24.ショタコンはどこ世界にも存在する
学園祭準備期間に突入して学内には以前にも増して浮ついた空気が漂っている。
特に今日は一年生にその傾向が強く見られた。例に洩れず私も同じく気分が高揚している生徒のひとりでいつもより早く邸を出た。
それは私だけではなかったようで、メインストリートを歩いているリリィちゃん達を見かけた。
「ごきげんよう、皆様」
「ご、ごきげんよう、シャルロッテ様」
先に気が付いてくれたスーリズ様を皮切りに皆が「ごきげんよう」と返した。
「Bクラスも一限目が魔法学なんですの?」
「そうなの。楽しみですわね!」
準備期間に突入したとはいえ、授業は概ね通常通りに行われており、待ちに待った魔法学実習初日!
しかも、魔法学の実習は他のクラスとの合同だから皆と受けられる。
ついつい浮かれるのも仕方がない!
「ええ!座学は大事ですけれど、家庭教師に習ったことの復習ですもの!つまらなかったわ!」
「そうですね。楽しくはなかったです」
皆感じる事は同じだったみたい。クレア様とスーリズ様も頷いているし。
私達は魔法実習について話しながら更衣室へ行って、運動着に着替えて訓練場に向かった。
そこにはAからCクラスの生徒のほとんどが既に集合しており、それぞれの仲の良いグループで固まっていた。だから私達もそのままおしゃべりをしていたのだが、授業のチャイムが鳴り終わった途端に、教師が大声を張り上げて指示を出し始めた。
「おはよう!全員いるな!?今日から魔法実習に入るが、今日はひとりずつ魔法を的に向けて打ってもらう!それで次回からはお前たちの実力に応じた班分けを行い、授業をしていく予定だ!自身のベストを尽くすように!」
「「「はい!」」」
お、これはもしかしてゲーム初めのミニゲームでは?!
それは次々に出現する魔物が描かれた的に魔法を当てるというシンプルなミニゲームではあったのだが、途中から可愛らしい動物の描かれた的が現れて区別して狙うのが意外と難しかったのをよく覚えている。ぱっと見、色も形もそんなに大差ないって罠過ぎる!と何度キレたことか…。
「では、まずはCクラスから始めるぞ!」
Cクラスから順番に呼ばれていって、試験を受けるみたい。という事は、私の番はまだまだ先になる。
今一度おさらいすると、この世界の魔法には火、水、風、地、聖、闇の六つの系統が存在する。特に聖系統と闇系統はとても貴重だ。
血液に魔力は宿るといわれており、全ての生物が魔力を保持している。そのためすべての人達が魔法を使用できる。しかし、適性魔法以外の魔法が扱えるのはその半数程度。
そんな中で私は水系統に適性があり、闇系統以外はすべての魔法を操れるのだ。闇系統は本当にからっきしだけど…。
ヒロインであるリリィちゃんは聖系統の才能がずば抜けている。他の系統も実践レベルで使えるはずだけどね。
ヒロインはチートスゴイね!
そして、このミニゲームのスコアが攻略対象のチェスター・フィリップ君の好感度に影響する。
チェスター君は誠実な商人の父親と心優しい母親を持つ、攻略対象の中で唯一の平民。彼はその幼く可愛らしいルックスと人気声優によるショタボが大人気だった。そのうえ、悪役令嬢が彼の父親を貶めて無理矢理婚約者に為らざるを得ない状況に陥ったという経緯も同情を誘った。
しかし、ゲームではBクラスにいた彼も現実ではAクラスで、婚約者もいない。きっと悪役令嬢に煩わされる事なく、入学試験に集中することが出来たんだと思う。
のびのびと勉学に集中できている彼はきっと実技で最高得点を叩き出すことだろう。
そして現実では、ミニゲームと違って既に的が10個設置されており、魔法の発動数も10発と決められている。的の大きさは全て1メートル程度で、発動者からの距離が5メートル、10メートル、15メートル…とそれぞれ遠くなっている。
観察していたけれど、予想以上に生徒の発動する魔法がショボい。試験自体の難易度は高くないし、的自体も大きい。でも、観衆がいる事と評価され、後々に影響を及ぼすという事実が実力を発揮できない一因になっていると思われる。
というかそうであって欲しい。
一応下のクラスから行っているので、少しずつレベルは上がってきているけど、やっぱり異世界の学校と謂ったら魔法ドッカーン!!!っていうのを見てみたい。
派手な魔法を心待ちにしていると、リリィちゃんの番が回ってきた。彼女は得意な聖系統ではなく、見栄えのする火系統魔法を発動し、派手に的を破砕していく。
流石ヒロインと言うべき威力と精度で、教師含めた観衆が「「「おおッ!!!」」」という歓声が上がっているのもポイント高い…。私はこれが見たかった!ありがとう、リリィちゃん…!
