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4.そんなに深く考えないで!

今、私は学園の裏庭でピンチに陥っている。


その理由は目の前にいる攻略対象者であり、『推し』の双子の兄、カストル・ポールスト。



ポルクス様にそっくりな黒に近い濃紺の髪に同色の瞳。常に笑顔でありながらもミステリアスな雰囲気を醸し出しているこの人に正直どうしていいか分からない。何が起こっているんだろうか…。



私はただ昼食を食べ過ぎたから散歩でもしよっかなって出歩いただけなのに…!


彼はにっこりとした笑みを私に向けて、優しく問いかけてくる。



「貴女方ミッレ伯爵家は私達、侯爵家に何を要求しますか」



いきなりの質問に頭には「?」が浮かんでいる。

だって貴族同士のことなんかただの令嬢が知るわけもないし、理解できるほど賢くもないし。


「…仰っている意味が分かりかねます。どういうことでしょうか?」


「別に惚けずとも良いではありませんか。ミッレ伯爵家からポールスト家は資金援助を受けています。その見返りとして何を望んでいるかを聞いているのです」



…あー…。そういうことね…。


彼らの領地に限らず、この国の多くの土地ではストーリー通りに干ばつによる多大な被害を受けて資金繰りに困り果てている。そして確かに私は伯爵家名義で彼らの生家に多額の援助をした。


しかしポールスト侯爵家以外のメアスミレ王国の食料需給に多大な影響を及ぼす貴族家に対しても支援を続けている。




それに。


「御心配には及びません。ポールスト家に支援した資金のほとんどは私の資産から出しております。ですから、侯爵家に対してミッレ伯爵家から何かを要求するようなことはございません。御安心下さい」


私は『推し』を助けるために努力してきたのよ!


そんなものを求めるなんて私の推し活道(?)に反するわ!



この事実を説明したから理解してくれると思ったけど、理解はしても納得はして貰えていないようで目を眇められている。


こういう時にやれることは決まっている!


「カストル様。私、ポルクス様のことをお慕い申し上げております」


「…それは、弟との婚約を望むということではないのですか?」


「違います。私の願いはポルクス様が幸せになることです。資金援助に関しても、しなかった時よりも不自由しないだろうと思ってのことです。彼自身が私との婚約を望むのであればお受けさせて頂きますが、そうでないならばご遠慮させて頂きます」


そう、ヲタクとして貢いでいるだけですよ、ということを遠回しに伝える事だ!


私は断じてガチ恋ではない!



でもやっぱり信じれないようで眉を顰めている。


「…それを私に信じろと?」


「信じて頂かなくて結構です。ただ、良かれと思って、とかいう気の遣い方はしないで下さい。迷惑です」


そこまできっぱりと言われるとは思っていなかったのだろう、訝しげに見つめられてしまった。


しかしこれ以上話すこともなかったので「失礼します」とだけ告げてその場を後にした。






すっごく緊張したーーー!


『推し』と同じ顔面してるの、本当に狡くない?声も口調も全然違うけど、かっこいいことには変わりがないから心臓に悪い!



でも「見返り」ねぇ…。


ゲームでは性悪悪役令嬢達の生家が支援していたから考えたことなかったけど、貴族社会では見返りを求めるのが普通なのかな…?また今度お父様に相談してから考えよ!


まあ、あれだけはっきり言ったんだから関わってこないでしょ!






カストル様と対面した次の日の昼休憩。


あれからクレア様達とはよく昼食を共にしているから、今日もいつも通りにテーブルについて、食事の配膳を待っていた。



「丁度そちらも昼食ですか?宜しければご一緒しませんか?」



前世で何度も聞いた声に振り返ると、そこにはカストル様と私の推しのポルクス様がいた。



二人ともが黒に近い濃紺の髪と瞳で、違いがあるとすれば、カストル様は丁寧で物腰柔らか、腰まで伸びた髪を後頭で一つに束ねて横に流している。ポルクス様は自由奔放で掴めない性格、肩につかない位の短髪である。



突然の推し登場に頭がフリーズし、意識が回復した時にはなぜか二人ともが同じテーブルについていた。


私の隣にカストル様でその隣にポルクス様、クレア様、レイラ様、スーリズ様の順で並んでいた。



どうしてこうなった?


