守りの戦術
「ぺリア国の軍が集まってきている平地には現在のところ、五千ほどの兵が動員されている。たいして、こちらは四千ちょっとだ。ヘンドリクセン殿はどう戦うつもりか、聞かせてもらいたい」
「はっ。こちらとしては、正面からぶつかり合って勝利を得たい、という願望があります。この戦いはぺリア国からすれば食料や金銭を目的としているのかもしれませんが、パージ街からすれば独立を保つための戦いでもあるからです」
「独立しているってところを証明したいわけか」
「そのとおりです。そして、質問にたいして質問を返すことになるのは申し訳ないのですが、バルカ殿はどのように戦うおつもりなのでしょうか? こちらは詳細を知らないのですが、なにやらグルーガリア国と一戦した際には、新兵器を導入されたとか。こたびの戦いでもそれを使うことになるのでしょうか?」
「いや、あれはグルーガリア国との国境に配備したままだ。新兵器をぺリア国との戦いで使うことはできないよ」
パージ軍の指揮官たるヘンドリクセン。
彼はこの戦いで勝つことで、パージ街の独立をぺリア国から認めさせるという考えを示した。
それ自体はオリエント国にとっても問題ない。
むしろ、パージ家の血筋の者を使って統治権があると今後ぺリア国が訴えてこないようになるのであれば、独立を認めさせることの意味は大きいからだ。
そこで、そんな独立戦争をするためにも軍を動かしているヘンドリクセンにはどのように戦うのかを詳しく聞く。
が、それよりもこちらの情報を教えろと言われてしまった。
新兵器というのは大型魔弓だろう。
ずっとパージ街にいたヘンドリクセンはそれがどのようなものかは詳細を知らないらしい。
ただ、グルーガリア国を圧倒して勝利したオリエント軍は、その戦いで新兵器を使って戦果を挙げたということだけは知っていたようだ。
もちろん、それが使えるのであれば使いたかった。
が、あれはそう簡単には動かせないという事情がある。
柔魔木を切り出して超大型の弓としつつも、魔法陣を組み合わせて魔道具となった大型魔弓であるが、細かな部品もたくさんついているのだ。
それのどれかが壊れただけでも支障が出る。
まともに発射されないかもしれないし、発射はできても狙い通りに矢が飛ばない可能性だってあるわけだ。
大急ぎで次の戦場に持っていこうとして壊れてもつまらないしな。
それにあれはあくまでも、防衛用に設置したのであって、今回のような野戦には少々使いづらかったのだ。
「分かりました。それでは、防壁戦術で戦いたいと思います」
「防壁戦術、ね。分かった。それでいこう」
「……いいのですか? それでは、こちらが作戦をたてたことになるのではと思うのですが」
「別に問題ないよ。むしろ、二つの軍が一緒になって戦うわけだからね。そっちにある程度あわせて動くつもりだったから大丈夫だ」
「ありがとうございます。それでは、イクセル平地にて防壁戦術でぺリア国を迎えうちたいと思います」
パージ街を出て先に進んだところにある平地。
そこで戦う際の方法として、ヘンドリクセンは防壁戦術という戦法を使うのがいいのではないかと提案してきた。
それに乗っかることにしたので、すぐに方針が決まる。
防壁戦術というのは最近東方で使われている戦い方だ。
やり方はものすごく簡単である。
お互いの軍が布陣し合い、相手への攻撃は矢で行うことになる。
その際に、【壁建築】という呪文を使い身を守るということになる。
これだけ聞くと、戦法といえるのかどうかと疑問に思うかもしれない。
が、今までの戦場の風景とは全く違ったものになるらしい。
かつて、魔法が使える者が出現するまでは、平地などでの野戦では弓や槍、剣が兵士の主力武器として活躍していたのだ。
後方から援護として矢を放ち、槍や剣を手にした主力部隊が相手の軍へと突撃し、撃破する。
だが、この防壁戦術はその突撃をほとんどしない。
というか、ひたすら【壁建築】を使って作り出した防壁を盾にして矢の攻撃に徹するのだ。
突破力はほとんど無に等しいくらい低下するが、その防御力は非常に硬い。
厚さ五メートルの分厚い壁を作り出して、それで身を守りながら攻撃を繰り返すのだから当然だろう。
言ってみれば、野戦するしかない場所でかりそめの防衛陣地を作り出して相手を迎えうつことができるということになるだろうか。
ただ、この防壁戦術は欠点も当然ある。
攻撃力が落ちるのもそうだし、取り囲まれたら不利になる。
相手に強者がいると一点突破で崩される可能性もある。
それ以外にもいろいろあるだろう。
が、それでもヘンドリクセンがこの戦法をあげたのは相手のぺリア国の事情を鑑みたからだと思う。
短期決戦で終わらせたいという相手にあわせてこちらが真面目に取り合う必要はないからな。
防壁戦術であれば守りを固めているわけであり、戦いが長引く可能性もある。
それに、相手の軍の兵数がこちらを大きく上回っているわけでもないので、取り囲まれる心配も低いというのもあるのだろう。
なにより、一緒に戦うオリエント軍の存在もあるだろう。
アトモスの戦士であるイアンは当然ながら戦果を挙げるだろうと思っているはずだ。
壁の向こう側で相手の軍と戦ってくれているだけで甚大な被害を与えてくれること間違いなしだ。
それに、パージ街に到着する前から【炎雷矢】を放つ姿をみんなに見せてきたオリバのこともある。
炎の矢をバンバン飛ばしている弓兵がいる上に、大型魔弓はなくとも兵が携行できる普通の魔弓はあるからな。
オリエント軍は遠距離攻撃が充実している。
つまり、ヘンドリクセンは損害の出にくい戦い方をしたいということなのだろう。
相手の軍との間に壁を作り防御に徹した戦い方をすることで、パージ軍の兵をなるべく減らすことなく勝利したい。
そのためにも、攻め手にはオリエント軍に頼ることにもなる。
普通ならばこの選択は取りにくいかもしれない。
だって、戦場で手柄を立てる機会を自分から捨てるという選択でもあるからだ。
だが、それを選んだということは、少なくともヘンドリクセンという指揮官は今回の戦いで自分の手柄よりもパージ軍としての安全な勝利を求めているということだ。
名誉よりも実利を優先する感じかな?
もしも、自分の活躍を優先するのであれば、パージ軍を前に押し出して攻めさせようかと思っていたけど、そうはならなさそうだ。
こちらも損害はできるだけ避けたいというのもあるし、今回は防壁戦術で戦うことに異論はない。
こうして、野戦であるものの防衛戦のような戦い方をすることに決まったのだった。
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