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19.さあ、恵みの雨よ!

この世界における魔法は無から有を生み出さない。

ならば降雨を発現させるにはどうするのか。


それは水のある地域から必要とする場へ持って来るのである。




私は今、港町に足を運んでいる。

青い空と碧い海、白い砂浜、照りつける太陽、そして漁師など地元民の賑わう声。


飢饉に侵されている国とは思えない溌溂とした空気がそこにはあった。



ここは港町・センビリー。


港から少し離れた場所にある観光地として整備された島を大橋でつないでいるため『ブリッジアイル』とも呼ばれており、貴族にも人気の観光名所である。



ここは魔法を発動するには些か人目があり過ぎるが、ひとつふたつ隣町にいけばたちまち人気はなくなる。そのため昼間は観光地であるここでバカンスを楽しんでいる風に見せて、夜間に岸まで行って魔法で雨雲を発現させるのだ。


観光客向けの高級宿にチェックインをして後は時間が来るまで自由時間だ。




そんなわけで、夜まで遊ぶぞー!




街並み散策で海の幸を堪能して海辺で海水浴、ここからが大事なのにはしゃぎすぎて疲れた…。


部屋で少し休憩を取って夜の帳が降りたらいざ、大海原へ!



…なんてことはなく、ヴァニストと一緒に乗馬で隣町まで駆け抜けるだけです。


目的地は比較的漁業に向いていない海岸沿いを探してもらった。それがちょうどセンビリーからふたつ隣の町だったのだ。


町に到着したら海面の上空にて魔力を練り上げていく。


イメージとしては雨が降りそうな分厚い雨雲……。

蒸発した水が上昇気流で上空に運ばれる、これを実現するためには水魔法と風魔法と火魔法が必要だ。


私の得意魔法は水魔法なので出来ると言っても結構大変で魔力を食う。


火魔法で水を蒸気に変質させて風魔法で生じさせた上昇気流で上空へ。



ただただこれを繰り返し続けること数時間。センビリーを出発した当初は晴れ渡り月が見えていた空が想像通りの分厚い雲に覆われたのだった。


そして私の魔力は枯渇ギリギリだった。




翌日。


天候は昨夜のこともあり、人々に念願の慈雨が降り注いだ。


本日は外へ買い物に行けないので、泣く泣く課題に時間を割く。

本当はしたくない。全力で遊んで夏季休暇を満喫したい。けど、そんな度胸が私にはないので大人しく課題に勤しむ。


そして夜になればまた宿を抜け出し、雨雲を生成する。




また翌日も雨。


昼間は課題に注力して夜になればまた雨雲を作り出すために宿を抜け出して。




そんな日々を数日間過ごしていたある日。

数日振りにセンビリーにて雨が上がり、空模様は曇天。


私達は宿をチェックアウトしてポールスト侯爵領へと向かった。



このタイミングで出発した理由は二つある。


ひとつは、雨を降らせるタイミングの全てをこちらが操作できるわけではないため、ポールスト侯爵領以外で出来る限り雨を降らせることなく雨雲を移動させたかったから。


二つ目は、雨の中での移動は大変だから。馬も足をとられるし、視界も不良だし。良い事がひとつもないのだ。






待った甲斐があってか順調に馬車は進み、夏季休暇後半に差し掛かる頃ようやくポールスト領に赴くことができた。


でも、あくまでも他家の領地なのでお忍びで回っていく。魔法を使って疲れてしまったら休憩したり、街を散策したりしてしっかり満喫することや宿屋では課題を済ませることも忘れない。


雨が降ることで領民の皆さんもとても喜んでいた。数日間降り続く雨は枯れそうになっていた野菜に活力を与えていった。それに気づいた農民達がさらに歓声を沸かせて。


雨が降るだけではどうにもならない池や湖、川、貯水槽、井戸…色々なところに魔法を駆使し、水を提供していく。


そして、夏季休暇終了間近に全ての街を周り終えた。その時には入領した当初の暗く沈んだ表情はなく、喜びに満ちていた。

自分が誰かの役に立てたのだと思うと、とても充足感があって。


これできっと現状が良くなると思うから、ポールスト兄弟も少しは安心できるし、もしかしたら他家に頼る必要もなくなるかもしれない。心配事が減ったポルクス様はリリィちゃんとの恋愛に集中できることだろう。


根本的な解決にはまったくなっていないのは分かっているけど、それでも時間は稼げたはず。




後はリリィちゃんの健闘を信じるだけ。






視察の帰り。


馬車に備え付けられている窓には水滴が次から次へと降り注ぎ、形を変えている。


ここ最近、数日間に亘って細雨が降り続いている。

干ばつによる影響が著しい我が領においては正しく、恵みの雨。


そして周辺の貴族領とも連絡を取り合っているが、そちらでも連日雨が降り続いているそうだ。

かといって晴れ間が全くないわけでもなく、雲の隙間から太陽の光が燦燦と照りつけもする。


麦の収穫直前に、この天候。


今年の予定収穫量は大幅に上方修正されることでしょう。これもひとえにここまで尽力してくれた領民たちと充分以上の資金援助を継続してくれているミッレ伯爵家のおかげですね。



…彼女に私の釣書はもう届いたでしょうか。手に取ってもらえたでしょうか。


私を、選んでくれるでしょうか。


空は相も変わらぬ曇天で。まるで現在の私の胸中のよう。

それに反して民はみな、喜色を滲ませていた。


窓からの流れゆく景色を何となしに見つめ続ける。

その中に、私の脳内から消えてくれない一人の女性の姿があった、気がした。


「どしたのぉ?」


無意識のうちに腰を上げていたらしく、ポルクスが問うた。


「…いえ。何でもありません」


「あっそぉ」


浮いた腰を座席に戻し、また窓の外へ視線を向ける。

そこには変化し続ける雨粒がある。






私を選んでくれないものでしょうか?




再度、解の出ない自問自答をする。

書いていて、「水の自然循環みたいな自由研究、小学校の時にしたなぁ」っと懐かしくなりました。

つまり小学校で習う程度の知識しか作者は持ち合わせていません。雨云々の件は「そんなもんかぁ」くらいに流してください…m(_ _)m

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