第三十四話
「は、はい?」
「ここ……朧月くんの部屋」
54号室のドアを指さしてつぶやくありすさん。
あ、あぁ。
もう着いたのか。
話しかけてきたとかじゃなくて、ただ単に教えてくれただけね。
「あ、うん。……案内してくれてありがとう」
「……うん。それじゃあ」
そう言ってありすさんに鍵を手渡された。
そのまま彼女は二つ離れた部屋の前に移動すると、慣れた手つきでなかへと入っていく。
「えっ……」
近くない?
どうやらありすさんの部屋は、52号室のようだ。
これって運命かな?
あの……交響曲第五番のやつ。
でででで~ん、みたいな始まりが印象だよな。
その運命じゃねぇよ!
とにかく俺も部屋に入ろう。
これからお世話になるところだ。
実際位置としては、悪くないし。
部屋のなかも良い感じだといいな。
ちなみにこの部屋は階段と近い。
そしてトイレが近くにあるのは嬉しいな。
俺いっぺんに出せないタイプの人間だから、割とトイレの回数が多いんだよ。
だから非常に助かる。
「お邪魔しま~す」
鍵を開けてなかに入った。
ふむ、なるほど。
シンプルなベッド。
棚。
机。
決して豪華とは言えないが。
一人で住むには十分な部屋だ。
玄関と向こうとでは床の種類が違うため、部屋のなかは土足禁止なのだろう。
靴を脱ぐと、汚い靴下が姿を現す。
もともと白かったはずなんだけど。
黒っぽくなっている。
まあ二週間以上も履き続けたらこれだけ汚れても無理はないか。
木の床とはいえ、このまま部屋のなかに上がるのは罪悪感があるため、靴下を脱いだ。
靴の横に置いておこう。
それにしても。
おら、わくわくすっぞ!!
だってこんな場所で過ごすことができるんだろ?
今まで木の枝で寝続けた俺からすると、ここは天国にも等しい。
今すぐにでもベッドにダイブして眠りたい。
そうすれば疲れが一気にとれることだろう。
だけどまだ我慢だ。
こんな汚れた体で白い布団に飛び込めば、汚れるのはわかりきっているからな。
晩御飯を食べてお風呂に入ってからにしよう。
とりあえず軍服を脱いでいく。
うわぁ……マジで今日の夜が楽しみだ。
ここまでベッドに入るのが楽しみだったことは、未だかつてないかもしれない。
なんなら今後も合わせて、人生で一番ベッドへ入ることに喜びを感じているような気がする。
いや、でも……ちょっと待てよ。
ありすさんと一緒に入る時がくるなら、そっちの方が上をいかないか?
う~ん、どうなんだろ。
難しいところではある。
まあどっちでもいいか。
そもそもそんな日がくるとは思えないし。
俺が積極的にいけないというのもあるが。
ありすさんはありすさんで、かなりの奥手なんだよな。
見た感じ、俺よりも物静かで恥ずかしがり屋みたいだ。
正直そんな二人がくっつくとは思えない。
ありすさんはめちゃくちゃかわいいから、いつ誰に取られてもおかしくはない。
今はまだ彼氏とかはいないみたいだけど。
いずれ同じ基地内の肉食系男子に告白されて……。
そこからだんだんと相手のことを好きになっていって。
そのうち結婚とかして、子どもを産んだり……って、ちょっと待ってくれ。
そんな想像したくない。




