューレがいなければ俺はあの速度についていけずに大剣でぺしゃんこにされていただろうな。
ワルキューレとノルン。
両者がいたことで、俺はセシルに勝つことができた。
そして、その結果、手に入れることができたセシルの血。
こいつは極上の血だ。
どうやら、鎧だか大剣だかの効果で自己強化をしまくっていたセシルの体は俺の予想どおりに魔力量も上がっていたらしい。
倒した直後に血を奪ったのがよかったのかな?
多分、この装備による強化での魔力量増大は時間が過ぎれば消えるはずだ。
そうじゃなければ、イアンと戦う前に俺と戦って強化しようなんて考えないだろうし。
なんにせよ、俺はセシルの血を吸血することでまた総魔力量が増大した。
といっても、位階はさすがにまだ上がらないか。
司教が使える【回復】の次は、大司教の【浄化】があるはずだけど、そいつはまだ使えなさそうだ。
けれど、【回復】を何回か連続で使えるくらいにまでは魔力量が上がったのは大きいだろうな。
さっきまでは一度【回復】を使えば魔力がすっからかんになるくらいのギリギリだったけど、そうじゃなくなったというわけだ。
「アルフォンス・バルカが【雷光】の騎士セシルを討ち取ったり。次はだれが相手だ? 我こそはと言う相手はかかってこい」
セシルの血を飲み干し、魔力量が上がったことを確認した俺は、さらに大きな声を上げた。
他には誰か戦わないのか、と。
できれば、強い奴が一人ずつ決闘を申し込んできてくれるとありがたい。
そうすれば、ひとりずつ弱点を攻撃して血を吸ってあげるのだけど。
だが、そうはならなかった。
しんと静まり返る戦場。
そういえば、俺とセシルが向き合った状態で周囲の兵は戦わなくなっていたんだっけ?
しかも、俺が血の霧を発動したときくらいから、双方ともに動きを完全に止めていたしな。
「キク、セシルの装備を回収しろ。ゼンとヘンドリクセン殿はオリエント軍とパージ軍を指揮して掃討戦を開始だ。イアン、出番だ。暴れろ」
どうやら、セシルがぺリア軍においてかなり重要な戦力だったことは間違いないみたいだ。
まあ、アトモスの戦士と戦えるような者がそんなにたくさんはいないだろう。
傭兵とはいえ、この戦いでのぺリア軍の勝利にセシルの存在は欠かせないものだったに違いない。
このままだと、ぺリア軍は降伏するかもしれない。
俺の声を聴き、誰も名乗りをあげないことでそんな雰囲気が漂い始めた。
が、ここで終わらせるのはもったいない。
強者一人から血を集めて魔力を高めるほうが効率はいいが、だからといって、多くの人間から血を集める方法が悪いわけでもないしな。
しっかりと集められるだけ集めておいても損はないはずだ。
というわけで、もう少し戦うことにする。
相手が降伏する前に、配下に指示を出し、継戦だ。
こうして、セシルという精神的支柱の存在を欠いたぺリア軍にたいして、さらに攻撃を続行したのだった。
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