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VRMMOの世界で魔王が降臨したお話。  作者: あらまき


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 何故か2018年に書いた短編おふざけがずっとランキングに入り続けたり沢山の感想頂いたりしております。

 本当にありがたいばかりです。

 だからお礼と称して好き放題した似たようなものを書きました。


 お前らの所為だぞ認知して♡




 VRMMOに囚われてはや数か月。

 どこぞの黒幕の思惑から外れ、俺達は平和を謳歌しながら気楽に攻略を進めていた。


 俺の名前は佐藤崇文(たかふみ)

 プレイヤー名は面倒だからそのまま『佐藤』にしてしまった馬鹿だ。

 このゲームの攻略最先端チームである『スペースウルフ』のサポートチームに所属している。


『クローズドアンゲルス』

 フルダイブ型のMMOで、インフルエンサーやらの紹介で若者間でちょっとした流行になっているらしい。

 かくいう俺も、そんな若者の感性を知ろうと分不相応なことにゲームを始めてしまった身である。

 俺自信は三十をずっと昔に越えた中年だというのに。


 ゲーム自体は割とありがちな王道ストーリーで、マップ最奥にいる『魔王』を倒せばゲームクリアである。

 ただし、本来のゲームならだが。


 突然ログアウト出来なくなって、そして何の説明もない。

 だから今どういう状況なのか正確にわかっている奴は誰もいない。


 ただ、一つだけ言えることがある。


 ゲームクリアは、そう遠くないということだ。


「あっ! 佐藤さん! お疲れ様です」

 武具の修理を終え、運んでいる俺に彼が声をかけて来た。


 彼の名前は『フライ・フレイ・フリーダム』。

 通称『フリー』で、この『スペースウルフ』のリーダーである。


 このスペースウルフは、彼を中心にして生み出された。

 彼の求心力により生まれたと言っても良いだろう。


 圧倒的なバトルセンスは当然。

 頭脳明晰で気が利いて、人当たりが良いあんて欠点が全くない性格も持ち合わせる完璧超人。

 中身だけでなく顔までもイケメンで、もう完璧過ぎて嫉妬さえ湧いて来ない。


 このゲームはVRMMOだが、キャラクターベースは自分となっている。

 だから肌の色とか多少の背丈くらいは変わるが、それ以外は既存のまま。

 だから、フリーが外の世界でもイケメンだとわかるし、俺が普通のおっさんであるということも知られている。


「ああ、フリーさん。お疲れ様です」

 そう言って俺が頭を下げると、彼は気まずそうに笑い返してきた。

「佐藤さん。俺なんて呼び捨てで構いませんって」

「流石に恐れ多いよ」

 そう言って俺は苦笑した。

 