私は昨日確かにどう考えても関わりたくないと思わせる行動をとったはずなのにこれは何ちょっと待ってほしいこんな至近距離で見る心の準備が出来てないんだけどいや待て現実ヤバイなどんなケアしたらそんな綺麗な肌が出来上がんの髪のキューティクルはどうなってるんですか高校生の色気じゃないんだけど声までカッコいいとか凄すぎんか貴女方本当に同じ人間ですか攻略対象でしたねありがとうございます!




脳内には彼らの感謝で溢れてキャパオーバーしていた。



昼食が運ばれて来るまでの間にも会話がされているのだが、緊張でガチガチに固まってしまって上手く話に入っていけない。あと、気を抜いたら顔が勝手にニヤけてしまう!



こんな唐突なイベントにクレア様達だって少しは緊張して…


「二年生は魔法実習がメインだと聞いているのですが、どのような事をしているのですか?」


「一年の間には的を狙って魔法の命中精度を上げる授業がメインで、二年になったら生徒同士の打ち合いがメインでしょうか。お互いに防御と攻撃、両方を熟せるように訓練していますよ」



「ポルクス様は、休日はどのように過ごしていらっしゃいますか?」


「…何でそんなこと聞くのかなぁ?」


「知りたいからですわ!」



ないな?私だけ?あ、スーリズ様も緊張してる!仲間がいたわ!


ていうかレイラ様グイグイ行くな?!凄いわ!感心する!是非そのまま聞き出して下さい!


カストル様とクレア様は気が合うのか、話が盛り上がってるわ!私にはできない芸当ね!


…私達はコミュ症仲間よ!スーリズ様!



スーリズ様に対して仲間意識を勝手に感じながら待ち続け、配膳されてからも黙々と食べ進めて話題を振られたら無難に返して、また黙々と食事へ戻る。


至近距離に推しがいる状況で食べる昼食は味がしなかったし、まともに話できなかったし、本当にもったいないことした!!!






人生最大の後悔と推し供給過多の気分転換にと思って中庭を散策をしていた時、最近よく聞く令嬢の金切り声が遠くで聞こえた。


近づいてみると、絡まれていたのは案の定ヒロインのリリアーナ・レバン男爵令嬢だった。


「何をしているのですか?」


「シャルロッテ様!いえ、これは…」


「これは身分を弁えない彼女への教育ですわ!」


またこのパターン…。学園で流行ってでもいるの?


「では聞かせて頂きましょうか。彼女の何がいけないかしら?」


私の問いかけに絡んでいた二人ともが黙り込んで視線を泳がせていた。

パッと思いつかないんなら、やらなければいいのに。


「出て来ないのかしら?そうなると、貴女方は彼女に罵声を浴びせていただけになるのだけれど?」


「い、いえ、その…!」


「では、何かあるのかしら?」


「「い、、いえ!申し訳ございませんでした!」」


そう言い残して彼女達は早足で去って行ってしまった。


まったく、この程度で逃げてしまうのなら初めからしなければいいのに。といっても、彼女がヒロインだから仕方ないのかもしれないけれど。


「また助けて頂き、ありがとうございました」


「いいえ、気にしないで。怪我はないかしら?」


「はい、大丈夫です。ご心配頂きありがとうございます」


「なら良かったわ。もし怪我していたら医務室へ行くのよ?…それでは私は失礼するわね」


一言だけ告げてその場を離れ、午後の授業に参加するため教室への廊下を歩く。



…ヒロインちゃん絡まれ過ぎじゃね?助けたの五回目なんだけど?


直接危害を加えようとする人ばかりだからクレア様達の時と違って他の方達は庇っていない。それなのに味方になると思い込んでいる人が多すぎる!



こういう時は伝家の宝刀!お金!


今や我が伯爵家に勝てる資金力があるのなんて王家か公爵家くらいのものよ!それに食料生産を担う領地全てに支援しているからね!勝てるわけないわ!



脳内で威張り散らしながら教室へ入ると、やっぱり支援希望の人達に話しかけられる。


授業開始ギリギリに戻ってきたのが功を奏して、いつもよりは絡まれなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

あと一話投稿します!


「面白いなぁ!」

「続きが気になる!」

「早く投稿を!」


と思ったら!



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めちゃくちゃ面白かったら★★★★★

つまらなかったら★☆☆☆☆


正直なお気持ちで良いので是非!!


でも、

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