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ゼロ:怪物の後日戦譚―Zero:Monster of initiative wars―  作者: 本城ユイト
一章 始まりの出会い
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No.35 筋書きの勝利①

 天井の崩落によって生まれた大小様々な瓦礫が無数に点在し、まるで朽ちた神殿のような古代遺跡のようになった場所。


 そんな場所で、クリストとフリウスの戦闘は苛烈なまでに拮抗を極めていた。


「――ふっ!」


「おおおォッ!」

 

 幾度となく繰り返された激突の末、またもや火花を散らすに留まった互いの得物が、もうほとんど夜闇に呑まれた夕暮れを反射して命を狩れないことが不満だというようにギラリと輝く。


 拮抗している戦闘――裏を返せば、それはどちらも決め手に欠けているという意味でもある。


(――この勝負、僕が多少不利ですか)


 動きに支障が出ない程度の傷を妥協して切り捨てるフリウスは、それらが発する細かな痛みすら意識に入らないほど集中した頭脳でそう判断する。


 確かに、今のところ身体的スペックではフリウスが一歩勝っているが、しかし相手は曲がりなりにも不死身なのだ。即死以外は通用しないといっても過言ではないだろう。


 よってフリウスが取るべきは、必殺にして確殺。一度息の根を止められさえすれば、あの少年の不死性は十分に攻略可能なのだ。


 なので、フリウスは決断する。

 相手が己の手札を切ったように、フリウスもまた、奥の手を繰り出す決断を。


(仕方ありません――賭けになるのは嫌いですが、これが最上の策なのも事実)


 奥の手――といっても、フリウスは別段特別な異能を使う訳でもない。ただ、命じるだけ。


「起きなさい――獣」


 たった一言。

 それだけなのに、フリウスの中で何かが切り替わった。”人間”が奥へと沈み込み、眠っていた”獣”が表へと浮上する。


「が――ああ、あああアアァァァッッ!!」


「な、にぃっ……!?」


 喉を引き裂きかねない咆哮が、数瞬前まではフリウスだった獣の口から放たれる。それに驚愕の色を浮かべたのは、クリストだ。


 拮抗していたバランスが崩壊する。

 荒れ狂う片刃剣の剣舞など意に介さず、その獣は消えた理性の代わりに秀でた野生に従って爪を振るう。


「――くっ!《詠唱式起動(Activate)雷精(Thunder)雷弾(Bullet)射出(Shot)》ッ!」


 だが、流石と言うべき対応で後ろへ飛びずさりながら詠唱を紡ぐクリスト。選択したのは全属性中初速ではトップクラスの雷属性。


 バッヂィン!と聞くだけで本能的恐怖を覚えそうな凶悪極まる轟音が弾け、七閃の青白い稲妻が獣へ殺到する。


 それに相対した獣は、しかし避ける素振りなど見せずに、より一層地を蹴る両脚に力を込める。そして、直後にドクンと獣の体内で魔力が胎動した。


 その魔力は瞬時に周囲へ拡散し、無数の水球を生み出す。それは獣の意図するものではなく、そしてこの場を切り抜ける最適解だった。


 ――轟音。

 雷閃を水球が受け止め、無力化する。

 その時、獣は確かに己の深い場所で誰かが叫んだのを聞いた――行け、と。


「ガオオオアアアアァァァァッ!!」 


 雷閃に散らされた水滴を掻き分けるようにして駆け、その瞳が敵を中心に捉える。そして大きく振りかぶられた五指、その先にある爪が空気を裂いて唸る。


「――シッ!」


 眼前に迫る右手に回避は無理だと割り切り、相打ち前提でクリストは剣を振るう。左脇から肩を抜けて顔へ続くその軌道は、並の人間相手なら攻撃を躊躇させるくらいの鋭い一撃だった。

 