 これもまた、彼の人気の一つだろう。


 こういう『VRMMO物で良くある流れ』として、実際に身体を張り命をかける『攻略チーム』と裏方である『サポーター』との軋轢が生じるなんてことがある。

 だが、うちのチームに限ってそれはない。


 リーダーかつ攻略最先端のフリーが、ただの平サポーターの俺に頭を下げる辺りからそれは察せるだろう。


 リーダーのフリーがこの態度で、しかも礼儀に関しては攻略チーム全員に言い聞かせている。

 サポーターありきの俺達であると。

 その反対に、サポーターも攻略チームが命を賭けているということを理解し、常日頃から感謝を忘れないようにしている。


 互いに支え合い、良きスパイラルを生み出していること。

 一切互いの悪口を言わず、会議は常に開かれ不満さえも健全に昇華しあっている。

 それが我がスペースウルフがこのゲーム内にてずっと攻略第一チームでい続けられている理由であった。


 というよりも、フリーがトップエースでいる理由というべきか。


「今日はどんな感じでした?」

 俺はそう尋ねた。

「あー……。そうですね。今日は育成より進行を優先しました。えと、『始点の沼地』はわかりますか?」

「あ、はい。悪霊系が蔓延るダンジョンマップですね。ゲームですと、四天王イベントの」

「はい。そこを潰しました」

「一日であれを……早いですね……流石としか」

「はは……。ただ、ちょっと急ぎ過ぎたので反省ですね」

「まあ、しょうがないですよ。フリーさんの場合は」

 未成年であるフリーの時間は俺のようなおっさんと違い貴重である。

 特に、叶えるべき大望がある彼の場合は。


 彼、フリーは宇宙飛行士になるという壮大な夢があった。

 そして彼にとってその夢は、決して叶わぬ願望などではない。

 彼の運動神経やコミュ能力が異様な程優れているのが、その証左。


 彼は、己が夢を叶えるあと一歩のところまで来ていた。


 それが今回の件で足を引っ張られたのだ。

 この世界から早く出たいに決まっている。


「いえ、それでも急がば回れですよ。仲間にも散々注意されまして……」

 そう言って、「たはは」と笑うフリー。

 その後ろには、副リーダーである『クレイ』の頷く姿もあった。


 細身で眼鏡といういかにも文官よりな外見だが、彼はこのチーム最大火力の『グラップラー』である。

 フリーは『ソードマン』という西洋剣に特化した職で、範囲攻撃に長けている。

 範囲攻撃のフリーと単体火力のグラップラー。

 それがうちの二大エース。

 割とうちは、脳筋攻略が得意なチームだった。


「おっと、あまりお仕事の邪魔をしても良くないですね。では失礼します」

 そう言ってフリーとクレイは頭を下げ、俺の元から去っていった。


「……良い子達だなぁ本当。俺はともかく、あの子達は早く返してあげたいもんだ」

 ぽつりと、俺は呟く。

 別にこれは善意なんて綺麗な感情じゃない。

 ただ、おっさんは夢を叶えんとする若者を見ると、無性に応援したくなるなんて性があるだけである。


「あはは、ありがとうございます」

 いなくなったと思ったフリーは戻って来て、少し気まずそうに、そう声をかけてきた。

「あれ? 居たの? 何か恥ずかしいな」

「いえいえ、本当に嬉しいですよ。佐藤さんみたいな方がうちのチームに居てくれて良かったです」

「いえいえ拾ってくれてありがとね。出来ることは頑張るからさ」


 自慢じゃないが、俺は頭はさほど良くないし、運動神経もそれほど優れてない。

 何ならゲームだってあまり得意じゃない。


 そんな俺でも、信用出来るという理由でフリーは雇ってくれ、こうして差別なく対等な仲間として扱ってくれている。

 こんな俺でも最先端チームの一介を担う誇りを持たせてくれている。

 感謝しない、わけがなかった。


「今でも十分ですよ。皆の不満や愚痴を聞いてくれて、それとなく伝えて下さったり……。若い子ばかりですから佐藤さん方がいなければどうなっていたことか……」

「ま、歳の劫くらいは役立たないと」

「それなんですが、言い忘れていたことがありまして」

「言い忘れていたこと?」

「はい。二人が佐藤さんを呼んでいましたので……」

「ああ……二人か……あいつらリーダーを顎で使いやがって……」

「いえ、それは良いんですよ別に。何か大切な用事かもしれないので……」

「あいつらに限ってそれはないよ……。ま、顔見せに行ってくるさ」

「はい。じゃ、俺もトレーニングがありますので本当に失礼します」

 そう言ってフリーが去ったのを見て、俺もその場を後にした。




「おせーぞ佐藤! 早く入れ」

 そう言って、男は俺を部屋の中に入れる。

 ゲーム内であることを忘れ、咽そうになる。

 それほどまでに、部屋の中には酒気が満ちていた。


 簡単に言えば、さけくせぇ。


 俺の前にいる見苦しい中年おっさん二人はもう既に出来上がっていた。

「はぁ……」

 わざとらしく溜息を吐きながら、俺は用意された丸太を切っただけの椅子に座った。


「何が良い? ウォッカか? ウィスキーか? ジンか?」

 むさくるしい外見で酒臭い男がくっつくように絡んで来て、俺は顔を顰めた。

「ひげが気持ち悪い。顔を近づけるな」

「何だよ。俺だっておっさんじゃなくてねーちゃんにくっつきたいわ。でもここ、キャバクラないんだよ。ガハハハハ!」

 男はそう言って笑うと、もう一人のおっさんもつられて笑う。


 嫌な感じの酔い方をしているが、別に悪酔いしているわけじゃない。

 これが彼等の平常である。


 いや、俺達の平常というべきだろう。

 認めたくないけれど、俺もまた彼らの同類だ。

 ただ、今は酒に酔ってないから落ち着いているだけで。


 俺に絡み酒を飲ませようとしている男の名前は『酒善』。

 中年太りという言葉では足りない程度に太っていて、全身けむくじゃらでひげ面。

