9.好感度アップの機会を逃してはならない!
今日はリリィちゃんとふたりでお出掛けである。
目的は好感度上昇アイテムの入手。
ついでにお茶でもして知識の共有も出来たらなって思っている。
まず向かったのはアイテムを販売している文房具屋さんで、店内には私たち以外の客は居らず、貸切状態だった。
まあ、高位貴族になればなるほどわざわざ店頭で商品を見て買うなんてことしなくなるんだよね。邸に呼びつけちゃえばいいんだから。
でも、私はウィンドウショッピングが好きだからゆっくりとお買い物ができそうで嬉しい。
陳列されている羽ペンやインク壷、栞などを見ていく。私には恋人も婚約者もまだいないからこういう普段使いできるものを婚約者同士で贈り合うのには憧れる。
ゲームをしていた時も「へぇ~そこは真面目な学生らしく文房具渡すのか」と感心した。
が、実際は違う。
確かに序盤は文房具をプレゼントすると好感度は上がるのだが、ストーリーが後半へと進むにつれて好感度上昇率の高く、乙女ゲームぽい普通の男女のプレゼントへとシフトチェンジしていく。
例えば香水とかカフスボタンとか。
それが何故か文房具屋さんに売っているのである。事業の方向転換か何か?と問いたくなるほどのバリエーションの豊富さを披露してくるのだ。もう意味が分からなかった。
しかも、香水系統は課金アイテムだった。世知辛いと思いました。
現実の文房具屋さんではストーリーの序盤も序盤だからか、まだ場違い的課金商品は店頭に陳列されてなかった。あるのは貴族令嬢令息が使用しても何ら違和感のない商品ばかり。つまり、これら一つだけでもそこそこ値が張るのである。
しかし!今の私は資産家伯爵家の令嬢で、リリィちゃんも裕福な男爵家の御令嬢である。
お金には困っていないのだ!
「どれにするの?」
「これとかどう?ポルクス様はこういうデザインが好きそうじゃない?」
「う~ん…私はこっちのデザインの方が好きだけど…」
と、リリィちゃんが手にしている羽ペンよりも落ち着いた色味の物を指示す。
派手さがない方が持ちやすい事も多く、私としてはこういった物の方が好みなので提案してみたが、リリィちゃんはいまいち納得いってないみたいで、少し頬を膨らませて不満を露わにしていた。
でも、ヒロインだからそんなお顔も可愛いよぉ……。
「むぅっ…!でも私はポルクス様にはこっちだと思うのよ!」
「…じゃあそっちにしたらいいんじゃない?」
「何か適当じゃない?!あのポルクス様へのプレゼントなんだからもっと真剣に考えて!」
「と言われても…この前の昼食でポルクス様とは話が合わないなって実感しちゃったからなぁ」
「あ~…シャルは何となく合わないだろうなって思ってた」
「え?そうなの??」
何となく自分でもそう思ってたけど、どこら辺がそう思わせるんだろう?
「うん。だってシャルって普通の女の子って感じだもん。世間とズレてない」
「……それって、リリィちゃんとポルクス様達は世間一般からズレてるってこと?」
「そういうこと!」
「えぇ~……」
胸を張って言う事ではないと思うんだけど…。
でも、納得できた気がする。
ちっぽけな正義感はあっても、特別な素養は何もないから。
転生者であるという一点でさえ、唯一無二ではない。
そういう所も含めて私はただのモブってことよね。
「まあ、私が平々凡々なのは置いといて今はこれ選ぶんでしょ?」
「普通ってそんなに悪い事じゃないと思うんだけどな……。う~ん、どうしよっかな…」
「…もう気になったやつ全部買ったら?」
そんなに悩むんだったら全部買っちゃえばいいと思うの。お金に不自由してないし、この世界の文房具って羽ペンしかないからペン先が潰れると買い換えないといけない消耗品。有って損はないと思う。
それにここは現実で、やり直しがきかないからお金を惜しむべきではないのである。それが好感度上昇アイテムならば尚更。
「う~ん……いや!最初の直感を信じてこれにするわ!」
「そっか、良いんじゃない?」
「やっぱり適当…!」
「だって分からないんだもん」
リリィちゃんは最初に手に取っていた紫紺から臙脂へグラデーションとなっている羽ペンに決めたようだ。
何も買わずに店を出るのはどうかと思って私もリリィちゃん購入予定の物に対抗して示した自分好みの羽ペンと減っていたインク壷を購入する事にした。
お会計を済ませ、包装してもらうために店員さんと相談しながらペンケースを選んでいく。
ケースだけで何種類もあるし、台座の布地は自宅配送にすればカスタムもできるらしい。ゲームではこんな仕様はなかったので、見ているだけでもとっても楽しい。
お互いに羽ペンと同系色でまとめたケースを後日邸へ配送してもらう事となって満足げに顔を見合わせる。
お店を後にしようと思った時、背後の片開き扉が開かれ、チリチリ~ンとドアベルが鳴り響いて客の来訪を告げた。
もう既に商品の購入を終えている私達は商売の邪魔になってしまうので、退店するために扉の方へと向き直るとそこにはポルクス様とカストル様がいらっしゃった。
お二方共にシンプルでカジュアルな貴族のお忍びといった服装が大変似合っている。
私服姿のポルクス様方、最高です!