 だが、最後の一歩を踏み込んだ獣が、刃の軌道上へ強引に左腕を捩じ込む。その結果、刃は筋肉を断絶して左腕の骨まで届いたが、右腕を振るうのに何ら支障はない。


 だから、そのまま振り抜く。


「ォォオオアアァァァッ!」 


 ブチブチと束ねた繊維を強引に断ち切るような音に混じって、水っぽい音があった。


「――ちいッ!?」


 獣の振るった爪は、クリストの右腕をいとも簡単に引き裂く。それは、紛れもなく獣としての狩猟本能だった。


 キンッ、とどこか遠くで音がした。それは、右腕と共に吹き飛んだ片刃剣が、地面へと突き刺さった音だった。

 

 だが、クリストとて”死に慣れた”と豪語する不死身の存在。たとえ腕の断面から噴水のように血飛沫を巻き散らそうとも、その視界の隅に死んでなお片刃剣を手放さない右腕が映ろうとも、動揺すらしない。


 淡々と、ただ相手を倒すための手段を積み上げていくのみ。


「《詠唱式起(Activa)――ぐうっ!?」


 だが、獣はそれを許さなかった。

 言葉を紡ぐ喉に手をかけ脅威となりかねない詠唱を呼吸ごと握り潰して封殺し、そのままクリストの体を無数の瓦礫が転がる地面へ叩きつけようと引き倒しにかかる。


 そのまま一方的に嬲られるという、十二分に有り得た展開を、しかしクリストは拒否。無事な左手を地面に付いて体をコマのように回転させ、つま先を獣のこめかみへと突き立てる。


 頭部を抜ける衝撃に揺さぶられ獣の握力が緩んだ隙に喉から引き剥がし、そのまま足を払って流れるように続くもう一撃の蹴りで撃破を目論む。


 無理な酷使に体が悲鳴をあげるが、どうせ後でどうとでもなると豪快に無視。遠心力をプラスされた会心の蹴りが、体勢を崩した獣のちょうどアゴへまるで吸い込まれるように迫り――


 そして、獣の意志とはこれまた無関係に、獣の深部で胎動した魔力が回路を迸り周囲へ無数の水の弾丸を作り出すのは、ほぼ同時。


「――ちぇすとォォッ!」


「ガアアアァァァァッ!」


 交錯する咆哮。


 水弾に阻まれ顔を掠めるに留まったその蹴りは、だが確実に獣の意識を揺らしダメージを与える。そして、その代償として全身に水弾を喰らったクリストは、十五メートルほど地面と水平に宙を舞った。


 それでも受け身を取って最大限衝撃を殺したクリストは、開いた距離を獣が凄まじい速さで疾走してくるのを視界に収めた瞬間、バネ仕掛けのように跳ね起きる。


 互いが互いを攻撃領域内に捉えるまでには一秒もなかった。


 三本纏めて投擲された螺旋状の溝を有する金属棒を爪で弾き落とし、獣がクリストの懐へと飛び込む。

 

 そして繰り出された疾走の勢いをそのまま上乗せされた尋常ならざる拳の一撃を、クリストは数本の髪と引き換えに紙一重で避けて開いた胴へと繋がるように連続した蹴りを繰り出す。


 そのうちの殆どは野生の直感力に任せた体捌きによって威力が殺されたが、クリストの狙いは初めから攻撃ではない。回避行動によって生まれた一瞬の隙をついて跳ぶように戦闘領域から離脱したクリストの体が、白煙を噴き上げた。


 六十秒の経過――不死性が発揮される兆しであるカチンという機械音が鳴り、瞬く間に時間を逆行するような再生が行われる。


「ガァ――アアアアアァァァァッッ!」


「うるせぇよ、害獣野郎――《詠唱式付呪(Enchant)光精(Light)強化(Strengthen)速度(Speed)》」


 減らず口を交えての詠唱。それに続いてクリストの体を薄い白光が被った。起動(Activate)ではなく付呪(Enchant)の起句から始まるその異能は、使用者の肉体の駆動速度を底上げするものだ。

 

