抗えない気持ち
——ショックだった。
浅井と女の人が、楽しそうに腕を組んで歩いているのを見て。
何で?
誰なの?
あの女性と約束してたから私の誘いを断ったの?
……付き合ってるの。
じゃぁ……なんで彼氏役なんて引き受けたの?
考えれば考えるほどに、胸が苦しくなる。
「待って樹っ、待ってってば!」
肩を掴み早足で歩く私を優花が止めた。
「……やっと止まってくれた」
優花は息を切らしていた。
……気付けばかなりの距離を歩いたみたいだった。
「……ごめん」
「ねえ……いいの?」
「……何が」
「あれ放っておいたらダメでしょ?」
「…………」
「浅井、何か言いかけてたよ……ちゃんと話ししないとダメだよ」
そう……優花の言う通りだ。
あの場で話を聞けばよかった。
何かの誤解かもしれないし……話を聞けば変なことを考えずにすんだかもしれない。
「……樹?」
でも、聞けなかった。
だって私は——本当の彼女じゃないから。
こんな時、本当の彼女なら嫉妬してもいいんだろうし、怒ってもいいんだろうし、2人の関係を問いただしてもいいんだと思う。
でも私は本当の恋人じゃない。
だから……聞けない。
そもそも、本当の彼女じゃないのは私が浅井にお願いした結果だ。
この関係を望んだのは私なのに——何でこんなに悲しいんだろう。
「……大丈夫? 樹」
大丈夫じゃなかった。
私は気付いてしまった。
私は全然一途なんかじゃなかった。
いつの間にか浅井は……アキラ様より大切な男性になっていた。
*
「なるほど……そう言うことだったのね」
「……うん」
カフェで落ち着いた私は、浅井に申し訳ないと思ったけど、優花に本当のことを話させてもらった。
「確かに、本当の恋人じゃないと、線引きって難しいよね」
「うん……だから、どうしていいのか分からなくなって逃げだしちゃった」
「でもなんで、そんなややこしいことしたの? 最初から付き合えばよかったのに」
「……だって、その時はまだ、好きかわからなかったし」
正直、好意は抱いていたけど……恋愛感情に発展するとまでは思っていなかった。
もじもじする私を優花がニヤニヤしながら見つめる。
「な……なに?」
「いや〜、あの樹がね……」
「なによっ!」
「もう完全に恋する乙女の顔になってるじゃん!」
……恋する乙女。
「中学ん時からのあんたを知る私としては嬉しいけどね」
「……どう言う意味よ」
「まあ細かいことはいいじゃん! とにかく浅井のこと好きなんでしょ?」
好き……面と向かって言われると恥ずかしいけど。
「……うん」
この気持ちは本物だ。抗うことはできない。
「とりあえずさ、ライブの後に会う約束してるんでしょ?」
「……うん」
「ちゃんと、その時に話しなよ……」
「……うん、そうだね……でも来てくれるかな?」
「なんで?」
「私……浅井の話し聞かないで逃げてきちゃったし」
「それは多分大丈夫よ。浅井はあれで結構寛大な心もってると思うよ」
「……そうかな?」
「でないと、仮とはいえ樹とは付き合えないって」
「ちょっと、それどう言う意味よ!」
「冗談、冗談……まあ、とりあえず、せっかくだからライブ楽しもうよ」
「……うん」
……そうだ。
いい方向に考えよう。
このことがきっかけで、自分の気持ちに気付けたのだから。
……でも、さっきの女性が彼女だったらどうしよう。
凄く綺麗な女性だった。
……なかなかポジティブな気持ちにはなれなかった。
*
だけどその反動で、ライブでは鬱憤を晴らすかのように我を忘れて騒いだ。
自分でもこんな風になるとは思ってもみなかった。
そのせいか、ステージ上のアキラ様と何度か目が合い。アキラ様はこっちに向かって手を振ってくれた。
浅井のことが好きだと気付いた後とはいえ……これはこれで嬉しかった。
優花と2人、声が枯れる寸前まで騒いだ。
「じゃぁ、頑張ってね樹」
「うん、ありがとう」
ライブが終わって駅まで優香を送り届けてから、私は浅井との待ち合わせ場所に向かった。
……でも、時間になっても浅井は来なかった。
やっぱり……怒らせてしまったのだろうか。
スマホの着信もメッセージもあの直後のものだけで、新たには入っていなかった。
……今日は待とう、終電までとことん待とう。
私は浅井を信じて待つことにした。
——待つこと20分。
私に駆け寄ってくる人影があった。
浅井が来てくれた……そう思って心が少し軽くなった。
でも、実際に私の前に現れたのは浅井 晃ではなくて——
「お待たせ今村さん」
アキラ様だった。
……なんで? どうして?
「ごめんね……ステージが押しちゃって」
なんでアキラ様がここにいるの————っ!
色々考えていたのに、一瞬にして頭が真っ白になった。
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