第二十二話
目が覚めると、辺りはもうすっかり明るくなっていた。
新しい朝がきた。
希望の朝だ。
よろこびに胸を開け……うわっ。
ふいに下を向くと、無残な姿の狼が視界に入ってきた。
少し離れた木の横で倒れており、胴体がぐちゃぐちゃ。
辺りには大量の血が飛び散っている。
完全な赤ではない。
赤い絵の具に一割ほど黒を混ぜたような、どす黒い色。
幸いにもこれをやった犯人であるカンガルーの姿はない。
今のうちに逃げるべきだろうか。
そうしよう。
戻ってこられたらまた身動きが取れなくなるし。
善は急げ。
紐をほどき、再び自分の胴体に巻き付けて装備していく。
いい加減これ以外の防具も欲しいよな。
見た目も悪いし。
ただ防御力は高いはずなんだよ。
全部巻き付け、最後の部分を団子結びに。
それから枝に掛けてあった葉っぱのかごを手に取る。
入っているりんごピオーネの数は残り八個。
十分に余裕がある。
「さぁ、出発だ」
木よ……一日の間お世話になったな。
お前のおかげで魔獣から逃げることができ、無事に夜を明かすことができた。
感謝してもしきれない。
では、さらば。
目と耳を使って周りに危険がないことを確認。
よし、OK。
狼の死体は無視。
一瞬肉を食べられるのでは? と思いはしたが、焚き火をしていると煙で魔獣たちに見つかりそうだし。
何よりこんなグロい姿を見て食欲なんてわくわけがない。
りんごピオーネを食べてモヤモヤを浄化したい気分である。
あとで食べよっと。
木から下りた。
それからすぐ隣の川辺へと出ると、再び川が流れている方に向かって進み始める。
カンガルーに殴られたふくらはぎがまだ痛い。
だけど歩く分には問題ない。
歩き出してすぐ、かごのなかからりんごピオーネを取り出して食べていく。
食感がシャリシャリ。
足元は小石でジャリジャリ。
微妙に生えた顎髭はジョリジョリ。
「これ、昨日採取したのにまだ新鮮でおいしいな」
果実ってそういうものか?
そういえばスーパーとかでりんごとかぶどうとか、パックに入れて売ってあるし。
採取して何日も経ってるはずだけどおいしいよな。
つまり果実は長期間保存できるということ。
詳しくは知らないけど。
「それにしてもさ」
全然人工物が見えてこないよな。
なんでもいいから建物を見たい。
ここまで植物しかないと、すごく不安だ。
「欲を言えば人間と出会いたい」
待っていろよ、美少女ヒロイン。
異世界のあるあるなのに、もう長いこと不在だからな?
なんならヒロインどころか俺以外の人間がいないからな?
俺が兎だったら今頃寂しくて死んでるよ?
「普通ヒロインって異世界転生した直後にいるもんじゃねぇの?」
銀髪ハーフエルフたんとかいないの?
裏路地でチンピラに絡まれないとだめ?
裏路地どころか人工物がねぇんだよ!
無理だろ。
まあ俺自身、地球説を押してるし。
ヒロインが不在でも文句は言えないんだけど。
それに……俺には鈴がいる。
だから仮にどんなにかわいいヒロインが言い寄ってきたりしても、どのみち付き合ったりするつもりはない。
青髪の鬼少女でも。
そのお姉さんのピンク髪の鬼少女でも。
金髪ドリルのロリでも。
決して惹かれたりはしない。
「……さっきから同じ作品の登場キャラクターばかりだな」
もっと別の作品で例えてみよう。
俺の鈴に対する気持ちの強さを伝えるためにな。
「他と言えば……そうだ!」
あの子がいる。
全俺が選んだヒロインランキング第一位に長年居座り続けている、不動の存在。
茶髪。
二本の触角。
正直見た目だけで言えば、上がたくさんいる。
だけど俺は外見だけで判断していない。
正義感が強くて。
優しくて。
まさに俺の理想の女の子。
そう……某人生と言われたアニメのメインヒロインである。
もし仮にその子が告白してきたとしても、俺は……。
「……」
おっと、そろそろ時間のようだ。
それでは失礼します。
決して逃げるわけじゃないからな?




