表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/1265

魔法失敗

 魔力茸の栽培を成功させたとはいえ、今はごく少量がかろうじてできたというに過ぎない。

 魔力茸が貴重なものであるとしても、僅かな数で大儲けできるというほどのものではないだろう。

 やはり、もう少し規模を大きくしていかなければならない。


 だが、気になることがある。

 それは、保管場所についてだった。


 我が家は貧乏な農家であり、いろんなものを置いておく場所というのもすでにスペース不足になってしまっている。

 なにせ、俺がここ最近ハツカの茎からサンダルを作るために畑で採れたものを山積みにしているからだ。

 丸太の保管や栽培に成功した魔力茸を置いておく場所が必要だ。

 いや、この場合、場所というよりも建物といったほうがいいだろう。


 そこで、今まで畑を耕すことばかりに使用していた魔法を改良してみることに決めた。

 畑を耕す時には地面の硬い土をふかふかとした柔らかな栄養たっぷりの土へと変化させることに成功している。

 その際には基本的には地面を平らにした上で作物が育ちやすいように畝を作るように土を盛り上げるようなこともできている。

 であるのならば、土の形を変えて建物を作り出すことも不可能ではないはずだ。

 この仮説をもとに、建築のための魔法にチャレンジしてみることにしたのだった。




 ※ ※ ※




 新たな魔法に挑戦、とはいえども、すでに初魔法を習得してから数年が経過している。

 その間、俺が何も試さなかったわけではない。

 ただ、魔力量がそこまで多くはなかったということもあり、建物を建てようなどというところまで成長していなかったのだ。

 だが、畑を耕す時にはそれまでよりも広い範囲を一気に耕すことができるようになったりと、成長を実感することはよくある。

 決して無謀な挑戦というわけでもないはずだ。


 その上で、今一度頭の中でぼんやりと頭の中にある魔法についての法則性を考えてみた。

 まず最初に思い浮かぶのが、無から有を作り出すのはしんどいということだ。

 例えば、よくゲームなんかであるような土魔法で、手のひらから石の礫を出して飛ばす攻撃のようなものをイメージしてみようか。

 なにもない空中に手を伸ばして手のひらを突き出す。

 そこに全身から練り上げた魔力を手のひらへと集めて、石の礫を生成し、それを対象にあたったときにダメージを与えられる程のスピードで飛ばす。

 これらの流れを頭の中で鮮明にイメージして魔力を消費することで、実際に実現することは不可能ではない。

 ないのだが、思った以上に燃費が悪いのだ。

 個人的な感覚としては、なにもないところから石の礫を生み出すというのが相当効率が悪いのではないかと思う。

 なにせ、畑を耕すだけなら一度で数m四方もの広さを耕すように魔法を発動させても全然問題ないのだから。


 このことから、もともと存在するものを利用したほうが魔力消費は格段に安上がりで済むということがわかる。

 が、なぜか俺は土以外だとうまく魔法が使えないのだが。

 水を利用したり、光を利用したりしようとしても、成功しないのだ。

 いつかできるようになるのだろうか?


 その他にも気になることとして、俺の土魔法では土や石なんかは比較的ラクに変化させられるのだが、金属物質は全然だということがある。

 そこらの土から金属を作り出して売りさばく、ということができればよかったのだが、それは無理だということになる。

 すなわち、魔法で作る建物を金属でガチガチにかためるということはできないということだ。


 それらのことを考えると、チャレンジするのは土蔵なんかがいいのかもしれない。

 火事の多かった江戸時代では中が燃えにくかったらしいし、何度か見たこともあるからイメージしやすいだろう。

 俺は頭の中で土蔵をしっかりとイメージしながら、深呼吸を繰り返して魔力を練り上げる。

 そして、畑を耕す時と同じように地面に手をついて土へと魔力を送り込む。


 ……ドサッ。


 そうして、魔法を発動しようとした瞬間、俺は地面へと気を失うように倒れたのだった。




 ※ ※ ※




 急性魔力欠乏症、とでも名付けてもいいかもしれない。

 家の裏で気を失っている俺を母親が見つけたのは魔法について試してみようとした時間よりも数時間は経過しているときであったという。

 その日の夜、なんとか起き上がれはしたものの、ひどく頭が痛くて立っていられず、寝込んでしまうことになったのだ。

 その症状は次の日まで残った。

 そのさらに次の日には体も動くようになっていたのだが、念のためにももう少しだけ休んでいたのだった。


 突然、意識を失ったのはおそらく魔力がごっそりとなくなってしまったことが原因だと思う。

 俺が力仕事のときによく使う強化魔法は、全身へと練り上げた魔力を送ることで実現する。

 それはすなわち、魔力が肉体を動かすことに関わっているということであり、それが今回は急になくなってしまったから意識を失ったのかもしれない。

 結果としては失敗だったが、意味のある失敗だと思うことにした。

 魔力がなくなった瞬間に生命活動を停止する、なんてことがないということを知ることができたのだから。

 最悪の場合、死んでしまっていてもおかしくなかったと思うとゾッとしてしまう。


 さて、ではなぜあれほど急に魔力がなくなってしまったのか。

 その原因はおそらく面積と容量の関係みたいなものなのではないかと思う。

 例えば地面の土を縦10m・横10mの畑に耕したとしよう。

 これに使用した魔力の量を単純に100だと考える。

 すると今度は同じ10×10の大きさで建物を建てた場合はどうなるのか。

 その広さで高さ10mだとした場合は10×10×10で1000になるのではないか。


 多分、建物を建てるときに使う魔力量は使用する予定の土の量や、建てる建物の壁の総面積ではなく、その建物が空間を占める容量として消費されてしまうのではないかと思った。

 数日ぶりに家の裏に来たら、先日の魔法失敗の跡として土がえぐれた状態になって残っているのだが、その量だけから見ると俺の魔力がすっからかんになるほどとは思えなかったからだ。


 そう考えた俺は建物づくりの魔法ではなく、建築材料づくりの魔法へと切り変えることにしたのだった。

 その方法は土をレンガへと変えていき、あとで自力で積み上げていくというものだった。

 その日のうちに、レンガの魔法は成功し、俺はせっせとレンガづくりをすることとなった。

 だが、建物づくりの魔法はいろいろと夢が膨らむだけに諦めきれない。

 今後もチャレンジしていこうと心の中で誓うのだった。

お読みいただきありがとうございます。

ぜひブックマークや評価などをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

本作の書籍版がただいま発売中です。

第一巻~第六巻まで絶賛発売中です。

また、コミカライズ第一~二巻も発売中です。

下の画像をクリックすると案内ページへとリンクしていますので、ぜひ一度ご覧になってください。

i000000
― 新着の感想 ―
[一言] まあ土の表面5センチを魔法の範囲にしてた場合10メートルの深さだと200倍ですもんね
2020/05/14 17:53 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