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第五十三話

 階段を上り、観客席へと出た瞬間。


「……っ!?」


 思わず手で口を覆った。


 試合場を見下ろすと、そこには怪物がいたのだ。


 かなり大きい。

 全長十メートルほどだろうか。

 もっと大きいかもしれない。

 

 姿を簡潔に説明するならば、機械蜘蛛。

 名前の通り全身金属でできており、コードや巨大なボルトがいくつもはみ出ている。

 脚は全部で六本。

 背中には四本の細長い羽。

 

 ど真ん中で気持ちよさそうに眠っており、まだこちらの様子に気づいてはいない。

 音を立てたらだめだ。

 今すぐ引き返そう。

 

 ゆっくりと後ろへ下がり、静かに階段を下りていく。

 今すぐ走り出したい。

 だけどやつを起こすのはまずい。

 静かが第一優先だ。

 

 一歩一歩丁寧に下りて行き、やがて建物の外に出た。

 俺は川辺へと戻るなり、走って川を下っていく。

 あいつが起きないうちに離れなきゃ。

 絶対あれには勝てない。

 ハンドガンがおもちゃに思えるほどの恐怖心。

 銃弾を全て打ち尽くしたところで、1ダメージすら通らないような気がする。

 戦車でもないと太刀打ちできないだろう。

 

 機械ライオンがかわいいと思えてくるほどに威圧感があった。

 ここがRPGの世界なら、確実に逃げる一択だ。

 最初に防御をして相手の様子を窺おうとした時点で負け。

 あいつが起きていなくて本当によかった。

 

 起きて……ないよな?

 案外俺の存在に気づいていたりして。

 あの羽を使ってスタジアムの外に出て、後ろから追ってきていたりしないよな?


 待て。

 マジで自分を追い込むような思考は止めろ。

 洒落にならない。

 現実にフラグなんてものはないと思うけど。

 そもそも立てないに越したことはない。

 

 一応走りながら後ろを振り向く。

 地面から空まで一通り視線をやった。

 どうやら追ってきてはいないらしい。

 

「ふぅ……」


 だけどまだ油断はできない。

 もっと遠くへ。

 

「はぁ、はぁ……くそっ」


 あんな奴が存在するとは思いもしなかった。

 あんなのがいるのであれば、木の上はもうすでに安全地帯とは言えない。

 飛んでこられたら一発でアウトだ。

 元々軍隊鳥に出会った時からそれはわかっていたが、今まで襲われなかったため若干気が緩んでいた。

 そもそも軍隊鳥とやつとでは格が違う。

 

 軍隊鳥は正直何とかなる相手だ。

 これは油断でも慢心でもない。

 りんごピオーネを渡せば逃げる可能性が高いし。

 ハンドガンがあれば仕留めることができるだろう。

 

 しかし機械の蜘蛛は別だ。

 そもそもサイズがおかしい。

 おそらく余裕で全長十メートルを超えていた。

 しかも全身が金属ときた。

 機械ライオンですら反則級なのに、あんなのもはやチートだろ。

 肉弾戦で挑むのは絶対に無理。

 戦車が数台あれば……。

 いや、あいつを倒せるビジョンが浮かばない。

 

 仮に俺が小説の主人公だとして、イベントが起こらないと読者が離れそうだとか思っていたけど。

 こんなの望んでないよ?

 読者とか視聴者はハラハラして面白いかもしれないけどさ。

 俺は全然楽しくないからな?

 マジで一目見た瞬間死んだかと思った。

 それくらい怖かったんだって。

 

 部屋のなかでゴキブリを見た時ですら飛び上がるほど怖いのに。

 あんなのを目の前にして平然としていられるはずがない。

 

 俺は絶対、小説の主人公みたいに戦いを挑んだりはしないからな?


 無理なものは無理。

 誰があんな奴と戦うかっ!

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