第34話:これでよかったのか?~ロイド視点~
「殿下、やはり私は…」
「あなたはセイラにとって、たった一人の肉親なのです。何を遠慮する必要があるのですか?」
この男、強情だな。抵抗する公爵をセイラの部屋へと連れてきた。瞳を閉じたまま、全く動かないセイラ。もしかして…
「セイラは生きているのだよね?全く動かないけれど」
「はい、生きていらっしゃいます。私も不安になるくらいですが、心臓は動いておりますのでご安心を」
「よかった…セイラ、君の父上が来てくれたよ。さあ、公爵、セイラを見てあげてください。あなたはずっと、セイラに目を向けてこなかったでしょう」
そっと公爵の背中を押した。すると、ゆっくりとセイラに近づく公爵。
「セイラ…随分大きくなって…セレイナにそっくりだ…セイラ、こんな父親で本当にすまない。私は君の大切な母親を奪ってしまった。きっとセイラも私の事を、恨んでいるのだろうね」
セイラを見つめながら、再び涙を流す公爵。彼の涙など見た事のない使用人たちが、目を丸くして驚いている。そんな公爵にそっと近づいたのは、公爵家専属の医者だ。
「旦那様、やっとお嬢様に目を向けられたのですね。お嬢様は亡くなる少し前に、旦那様の話をしていたのですよ。“私がいなくなったら、お父様は本当に1人になってしまうのよね。お父様は1人でも平気かもしれないけれど、私は少し心配なの。だからどうか新しい家族を作って、幸せになって欲しいな”と。
亡くなった奥様も同じことを言っておりました。“私がいなくなったら、どうか愛する人と幸せな家庭を築いて欲しい。私はあの人に温かな家庭を与える事が出来なかったから。やっぱり好きな人には、幸せになって欲しいでしょう”そうおっしゃっておられましたよ。
奥様もお嬢様も、旦那様の幸せを願っていらしたのです」
「セイラもセレイナも、私を恨んでいたのではないのかい?」
「恨むだなんて。特に奥様は、最後までお嬢様と旦那様の事を心配しておられました。きっとお嬢さまと旦那様の関係が改善されたら、天国の奥様もお喜びになられるかと」
「そうか…セレイナはずっと私の事を想い、心配していてくれたのだね。私のせいで、幼いセイラを残して逝かなければいけなかったというのに…」
「恋焦がれ病に侵された方たちは、なぜか皆相手の幸せを願い亡くなっていくのです。それほど相手が大切なのでしょう。恋焦がれ病は恐ろしい病気です。ですが命を落とすくらい、相手の事を愛している証の病気でもあると、私は考えているのです。
奥様もお嬢様も、亡くなる寸前、満足そうにほほ笑んで旅立たれました。これは私の推測ですが、愛する気持ちを教えてくれてありがとう、あなたを愛する事が出来て幸せでした。そんな気持ちが込められていたのではないかと、勝手に思っております」
満足そうに微笑んで…その言葉が胸に突き刺さる。決して報われる事のない気持ち、それがどれほど辛いか…いくらセイラは助かったからと言っても、決して幸せだった訳ではないだろう。
それなのにセイラは、微笑みながら息を引き取っただなんて…
「奥様はもうこの世にはいらっしゃいません。ですが、お嬢様は奇跡的に生き返ったのです。どうかこれからは、お嬢様にも目を向けてあげてください。今からでもお嬢様を愛してあげてください」
「セイラは生きている…そうだな、セイラが目覚めたら、今までの事を謝罪するよ。殿下、申し訳ないが、セイラは公爵家で世話をする事にします。私は父親として、今までセイラに何もしてあげられなかった。だからこれからは、少しでもセイラとの時間を作りたいのです。亡くなったセレイナの分も」
「ちょっと待って下さい。先ほど公爵は、僕に言いましたよね。王宮にセイラを連れて行ってもいいと」
「はい、申し上げましたが気が変わりました。そもそも私の気持ちを変えたのは、殿下ですよ。もちろん、殿下には好きな時に好きなだけ公爵家にいて下さって構いませんから。今までも、好きなだけいらしておりましたし」
「…ええ、そうさせていただきます。セイラがいつ目覚めるか分かりませんので、今日から泊まり込みでセイラの傍にいさせていただきます。すぐにこの部屋に、僕のベッドを運んでくれ。それから、ここで公務がこなせる様に、至急準備を整えてくれ」
すぐに執事に指示を出したのだが…
「さすがにセイラの部屋を殿下に使って頂く訳にはいきません。殿下には客間を使っていただきましょう。すぐに殿下が使えるよう、準備を整えてくれ」
「承知いたしました」
「公爵、僕は別に部屋を準備して頂かなくても…」
「いいえ、殿下が我が家で過ごすこと自体異例中の異例なのです。その上、セイラの部屋で過ごさせるだなんてとんでもありません。どうか遠慮なさらずに、お部屋をお使いください」
別に僕は遠慮している訳ではない。そもそも僕は、セイラを王宮に連れていきたかったのだが…
でも、まあいいか。
次回、セイラ視点に戻ります。
よろしくお願いします。




