23.上等なピアスをッ!
セントラル学園祭
それはゲーム内でもトップクラスに重要なイベントである。
何故重要なのか?
告白イベントが控えているからだ!
現実のセントラル学園祭にも想い合う男女の恋を早急に育む、甘やかな浮ついた空気が流れている。
「シャルロッテ様はカストル様にだとして。皆さんはどなたにピアスを渡すか決まっていますの?」
普段からクール美人なクレア様もいつになく浮かれている。
それだけでこのイベントへの期待が分かるというもの。
これには、セントラル学園祭で脈々と受け継がれてきたとある物語が存在し、それに肖った風習が発端となっている。
この学園が出来てまだ間もない頃。
ひとりの王子と令嬢が恋に落ちた。
しかし、その恋は茨の道でしかなかった。
王子は将来民を導く王になることを、令嬢は辺境家であったため近接する家同士の縁を望まれていた。
学年も違った彼らは日々の中で皆の視線から隠れるようにしてひっそりと逢瀬を重ねていた。
互いを想う心がどれだけ尊かろうとも、各々の責務からは逃れられない。
そんな折、ふたりで過ごせる最後の学園祭が粛々と幕を閉じようとしていた。
“私が卒業するまでこれを毎日欠かさず、身に着けていて”
“かしこまりました。毎日、必ず”
そのようなやり取りと共にお互いの瞳の色味のピアスを交換したのだった。
それを物陰から観ていた精霊は彼らが引き裂かれる運命に身を委ねていることに憐みを抱き、天に希った。
“もし、叶うならば。彼らに祝福を…”
祝福を与えられた者達を引き離すことは何人たりとも叶わず、夫婦ともに国の発展に寄与したのだった__。
ゲームでは恋仲がピアスを贈り合う伝統があるよということしか説明書きがなく、初めて聞いた時は現実では何とも乙女ゲームらしい逸話に改変されているのだなという感想しか湧かなかった。
おかげで、イベント効果で恋人や婚約者が出来ちゃう?!と浮かれまくっている人達が急増する時期である。
でもこの言い伝えで違う見方をするなら、騎士団長の息子ルートの干ばつ対処のヒントになっているのかなと思わないでもない。
これを聞いて「精霊は絶対いる!!!」なんて言った日には精神異常者扱いされること間違いなしだけど。
だからこその脳筋バカなヴェルデルディ・ロードロクスのルートでしか精霊が出て来ないんだろうね…。
性格に忠実というか適当というか何というか。
今更ながら、制作陣にもう少しなんとならなかったのかなという思いが湧かない訳でもない。
まあ、それはさておいて。
私とリリィちゃんにはやらなければならないことがある。
それは、ピアス選びである。
私は婚約者となったカストル様に。
リリィちゃんは想い人のポルクス様に。
男性が普段使いしていても違和感のないデザインかつ、侯爵令息が身に着けていても貧相に映らないもの。
特にリリィちゃんはこの学園祭でポルクス様が受け取ってくれるかどうかで現在時点の好感度を計る目的もある。
ゲーム内では二年次の学園祭で恋仲になれなければ、最高でもトゥルーエンドとなる事が決定してしまう。
そして、現在のストーリー進行度はほぼ間違いなく、一年早まっている。
そう。つまりこのイベントが今後の未来を左右する分岐点。
つまり、生半可な心境で挑めるイベントではないのだ!
という訳でやってきました!宝石商!
学園が休日の本日、リリィちゃんだけでなくクレア様達も一緒である。
贈る相手が決まっていなくても作成しておくのが決まりなんだとか。
自分の瞳の色を用いたアクセサリーで男性的で無難なデザインを選んでおけば外しはしない。
しかし、この飢饉で喘ぎ苦しんでいる状況ではほとんどの貴族にとってはお財布に優しくない出費である。
そして、私達婚約者や想い人がいる場合にはセンスも問われる。
相手の容姿だとか、爵位だとか、家紋だとか色々な側面から考慮しなければならない。
まあ、ヒロインなリリィちゃんには関係ないのだけれども。
「私はこのモチーフに、宝石は…このローズクォーツにします!」
羽ペン選びで迷っていたのが嘘のようであるが、仕方がない。だって、イベントスチルでどんなピアスを贈るのかもう既に分かっているのだから。
因みに私はそんなに詳しく覚えていない。事前にリリィちゃんから「カストル様に贈るピアスのデザインを教えようか?」と提案されたのだが、丁重にお断りしておいた。
リリィちゃんの色味だったからこそ、デザインとの調和がとれていたのであって私の濃い赤色では合わないと思う。
あと、ちゃんと悩んで選ぶべきだと思ったのだ。私の姿を想像してカストル様も自身の色を落とし込んだピアスに頭を悩ませていると思うから。
私の瞳自体濃いめな赤だからシンプルなデザインに…。いや、敢えてのワンポイントもありかも?
頭を悩みに悩ませて、トップは最高級ルビーの一点のみ。これぞ正しく、シンプルイズベスト。
私よりも時間を掛けて真剣に選んでいたスーリズ様がやり切ったと満足げな笑顔を浮かべたことで全員のピアスデザインが出揃った。
皆で完成後に邸へ配達するよう店員に言付けて、宝石商を後にした。
その後は、前々から一緒に行きたいと話していた『ミア・フィーユ』へと向かい、他愛ない会話に花を咲かせたのだった。
最後までお読みいただきありがとうございます!
2025.5.6
2025.7.14
誤字脱字報告ありがとうございましたm(_ _)m
本当に助かります…!