 それをもって、クリストは空気を引き裂いて唸る獣の剛腕や蹴撃を最低限の接触で力を逸らして受け流すことによって捌き、合間を縫って細かく反撃を叩き込む。


「オォガアアアァァァァッ!!」


「っおらあああぁぁァァァ!」


 秒間何発という域で、息付く暇すら作れないほどの熾烈さで目まぐるしく立ち位置を入れ替えながらせめぎ合う両者。生まれる衝撃が地面にヒビを入れ、転がる瓦礫片を吹き飛ばし、土煙を巻き上げる。

 

 そんな中、


詠唱式起動(Activate)風精(Wind)圧縮(Compress)解放(Burst)!」


 詠唱に従い、豪風がクリストの足元へ渦巻く。その指向性をもって解き放たれた風に乗り、小柄な体が土煙を突き破って飛び出す。


 突き立っていた瓦礫の頂点を蹴ってさらに高く跳躍したクリストへ、遅れて土煙を切り裂いた獣が地を踏み切り弾丸のような速度で迫る。


 その獣めがけ、クリストは無造作に腰のベルトから引き抜いた金属棒を投擲。ただ飛来するだけのそれを、獣は虫でも払うような仕草で弾き――そして、見逃した。


 金属棒の表面へ巻かれていた赤い札、さらに視界の奥で不敵に笑ったクリストの手にある青い札を。


「――転移」


 ”転移の対護符(アミュレット)”、クリストお手製の魔道具がその真価を発揮する。


 物理法則を無視して、金属棒とクリストの位置が入れ替わる。その結果を獣は驚愕に喘ぎ、クリストは狙い通りとほくそ笑む。


「おお――らあっ!」


 獣の鍛えられた胸板の中央へ炸裂したクリスト渾身の蹴撃。空中という不安定な場所ながら、体内へ伝播した衝撃が心臓の鼓動を狂わせ肺の空気を無理やり押し出す。


「――ッガ!?」


「おら、もういっちょ喰らっとけ!」


 獣の体を踏み台に上へと飛び上がったクリストは、その踵をいつの間にか夕焼けの代わりに天井から覗く三日月へ届けとばかりに高く振り上げる。


 そして直後、情け容赦なく落とされた踵は、獣の顔面の中央を一分のズレもなく綺麗に打ち抜いていた。


 鼻を折り、脳を揺さぶる――手負いの獣へ向けた会心の追い打ち。それを受けた獣の体は、自然落下よりも速く頭から地面へと衝突した。


 その結果へ満足げに「よし」とだけ自身の打撃の感想を残すと、クリストは行動を次へ移す――ことはできなかった。


「ご、ぶっ……!」


 突如襲いかかる嘔吐感と胸部に走る灼熱。胸元へ目を向ければ、ちょうど心臓の真上へなにか鈍色の金属が見えた。


(相打ち、ってわけね……!)


 それは、獣ではなくフリウスが主武装としていた短剣のうち一本、その欠けた刃――クリストが蹴りを見舞ったのと同様に、獣もタダではやられないということか。

 

 意志とは裏腹に、体が活動を強制的に停止する。そして喉奥からせり上げる血塊に溺れながら落下するクリストの瞳の中で、ぐんぐんと近づいてくる獣が、ある瞬間水平に腕を振るった。


 すると脈絡ないままぐるんと回転した視界に、クリストは首を断たれたことを死にかけの脳で理解する。スイッチを切るように無慈悲な終わりが訪れ、己の存在が死の向こう側へと飛ぶ――


 ――。

 ――――。

 ――――――カチン。


「……っは!」


 機械音を目覚ましに文字通り息を吹き返すと同時、クリストは未だ感覚の戻り切っていない手足を総動員して横へと跳んだ。


 直後、寸前まで顔があった場所へと拳が落ち、地面へ簡易的なクレーターを出現させる。その頭蓋骨など容易く砕く威力に頬を引き攣らせるクリストを、野生の双眸が射抜く。


 それは、まるで暴虐に飢えた化物を連想させる瞳だった。だがそれもあながち間違いではない。なぜなら相手は、まさしく人の姿を借りた野獣なのだから。 


「ガアアァァァァァッ!!」


 咆哮ひとつ、尋常ならざる脚力をもって踊りかかった獣が振るう横薙ぎの一閃を、クリストは掠めた頬から舞う数滴の鮮血を犠牲に躱す。

 

