変わる戦場
ぺリア国と戦うために動き始めた軍。
そんなパージ街を出陣した軍はオリエント軍以外にもう一つある。
それは、パージ軍だ。
元ぺリア国の所属であり、現在は独立しているパージ街。
そんなパージ街だが、実はオリエント国には含まれていない。
当時の判断で、オリエント国には入らずにこちらが選んだ傀儡政権が自分たちで統治をおこなっているということになっているからだ。
これは、ぺリア国の目をオリエント国ではなく、パージ街そのものに向ける意味合いがあった。
まだまだ、よその国と戦い続けるほどの余力がオリエント国にはなかったので、あえてオリエント国にとって盾のように使うことができるようにという狙いがあったからだ。
だが、その後、ぺリア国は別の国から攻め込まれた上に敗北したとかで、パージ街をすぐに奪還するために動くことはなかった。
そのため、現在までもずっとパージ街は自治を継続していくことができたのだ。
もっとも、完全に自由というわけでもなかった。
傀儡政権の人間にはオリエント国の有力者たちが近づいていき、つながりを作っていったりもしたので、あくまでも独立しているという建前でありつつ、オリエント国の影響を受ける都市として存在しているということになる。
そんなわけで、なんだかんだとありつつもパージ街は独自の軍を持っていた。
自分たちの街を守るためにはどうしても力を持った組織が必要だったし、武装集団の所有をオリエント国は禁止しなかったので当然だろう。
それを今回はオリエント軍と一緒に動かすように要請を出したというわけだ。
パージ街の政権を担う者たちがどの程度の戦力を出すか向こうの判断に委ねられている。
ただ、あまりにも数が少なすぎるとよくないということはしっかりと理解していたようだ。
この戦いはぺリア国が動きを見せているという情報をもとに動いているし、その狙いの一つにパージ街も含まれているのだから。
もしも、軍の損害を気にして戦力を出し渋った場合、敗北すれば自分たちの街を失うことにもなる。
それに、勝った場合でもオリエント国にたいしての借りが大きくなりすぎてしまって、今までのように自分たちでの統治ができなくなるかもしれない。
そのためにも、ある程度の戦力をひねり出して戦場へと投入する必要があったのだ。
グルーガリア国と戦い、すぐに移動してこちらに向かってきたオリエント軍は当初よりも数を減らしている。
国境沿いでの戦いでは兵力を三千ほど使っていたが、それをすべて引き連れてくることはできなかったからだ。
いくらグルーガリア国にたいして勝利を収めたとはいえ、国境沿いの警備はどうしても必要になる。
そのため、半数の千五百を連れて移動し、その道中で新たな予備戦力を追加してここまで来たので、今のオリエント軍は二千ほど、多く見積もって二千五百くらいだった。
それにたいして、パージ軍も同じような兵数を動員してきた。
パージ軍の数も二千ほどになるという。
多分、オリエント軍とパージ軍が戦えば、こちらが勝つ。
同じような人数であっても、こっちは普段から鍛えた兵で、機能的に動かせるように軍制改革も行ってきたからだ。
それと比べるとパージ軍は寄せ集めに近い感じだろう。
まあ、それはパージ軍だけに限らずにだいたいどこの軍だってそうだろうけれど。
有事の際に人を集めて軍を作り出すので、どうしたって普段は何か仕事をしている人間を引っ張ってきて武装するものなのだから。
「それにしたって、パージ軍は変わっているよな。こんなに女性が多い軍だとは思わなかった。戦えるのかな?」
一緒に街を出て動き出した相方の軍を見ながら、俺がつぶやく。
戦後のことを考えてパージ街が必死に兵数を揃えたのはわかるし、評価できる。
その戦力が兵数どおりにオリエント軍と匹敵するとは到底思えないが、それでも数がそろうとそれだけで軍というのは強く見えるからだ。
もしかすると、その軍の規模を見て相手の士気が下がる可能性だってあるだろう。
しかし、それにしても予想外だったのが、パージ軍に所属する女性の数だ。
下手したら全体の五分の一は女性なのではないかと思うほど女の人が多い。
東方では女性が積極的に戦ったりするものなんだろうか。
いや、それだったら今まで何度も戦場に出ているときにもっと見ている気がするんだけどな。
「多分ですけど、例の魔法が関係しているんじゃないですかね?」
「例の魔法? どういうことだ、ゼン?」
「【うさ耳ピョンピョン】や【にゃんにゃん】ですよ。ほら、俺たちの部隊が使うあの魔法って、パージ街の連中も使えるようになっていたわけじゃないですか。で、【うさ耳ピョンピョン】が使える俺たちの部隊は男ばかりですけど、パージ街にとってはそうじゃない。つまり、女性でもあの二つの魔法を使える人がたくさんいるってことです」
「ああ、言われてみればそうだろうな。街でも獣耳をつけているのは男だけじゃなかったし。男女関係なくみんな魔法が使えるもんな」
「でしょう? で、あの魔法は使えば肉体の強さが上がります。多分、女であってもそれなりの力になると判断したんでしょうね。あるいは、食料や武具の輸送なんかの直接戦闘に参加しない部隊だったら女性でも軍に参加してもいいとか言って人を集めたのかもしれませんよ」
まじか。
あの魔法でそんな影響が出てるのか。
っていうか、本当にパージ街の連中の適応力が高いな。
あの二つの魔法が手に入ったのなんて、つい数日前のことなのにな。
むしろ、そうしなければいけない事情もあったのかもしれないけど。
もともと、パージ街を守っていた軍はバルカ傭兵団に負けて数を減らしていたのもあるのかもしれない。
それでも、生き残った者たちで街を守る必要がある。
そのために、女性もある程度街を守るために働いていたのだろう。
もしかしたら、パージ軍というよりはパージ街自警団みたいな感じだったのかもしれない。
そこに、女性でも力仕事がしやすくなる魔法が手に入った。
だからこそ、自分たちの街を守るために戦場に出ていこうと判断した者が多くいたのかもしれない。
魔法の影響は本当に戦場を変えることになるかもしれないな。
というか、もともと【身体強化】や【瞑想】なんて魔法もあるし、それらが使えるなら男女関係なく活躍できる可能性はあったわけだし。
それが、獣化の魔法で持久力や俊敏性の向上も可能になったことで、より顕著な変化として現れてくるのかもしれない。
獣の耳を頭に生やして進軍する女性兵の姿を見て、東方の戦事情はこれからもっと変わっていくかもしれないと思ってしまったのだった。
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