 太ったドワーフと言えば想像しやすいだろう。


 もう一人の男は『ライスパワー』。

 こっちは食うことが好きらしいからこの名前である。


 外見は、酒善とどっこいな感じ。

 強いて言えばひげが少なく、身長が高い。

 太目のレスリング選手くらいが体型で言えば近いだろうか。

 ただそれはそれとして小太りラインを超えた感じで、控えめな表現でグラマラスである。


 こんなナリだが、二人とも攻略チームの、それもフリーと良く行動を一緒にする第一チームのメンバーとなっている。


 酒善は工事現場で働いているからか、身体の使い方が抜群に上手い。

 戦闘センスや知識差でフリーやクレイに見劣りするが、逆に言えば初見戦闘で言えば彼らさえも凌ぐ。

 また、いざという時の粘り強さチーム随一で、ピンチの時には良くパーティーの支えとなっている。


 ライスパワーは本当か嘘か元軍人だそうだ。

 そしてその言葉がまるっきり法螺ではないくらいに戦闘センスが高い。

 ただ酒善とは反対に身体を使うセンスがないらしく、酒善とどっこい程度の実力。

 それでも指揮能力は高いため、良く三軍や育成チームを引き連れて狩りに出ていたりする。


「それで、聞く意味あるのかわからんが、一応聞くぞ。俺に用事らしいが何だ?」

 俺の言葉に、二人は「はぁ?」と顔を顰める。


 そして、俺の前にドンっと、木製のコップを置いた。


「酒飲め!」

 二人の声が、完全にハモる。

 つまりはそういうこと。


 リーダーを足で使ってまで俺を呼んだ理由は、ただの飲み会である。

「本当、お前らは酒屑だな」

「何当たり前のことを言っているんだ三号」

「ほらかけつけ三杯だ早くしろ三号」

 俺は盛大に溜息を吐いて、目の前のコップを一気に飲み干す。

 何の酒か確認もせず、そして飲んでも良くわからない。

 ぶっちゃけ酔えれば何でも良い。

 ゲーム内なのに酔えるというのは、色々不思議な感覚だった。


 このチーム、スペースウルフは大半が六割が十代で四割が二十代。

 二十代でも上の方で、中年と呼ばれる人種は俺達三人だけ。


 だから必然と、俺達は良く一緒に行動していた。

 俺は支援組だが、そんなことは関係なく。


 そしておっさん三人だからこそ、集まったら必然的に酒を飲むようになった。

 それが、常識であるかのように。


 気づけば、どこかから二人のじゃない笑い声が聞こえる。

 それがどこなのか調べてみると……。

「あはははははは!」

 それは、俺の口から放たれていた。


 そうして、酒屑三号も爆誕。

 楽しい夜の開幕となった。




「だからさぁ! やっぱりあの時俺は惚れられていたわけなんだよ!」

 酒善の言葉に俺とライスパワーはゲラゲラ笑った。

「キャバクラを本気にするとかお前童貞かよ!」

 俺の言葉に酒善は表情を変えた。

「お前、取り消せよその言葉」

「あん?」

「俺は童貞じゃない。――素人童貞だ」

 俺達は、噴き出し腹から声を出し笑う。

 それにつられて酒善も大声で笑っていた。


「そいやさ、サトー」

 ライスパワーに呼ばれ、俺はコップを傾けるのを止めた。

「何だ?」

「お前は趣味とかないのか?」

「へ?」

「いや、俺達はわかりやすいだろ?」

「まあ、酒善は酒で、ライスパワーは」

「メシ!」

「だよな……」

「んで、お前の口から趣味やら何やら聞いたことがなくてな。何かないのか?」

「あ、いやー……ないわけじゃないんだが……」

 普段から誤魔化していたのだが、少しだけ、今日は酒の所為で口の滑りが良くなって、つい匂わせてしまっていた。


「何かあるなら言えや。俺達ばかり恥掻いてお前だけ卑怯だぞ!?」

「そーだそーだー」

 ブーブーという二人を前に、俺は小さく溜息を吐いた。

「詩……のようなものを作ってる。下手の横好きだけどな」

 俺の言葉に、二人がニヤァとどこぞの"チャシャネコ"みたいな邪悪な笑い顔になった。

 とはいえ気持ちはわかる。

 俺が同じ立場だったとしても、絶対同じ顔をしたことだろう。


「ほれ、酒の余興じゃ。やってみせい佐藤」

 酒善はそう言って、ライスパワーもやんややんやと盛り上げる。

「そうなるから言いたくなかったのに……」

 そう口で言いながらも、俺の身体は正直で、既に発表する準備を整えている。

 誰かの前で聞かせたことはなかったから怖くはあるが、同時に楽しくもある。

 強いて言うなら……内容的に、美しい女性が言うべきだっただろうということくらいか。


 一つ咳払いをして、俺は――。


「ああ悪戯なラブリー・ピュアエンジェル。今宵は貴女のラプソティ。風に乗せて愛をラララ――」

「ぶぉおぇえええええええええええ!」

「うぉえええええええええええ!」

 二人は同時に、嘔吐した。


「ちょ、おい! 大丈夫か!? 飲みすぎか?」

「……いや、飲みすぎというか、悪夢というか……いや何でもない。何でも……」

 酒善は震える声で呟く。

 その様子はまるで怯えている様でさえあった。


 その直後、ライスパワーに俺は両肩を強く掴まれた。

「おい……約束しろ。二度と、二度と人前でそれを披露するな。良いな?」

 彼の目は真剣で、そして慈悲に満ちていた。

 思わず俺が頷いてしまうくらいに。


 良くわからないが、どうやら俺のポエムは少々おっさんには刺激が強すぎたらしい。


「……飲み直すぞ。そして記憶から消し去るんだ」

「もうスピリタスで良い。今日だけは明日のことを忘れる。叱られても良い。お前も付き合え。罰だ罰」

 何の罰かわからないが、有無を言わせぬ空気に俺は従う他なかった。


 ちょっと変な空気になったけど、最後はいつも通りのバカ騒ぎにだった。

 仮想空間に閉じ込めれている中で、こんなに平和で良いのかと――そう、思うくらいに。






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