普段は邸に商人を招いて買い物をしているはずなので休日に会えるなんてどんな確率だろうか…!
隣のリリィちゃんは唐突の供給にヲタク特有の発作を起こしかけていて、回れ右をして俯いている。ヒロインの顔面で在れど、人には見せられない顔をしているのは気のせいでも何でもない。
ふたりが近づいて来てるから、早くそれを元に戻して!
「ごきげんよう。カストル様、ポルクス様。休日にお会いできるなんてとても感激ですわ。本日は羽ペンをお買い求めに?」
「ごきげんよう。ええ、実は羽ペンが先程壊れてしまいまして」
「そうなのですね。私もひとつ壊れてしまって予備を買いに来ましたの」
因みに焦っているけれど、嘘は言ってません。本当にペン先が潰れて予備がひとつしかなかったのだ。
インクもそろそろ無くなってきていたし。
というか、リリィちゃんはまだ収まらないの?
「そうですか。気に入った物はありましたか?」
「ええ、おかげさまで」
ウフフと和やかに会話を繰り広げているが、内心ハラハラドキドキが止まらないよ!
ポルクス様はつまらなさそうに何も言わずに商品を眺めてるし、リリィちゃんは平静を取り戻そうと必死だし!
私にどうしろと?!会話が終わっちゃったんだけど?!
何か会話の種を…!
「えっと…カストル様はどのようなデザインがお好きですか?」
「書きやすい物でしたら何でもいいかと思っていつもシンプルなデザインの物を選んでしまいます」
「私もですわ。華やかな羽ペンの見目は良いのですけれど、引っ掛かることが多くって…」
「分かります。一度に付くインクの量も均一にならず滲んでしまうのも少し気になります」
「そうなのですわ。でも、見目美しい羽ペンをひとつも所持していないのでは侮られてしまう事もありますから…」
「そこが悩みどころですよね、やはり」
「ええ」
鷹揚に頷いて私の意見に同意しながら、羽ペンを吟味している。
良かったよ、モブが提供できる話題があって…!
安堵と共に隣のカストル様の真剣で鋭い視線を眺める。
うん、でも本当に面倒臭いよね。
見た目が綺麗ってことはそれだけ希少性が高いことだから値段が高いのに、書きづらい。
でも、持ってないと守銭奴とか、貧しいだとか陰で罵倒される事もあるのだ。
飢饉で資金難に陥っている今は特にその傾向にあり、政略結婚の候補から早々に除外される。
ミッレ家は野心も権力欲もないから別に候補から外れてもいいんだけど、影で嘲笑されるのだけは我慢ならない。
別に良くない?好きなの選んで買えばって思うけどそうはいかないのがもどかしい。
カストル様も同様に考えつつも敢えて華やかさのある羽ペンを選んだようで、購入手続きのためカウンターへ向かった。
何というか、オレンジ色の羽ペンで勉学に励むカストル様に解釈不一致って感じの違和感があるんだけど…。
そしてようやくリリィちゃんが発作から帰ってきたようで、ポルクス様へ楽しそうに話しかけていた。
あの作画崩壊顔を見られなかったようで、ホッとしたよ。
…ふむ。もしかしてこれはこの後のお茶にお二人も誘って好感度アップを狙うべきか?
傍目からは良い感じの雰囲気に見えるし、サポートするって言ったからね。
よし!一肌脱ぎますか!
「カストル様。この後お時間ございますか?宜しければお二方もこの後一緒にお茶でもいかがしょう?」
ケースも選び終え、こちらへ振り向いたところに問いかけた。
資金援助元のミッレ伯爵令嬢である私が誘えば、予定がない限り否はないだろう。選択肢のない半強制的なお誘いは罪悪感が募るけど、今回だけは諦めて欲しい。
「ええ。特に予定もございませんからぜひ喜んで」
「本当ですか?ありがとうございます。では、予約しているカフェへご案内しますわ」
案の定快諾を貰い、四人で私がオーナーを務める『ミア・フィーユ』へと向かうため文房具屋さんを後にした。
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