流れ星
「流星」
撤退準備を始めているぺリア軍の本陣。
本来であれば軍の奥深くに位置するその本陣にたいして、オリエント・パージ軍の攻撃の手が迫っていた。
ぺリア軍もここまで何日もかけてこちらとの戦いに備えていろんな準備をしてきていたことだろう。
兵を集め、武器と食料をかき集めて、このイクセル平地までやってきた。
そして、そこで壁を作り、戦場での要衝の地を抑えていった。
だが、現実はすでに敗勢に近い状態に陥っている。
本陣周りの壁で守りを固めた陣地は次々とこちらの攻撃で陥落し、分断されているのだから。
そして、本陣への進路が手薄になるところを見計らって俺たちが到達した。
その最初の一撃は俺の弓だ。
グルーガリア国の中でも特に名高い流星と呼ばれた男。
そいつから血を奪い、手に入れた弓の攻撃の魔術。
ワルキューレの背に乗り、そのままの姿勢で柔魔木の弓を構え、弓につがえた金属製の矢に大量の魔力を注ぎ込む。
魔力と体力。
それらを一気に消費する、しかし、その分だけ威力の高い一射をぺリア軍本陣に放った。
俺の位階が上がったからなのだろうか。
【回復】が使える位階にまで到達した力を使って、今までよりも魔力を弓に込めたからだろうか。
まるで、本当に流れ星が降り注ぐかのような矢が飛んでいる。
煌めく一条の光がぺリア軍本陣の壁に激突した。
「おお。本当にすごいな、流星は。アトモスの壁に攻撃が通じたぞ」
「あの壁を破れるのか。それは確かにすごいが、体力は大丈夫なのか?」
「ああ、問題ないよ、イアン」
この【流星】という攻撃はすごい。
なまじ魔法になっていない魔術であるというのもいいのかもしれない。
魔法であれば常に一定の効果を発揮してくれるのだろうけれど、こいつは自分で開発した魔術のように力を注げば注ぐほど威力が高くなってくれるからだ。
はじめて【流星】を手に入れた時よりもはるかに攻撃力が上がっていた。
それは、俺の肉体が成長しているのもあるだろうし、矢を金属製の重く硬いものにかえたというのもある。
だが、それ以上に【回復】を使えるに至った魔力量が威力の底上げにつながった。
ぺリア軍本陣はそのほかの陣地などと同じように壁で守りを固めていた。
だが、それはほかの普通の壁とは違っていた。
【壁建築】で作り出せる壁ではなく、【アトモスの壁】を使っていたのだ。
【壁建築】で生み出す壁も十分に高い防御力がある。
それはもともとが大猪という魔物の突進を防ぐために作られた魔法だからだろう。
だが、【アトモスの壁】はそれよりもはるかに防御力が高い。
なにせ、あのアルス兄さんがアトモスの戦士の攻撃を想定して作ったというのだから。
普通のレンガとは違う、金属に匹敵する硬さを持つ硬化レンガを用いて作られた壁だ。
そして、その硬化レンガの壁は五十メートルという驚異の高さを誇っている。
が、それは見た目だけの話だ。
五十メートルという馬鹿げた高さを生み出すためには、その土台がしっかりとしていなければならない。
ただ単に、地面の上にレンガを積んだだけでは五十メートルには到達しないだろうし、してもすぐに崩れてしまう。
だから、そうならないように【アトモスの壁】という魔法で作りだした壁は地下にも伸びているのだ。
壁の下の地面にある基礎部分をしっかりと固めて、そこから地中へと杭を打つかのように支えがある。
そのため、あれほど高い壁が揺らぐことなく存在している。
そんな【アトモスの壁】に今の俺の全力の【流星】が通じた。
ほかのどんな攻撃でも、あの壁を崩すのは難しかっただろう。
だが、それができた。
光を帯びたかのような軌跡で飛んでいった【流星】は硬化レンガの壁に直撃し、そして穴を開けたのだ。
なんで壁に穴が開いて、その壁が倒れていないんだろうかとも思う。
が、とにかく、ぺリア軍本陣の壁にぽっかりと穴が開いた。
そこに向かって俺のことを心配しつつも、イアンと騎馬隊、そして鮮血兵たちが乗り込んでいく。
それを見ながら、俺は肩で息をしていた。
【流星】の消耗。
これはいつものことだが、かなり大変だ。
矢を一回放つだけで、これ以上出せないというくらいの体力を出したところから、さらに無理やり搾り取られたかのような疲労があるのだ。
しかも、それは威力を上げるために莫大な魔力を注ぎ込む今のほうが昔よりも消耗度が激しいような気もする。
そんな俺の様子を見て、イアンや周囲の者が大丈夫だろうかという目を向けてきた。
だが、問題ないと答えた俺はその対策をすぐに実行する。
それは鮮血兵ノルンだ。
独立して動くことができるそのノルンから、俺は血を受け取った。
こいつはすでに戦場に送っていた一体だ。
もともと、三体は鮮血兵を出せるようになっていた俺はそのうちの一体から血を回収することで【回復】が使えるようになった。
しかし、それは一体目から血を回収しただけの段階だ。
つまり、なにが言いたいのかというとほかにも二体の鮮血兵を子猫姿にして戦場から血を集めさせていたのだ。
そのうちの一体から新たに血を受け取って、自分のものとする。
そのおかげで、だいぶ疲労感が楽になった。
多くの連中から血と魔力を集めた際に、きっと体力的な要素もその血には含まれていたのだろう。
これならもう一発くらい【流星】が撃てるだろうか?
いや、必要ないかな?
すでに先行する部隊が突入し、ぺリア軍から混乱の声が上がるのが聞こえてきたため、血の補充によって体力を回復した俺もすぐにその穴から相手の本陣へと突っ込んでいったのだった。
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