第二十一話
狼が勢いよくカンガルーの左手に噛みつく。
「キュー!」
カンガルーは相手を引き離そうと、噛まれていない方の右手で狼の顔面を殴る。
だが狼が口を開く様子はない。
行けっ!
絶対離すなよ、狼。
「グルルゥ」
「キュー!!」
カンガルーが放った強烈なパンチにより、狼は吹き飛ばされた。
近くにあった木にぶつかって地面に倒れる。
やばい。
このままじゃ狼がやられてしまう。
立て!
立つんだ!
カンガルーは素早く狼のもとへ走り出す。
少し離れた位置からジャンプをし、勢いよくドロップキック。
両足がもろに狼の腹に入った。
マジか。
あのカンガルー蹴り技も使うのかよ!
強くね?
狼の口から液体が出てくる。
暗くて色までは見えないがおそらく血だろう。
カンガルーは更に相手の顔面をパンチ。
もうすでに倒れて無抵抗なのにも関わらず容赦がない。
すごい威力で何度も殴りつけている。
グロい。
もし俺が狼の位置にいたらもうすでに死んでいるだろう。
というか、狼ももう絶命しているんじゃ……。
「キュー……」
カンガルーが攻撃を止めた。
奴はじっと狼を見つめている。
生死を確認しているようだ。
それから三十秒ほど経った。
狼が動く気配はない。
完全に死んでいると思われる。
死んだふりをしてカンガルーの油断を誘っている可能性もあるが。
とにかくカンガルーは狼が死んでいると判断したらしい。
突然狼の腹部に顔を近づけ始めた。
ん? 何をするのだろう。
まさかお腹を枕代わりにして寝るわけではあるまい。
寝てくれればその隙に逃げれるかも。
けど、そんなわけないよな。
グチャグチャという音が聞こえてくる。
位置的に詳しくは見えないが、あれはいわゆるお食事だ。
正しい表現をするのであれば捕食。
思わず目と耳を塞ぐ。
見たくないし。
聞きたくない。
グロすぎる。
元々ホラー系が嫌いだというのもあるが。
これはそういう作り物のレベルじゃない。
ここが弱肉強食の世界だということを実感させられた。
もし俺が狼と同じ立場だったらと想像してしまう。
鳥肌が立った。
同時にカンガルーが今まで以上に恐ろしい物に見えてきた。
もしかするとここまで登ってくるのではないか。
眠っている間に、食べられるんじゃ……。
自分の身体が震えているのがわかる。
少しでも恐怖から逃げようと目を閉じた。
怖い。
怖い。
怖い。
怖い。
怖い。
家に帰りたい。
人間に会いたい。
今までは運がよかっただけ。
振り返ってみれば、いつ掴まっていてもおかしくなかった。
運よく生き延びているだけ。
決して自分が強いわけじゃない。
俺はこの世界では最弱だ。
あっ。
そういえば今日から寝る前に筋トレを始める! って決めてたけど。
恐怖でそれどころじゃないから、明日からにしよう。
うん。