 その屈んだ身を容赦なく狙う蹴りを思い切り後ろへ跳んでやり過ごし、バク宙で地に足をつけると同時に腰のベルトから螺旋状の溝が彫られた金属棒を引き抜き、投擲。


 その数、片手で持てる限界の四本。

 一直線に宙を駆け獣へと迫ったその結末を見届けることなく、クリストは身を翻して地を蹴る――その瞳が見るのは、地面へ突き立った紅黒の片刃剣だ。


「とど――けえぇぇぇッ!」


 転倒も覚悟した超前傾姿勢で最速を叩きだし、ビーチフラッグのようにその剣を掴みに行く。だがここで、クリストはひとつだけ大きな見落としをしていた。


 獣が有する能力、時間稼ぎの投擲が意味をなさなくなるその忌まわしき能力を。


「――グルゥ」


 その唸り声は、片刃剣まで残り二メートルと迫ったクリストのまさに背後から届いた。遅れて、獣の体温が、息遣いが、存在感が続く。


 獣という『死』が背後へ出現した。

 一瞬思考をフリーズさせるには十分な事実に、クリストが何か反応を示すよりも早く背中へ走る衝撃。


 その衝撃に押されるように体が地面を見失い、気づいた時にはもう、地面に刺さるかつて天井の一部だったはずの巨大な瓦礫へと恐るべき速度で叩きつけられていた。


「――ッ、が」


 右手の指を始めとして、いくつかの部位が衝撃でちぎれ飛んだ。それを理解しつつも、今のクリストにできることは重力へ従うことだけだった。


 どちゃり、と体が自分の体内から漏れ出たおびただしい量の血溜まりに沈む。その中で、指一本動かせないクリストは、全身を支配する倦怠感と寒気に抗う力すら無くしていた。


(なにが――あっ――た――?)


 思考が上手く繋がらない。

 まるで内側から爆ぜたような傷を全身へ纏ったクリストは、そのバラけた思考の端をなんとか繋いで意味ある文章へと組み直していく。

 

