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未来の考察

「だいたい分かった。防壁戦術は魔銃に相当する攻撃手段があるかどうかで、性質がガラッと変わるだろうな」


「魔銃というのはあれだな。バルカ軍が使うのを見たことがある」


「そうだよ、イアン。イアンにとってはあの魔銃もたいしたことないのかもしれないけど、あれは本当にいい武器だと思う。お手軽に遠距離攻撃できるという点では魔弓を大きく上回るしね。あれぐらいの武器があるかどうかで、防壁戦術は姿を変えるだろうね」


 イクセル平地でひたすら壁を建てまくった。

 それぞれの陣営が自分たちの有利になるであろう場所を抑えるために部隊を動かし続け、平地の姿を大きく変えていった。

 その結果、この戦術についてみえてきたことがある。

 それは、優れた遠距離武器があるかどうかで全く違った戦場になるということだ。


 魔力を使って魔弾と呼ばれる硬化レンガの弾を発射することができる魔銃。

 この魔銃は今も天空王国では改良が続けられていて、より遠くまで正確に命中させることができ、なおかつ威力も高めていっているらしい。

 が、そこまでではなくとも従来の魔銃であってもいいだろう。


 もしも、この東方に魔銃という武器が知られて、それが両陣営で作られるようになったら防壁戦術は指揮官にとって必ず覚えておかなければならない戦い方となると思う。

 一撃で相手の命を奪うことができる遠距離攻撃可能な武器を撃ち合うことになるのだから、当たり前といえば当たり前だろうか。

 壁で身を守るのは必須事項になる。


 そうすると、どうなるか。

 殺傷能力の高い武器があることで、逆に戦場での戦いは長期化するのではないかと思う。

 お互いが魔銃を持って、魔石に備蓄した魔力を使って魔弾を撃ち合う。

 しかも、壁の後ろに身を隠してだ。

 誰だって自分の命は惜しいだろうし、負けたくはない。

 きっと、相手が飛び出してくるのをお互いに待つことになる我慢比べとなるだろう。


 そうなれば、さらに戦場には変化が訪れるかもしれない。

 魔銃があれば、ひとりの兵が受け持つことができる戦闘可能距離が延びるからな。

 たくさんの人間を一枚の壁の後ろに置いておく必要なんてないし、きっと壁を横に横にと延ばしていくだろう。

 それぞれの陣営が自分たちの壁を横に延ばし、その壁の後ろから魔銃をかまえてにらみ合う。

 今みたいに有利な地点を抑えるために壁を作るというよりは、戦場での勢力範囲の境界線を引くようなことになると思う。


「要するに両方の陣営に遠くを攻撃できる技があり、壁を作る術があれば、戦局は長期化して停滞すると言いたいのか。どうだろうな。そんなことになるとは思えんが……。圧倒的な強者がいれば魔銃など関係なく戦えるぞ」


「そこだよ、イアン。さっきの話はあくまでも一般論というか、ものすごく強い連中のことを考えていない前提だからな。誰もが魔銃の攻撃で少なくとも重傷を負うのであれば、防壁戦術は局面の硬直化を招くってだけだ。でも、そうはならない。人は同じ強さとは限らないからだ。そうすると、やっぱり強い奴がいるほうが勝つってことになるかもしれない」


「……なるほど。アルフォンスが言いたいことが分かった。ようするに、強い奴が出る展開になるかもしれないということだろう? 壁を作って長期間お見合いするよりも、それぞれの軍から強い奴らを出し合って戦って勝敗を決めたほうがはるかに早いしな」


「決闘だね。そうなる可能性はあるかもしれないかな?」


 軍同士の力が拮抗してその武力では決着がつかないことになったらどうなるか。

 もしかしたら、個人での決闘で国の行方が決まったりするようなこともあるんだろうか。

 いや、さすがにそれはないかもしれないけれど、何らかの戦い方とかが決まるかもしれない。

 両方の陣営から魔銃による攻撃をものともしない部隊だけが飛び出して、相手の壁を突破するという戦術が生まれる可能性もあるだろう。


「だが、そんなことを考える必要があるのか? 魔銃というのは天空王国では作っているかもしれんが、アルフォンスには作れないんじゃなかったか?」


「そうだね。あれはアルス兄さんが魔力で精霊石を作れるから量産できているだけだし。でも、魔銃のかわりに強い遠距離攻撃が東方で生まれて広がる可能性はあるんだよ、イアン」


「ほう? そうなのか?」


「ああ。というか、イアンも知っているだろうけどオリバが今、【炎雷矢】って魔術を魔法化しようとしているしね。あれが呪文になれば、多分どこか別の国にも広がると思う。どのくらい先の話になるかは分からないけど、きっと遠距離攻撃できる魔法ってのが東方で出てくるはずだ」


 魔銃がある前提の話ではあったが、別に遠距離攻撃ができるのは魔銃だけじゃない。

 フォンターナ連合王国では攻撃魔法というものが現実に存在しているのだから。

 そして、それがこの東方で生み出されないとは言い切れないだろう。

 いつか誰かが攻撃魔法を創り出す。

 さらにそれが、人から人に伝わって、誰もが攻撃魔法を使えるような世の中になる可能性は十分すぎるほどあるからだ。


 もちろん、今はそんな状況にはなっていない。

 ひたすら壁を横につなげてお見合いするなんてことはぺリア軍とはしていない。

 けれど、実際に戦場で防壁魔術を試してみた結果、そういう未来があり得ると感じた。

 やっぱりそう考えると頭のいい参謀型の人間だけでは勝敗は決まりそうにないと思う。

 並大抵の遠距離攻撃を跳ね飛ばして、嵐のように戦場で暴れまわることができる強者こそが勝つためには必要だと感じた。


 予想以上にいい勉強になったな。

 わざわざ、時間をかけて平地に壁を作りまくっただけの価値はあると思う。

 ただ、もう十分だ。

 そろそろ動くときだろう。

 防壁戦術の検証を終えた俺は、ようやく本格的に部隊が衝突する戦いを起こすことに決めたのだった。

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