彼女が試験を終えてこちらに合流する。他の人達に声を掛けられていてなかなかに時間が掛かっていた。
「お疲れ様でしたわ。リリアーナ様の魔法、本当に素晴らしかったわ」
いやもう本当に。異世界って言ったらこれでしょ!を体現してたよ。
「すごかったですわ!あのような精密な魔法を放てるなんて…!」
「わたくしも負けていられませんわ!」
彼女の魔法を見て触発されたみんながやる気満々になっていた。
しかし、当の本人からは「初めっから出来たら後々大変でしょ?だから手抜いちゃった。シャルも程々にね?」と茶目っ気たっぷりにアドバイスを受けたのだった。
そして段々と生徒が呼ばれていき、クレア様達も試験が終わってしばらく経った頃、私の名前が教師に呼ばれた。人混みをかき分け進み、指定された位置で立ち止まる。
これがあの、ミニゲーム…!
画面越しでプレイしたのとはすこし違うけど、リアル体験が出来て立っているだけでもう楽しい!感動する…!
しかし、ここで本気を出してヒロインより目立つのは私的にNGだ。
でも、へっぽこすぎてカストル様の顔に泥を塗るのはもっとNG。
卒のない結果を残して退場する。これ大事。
Bクラスの中で比較的早く順番が回って来たから平均的な実力のサンプルが少ないけれど、大体5~6枚の的に命中させていた。その中でリリィちゃんが8枚破壊で最高撃破数を誇っている。だから、私は5枚破壊に6と7枚目には魔法を掠らせて試験を終えるのが望ましいかな。
脳内で算段を付けて魔法を練る。
派手に行きたいわけではないから、風系統の魔法で的を真っ二つに切り裂いていく。
5枚目の的までは難なくクリア。
続いて6枚目、30メートルの的。
ひとつひとつの的がそこそこ大きいからといってもここまで距離が離れると流石に小さい。他生徒が5~6枚目のスコアで終える理由がここにきてやっと分かった。
そうは言っても、私には何の問題もない。外すこと前提でいるし。
3発をわざと外して9発目でやっと命中させて、最後の一発を7枚目の的ギリギリに掠らせて終了。
「ミッレ伯爵令嬢!一年でこれ程の威力が出せるのは素晴らしいな。さらに魔法操作を上達させれば、魔法士になるのも夢ではないぞ!」
「ご助言ありがとうございます。これからの授業では改善できるように努力致します」
「うむ。頑張りたまえ!」
最後にカーテシーをしてその場を離れると背後から教官の「次!ミュレー・ホルステイン伯爵令嬢!」という大声がした。
私としてはとても満足いく結果だった。
リリィちゃんに負けているとはいえ、Bクラスの中では優秀な分類に入れたことだろう。
クレア様達の元へ戻ると労いの言葉を贈られて、他生徒の魔法を見学しつつお喋りを楽しんでいた。
授業終盤、ひと際大きな歓声が上がった。それはリリィちゃんの時よりも格段に大きい。
「何かしら?」
「人垣で見えませんわね…。わたくし、確認してきますわ!」
レイラ様が人波の中に突撃していった次の瞬間にも魔法の着弾音と共にまた歓声が上がる。
それが何度か繰り返され、着弾音が止んでしばらくするとレイラ様が戻ってきたのだが、いつもと様子が違う。
何かあったのだろうか…?
「レイラ様?大丈夫ですか?」
声を掛けると俯いていた顔がバッ!と上げられ、爛々と輝く瞳が私を打ち抜いた。
「先程の音聞こえてまして!?チェスター様というAクラスの方だそうですが、10枚すべてに魔法を命中させていましたの!あの小柄な身体から放たれる苛烈な魔法…。素晴らしかったですわ!!」
そこからもいかに強力な魔法だったかとか、いかに発動までがスムーズであったかとか。
こんなにも饒舌に話すレイラ様は初めてで、そこそこ長い付き合いのクレア様やよく服飾品について議論を繰り広げているリリィちゃんも驚きに目を丸くしていた。
「わたくし!チェスター様にピアスを渡しますわ!」
そう言って締め括ったレイラ様の瞳は肉食獣のように鋭い。
学園祭でピアスを贈る=告白or婚約者
の数式が成り立つ。
それだけ感銘を受けたって事なのだろうけれど、判断が速すぎる…!
その日の放課後。
レイラ様は先日訪れた宝石商にてデザインの修正を行い、「判断だけじゃなく、行動も速…!?」と私達がまた驚くことになるのはそれから数日経った後だった。
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