 そして、導き出した――『獣が持つ”影潜り”の能力を見落としていた』と。


 そう、あの瞬間、自分の影に潜ることで投擲を回避した獣は、直後にクリストの背後に伸びていた影から出現。そして小柄な体格を蹴りひとつで軽々と吹き飛ばしたのだった。


 額から垂れた血に汚れ役目を放棄した眼の前へと、獣は戦闘時の荒々しさが嘘のように静かに立つ。


「……これで、僕の勝ちです」


 その口が紡ぐのは、野性の咆哮ではなく理性の言葉。すなわちそれは、今そこにあるのは”獣”ではなく”人”だということの証明。


 フリウス・レイズ。

 一時は獣の衝動に身を任せた青年の意識が、今まさに表側へと浮かび上がっていた。


 ふ、とフリウスは自嘲気味に笑みを漏らし、クリストの首を片手で掴むと力づくで吊り上げる。血塗れの死に濁った瞳と、念願の勝利に輝く瞳が交差した。


「……お互いボロボロですね。だいぶ無理をしましたから、まあ仕方ないですけど。さて、それでは――もう終わりにしましょう」


「――あ、う」


 ぎりりっ、とフリウスの手が細い喉にある気道を容赦なく締め付け、意味の無い呻きがクリストの口をついて出る。


 呼吸を殺され相当苦しいはず――それでも手をあげて制止することすら出来ないクリストの喉へさらに両手をかけ、ささやく。


「死んでください――僕のために」


 ぎり、ぎりりと喉を握り潰すような握力でフリウスは細い首を締め上げる。倫理と正義に反する行為だと理解しながら、堕ちた騎士は感情を殺して人を殺める。


 やがて、その瞳にあった僅かな生の輝きすら失われた頃、そっと息絶えた体を地面へ下ろした。


「……僕の、勝ちだ」 


 反芻される勝利宣言。

 それは、目の前の事実を怖々と確認するような震えが混じった声だった。


 そして、フリウスはクリストが纏うコートの胸ポケットを漁ると、小さな懐中時計を取り出す。その蓋を開いて中で時を刻む長針を目に止め、よしと頷いた。


 この少年の不死性は六十秒一定である――その言葉を、以前クリストはゼラスへと伝えた。それを、ゼラスの体へ無断で仕込んだ盗聴用魔道具を通してフリウスは聞いていたのだ。


(今まで得た情報から、恐らく傷を負ってからではなく、常に一定の再生サイクルがある……。つまり、この長針が真上を指した瞬間にこの少年を殺せば、抵抗をされることなく再び死へと追いやれる……はずだ)


 右手に主武装でもある短剣を握ってクリストへと馬乗りになりながら、フリウスは何故か普段よりもゆっくりに感じられる時を耐える。


 そして、おとずれるのは運命の時間。


 長針がまっすぐに頂点を指し示した瞬間、地面に横たわるクリストの体から勢いよく白煙が噴き上がった。


(――きたッ!)

 

 全身の負傷がいっぺんに再生される影響か、視界が意味をなさなくなるほど凄まじい量の白煙が噴き上がる中、振り下ろされた右手の延長線上にある短剣の切っ先は確かに心臓へ落ちた。


 そして沈み込んだ切っ先が、柔らかい肉を裂いて生命の脈動を貫く。とすっ、という軽い音を、フリウスは聞いたような気がした。

 

「は、はは……」


 ふらりとよろめきながらクリストの上から下りたフリウスは、見た。クリストの心臓を確かに短剣の刃が貫き、絶命に足る傷を与えているのを。


 思わず、口元が笑みの形に曲がる。

 フリウスにしては本当に珍しく、それは普段の柔和な笑みとは掛け離れた、勝者の高笑いだった。


「は、ははは、ははははははははぁっ!勝った。これで僕は、勝った――!」


「――とでも思ったか?」


 まさしくお約束(テンプレ)のようなタイミンクで割り込む声。予想の斜め上からの乱入にフリウスが瞠目するよりも早く、”じゃららっ”と言う音がフリウスの耳朶を打つ。


 あっと声を上げる間すら与えられない。気づいた時にはもう、紅黒という見覚えある配色の鎖によって、フリウスの体は雁字搦めに捕らわれていた。


「さてさて、ひーふーみーよーっと」


 その抵抗を封じられた四肢へ、ご丁寧にも一本ずつ飛来した金属棒が突き立つ。そのどれもが、人体に欠かせない主要な血管を貫くのではなく裂いていた。


「――ッ、ぎぃ!?」

 

 遅れて、その突き立った傷を起点に全身へ電流にも似た激しい痺れが拡散する。その痺れは一切の行動をフリウスから奪い、地へと伏せさせる。


 ロクに受身も取れず芋虫のように地面へ転がったフリウスの前へ、誰かが足を置いた。


「やあ、気分はどうだい?って訊くまでもないよな。当てて見せようか。勝利ムードから一転しての敗北エンドで、最悪一直線だろう?」


 くっくっく、と人を小馬鹿にしたような怒りを誘う笑い方。それに、声変わりする前の少年特有の高い声も加えれば、該当者はひとりしかいない。


「いやぁ、まさかここまでシナリオ通りに進むとは。今回は配役が良かったのかねぇ、うん。いやまあ、とりあえずそれは置いといて――期待させて悪いね、ここは俺が勝つ筋書きなんだ」


 そこにいたのは、ひらひらと嘲笑うように手を振って、右手に紅黒の片刃剣を、左の袖口からは紅黒の鎖を出現させた少年。


 その少年が、虫を弄ぶ無邪気な子供のように、人がもがく様を楽しむ悪魔のように、不気味なほど完璧な笑顔を張り付けて嗤っていた。

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