第四十話
「せっかくですけど。遠慮しときます」
「えぇー。なんでぇ~? 良いじゃん」
「そう言われても」
「こんな世界だし、楽しんだ者勝ちだよ?」
「香! あんた、また男を誘ってるの? いい加減にしときなさいよ」
突然女性が近くへとやってきて言った。
短い茶髪。
同じく二十代後半に見える。
香? さんはため息を吐き、
「うるさいわね。私の勝手じゃない」
「そろそろ本命を決めて結婚したらどうなの? 昨日もどこぞの筋肉バカとやってたじゃない。毎晩毎晩あんたの声がうるさくて眠れないのよ。……早く落ち着いて欲しいものだわ」
「あらっ。身体を鍛えている人は体力があっていいわよ? ま、それはともかく若いうちに楽しんで何が悪いの? 落ち着くのは年を取ってからで十分でしょ」
「あんたもう30歳じゃない。全然若くないわよ?」
「はぁ? まだ29歳と14か月ですぅ~!」
なんじゃそりゃ。
「現実を見なさい。それを30歳というのよ」
「うるさいうるさい。とにかく私はこの子とやりたいの! ……ね?」
そう言って香さんは俺を見てきた。
いや、『ね?』とか言われてもさ。
俺は一度断ったんだけど。
話聞いてた?
「ふふっ。香……あんたさっきからずっと拒否されてるわよ? 年齢差があるからじゃない?」
「なんですって? この肌つやを見てごらんなさい?」
「肌つやじゃ誤魔化せないものもあるわ。その子は直感的に嫌悪感を感じているのかもね」
いやそんなことはない。
むしろ情欲を掻き立てられた。
我慢したけどさ。
「むぅ~」
香さんはほっぺたを膨らませた。
大人びた見た目でその子供っぽい仕草は止めてくれ。
思わずギャップ萌えを感じてしまう。
「ねぇ君。今日きたばかりだから知らないだろうけど、そこのヤリ〇ンには気をつけなさい。もうすでに生き残りの男子高校生たちとも何人か関係をもっているみたいだし。多分性病を持っているわよ?」
えぇ……マジで?
それは引くな。
「ちょっと! 変な言いがかりは止めてくれる!? 私は病気なんて持ってないわ! 純粋で綺麗よ!」
「それじゃ私は行くわね? 朧月くんって言ったっけ? とにかく香のことは無視しておけばいいわ」
そう言って彼女は前の方へと戻っていく。
香さんは自分の股を触りながら、
「私……本当に性病なんて持ってないわ。……何も違和感を感じたりしないし。……潜伏だってきっとしていない。えぇ、そうに違いないわ。……ひょっとして私に嫉妬してるから、あんないじわるを言ったのかしら? ……ふふっ、そうに決まっているわ。モテない男勝りはかわいそうよね」
……えっと、全部聞こえてくるんですけど。
「……せっかくこのままいけばかわいい新人が手に入ってたのに。……あの男勝り。覚えときなさいよ」
いや、手に入ってないから。
それにしても股が軽い女の人って実際にいるものなんだな。
知らなかった。
同人誌とかの作り話だけで、絶対現実には存在しないと思っていた。
案外女性の方も、男と同様性欲が溜まるものなのかな?
まあ……人によるか。
というかこの人、なんで妊娠してないんだよ。
この世界にもゴムみたいな避妊具があるのか?
別にどっちでもいいけどさ。
きょ、興味なんてないんだからね?
「ねぇ、君。本当に今晩私といいことしなくてもいいの?」
「はい」
即答。
「じゃあさ、せめて今ここで私の胸を揉んでくれない?」
「はい?」
なんで?
「今晩一人でするときのおかずにしたいんだけど……。本来なら君と抱き合いたいところを、一人で我慢するんだから、そのくらいは当然じゃない?」
マジで言ってんのか?
「……い、いい加減にしてくださいよ。俺は付き合ってもいない人の身体を触ったりしません」
「はぁ……つまんないの」
そうつぶやくなり、香さんは反対側を向いた。
ふぅ、やっと終わったか。
あまり年頃の男を刺激しないでくれ。
いろいろと溜まるんだよ。
それこそ、今晩【35】号室に行こうと思うくらいには。




