17.ストーリー時短入りました?!
「前期末試験、終わりましたわ!」
レイラ様の喜びように笑みを零しながら、内心全力同意をした。
二日間に亘る試験が終了して今はお昼時。午後からの授業はないので、みんな思い思いに解放感を満喫するのだ。
「皆さまの自信はどうかしら?」
私の問いかけにそれぞれが思い思いに答えてくれる。
「自信しかありませんわ!」
自信たっぷりに胸を反らすレイラ様。
「やれるだけの事はしましたもの。なるようになります」
貴族らしいオーラを纏って微笑むクレア様。
「頑張りました…」
疲れを滲ませているスーリズ様。
「図書館に通って頑張りましたから!」
どう考えてもポルクス様とのことしか頭になさそうなリリィちゃん。
そして私はカストル様のおかげで手応え充分なので、その達成感を噛み締めていた。
しかし、悠長にしている猶予が狭まっているのも事実で。
その証拠にカストル様方は巧妙に隠しているけれどふとした瞬間に憂いを感じる。
「カストル様。何か、悩みでも?」
「いえ、お気になさらないで下さい」
尋ねてもはぐらかされるのも予想通りではあるが、心配なものは心配なのだ。
彼らの悩みはポールスト領についてである。かの領地からは都度報告がなされるように指示してあるのだ。領地の今後が目下の懸念だろうね。
また近いうちに方向性の擦り合わせが出来れば…うん?
テーブル下で何かが私の脚を叩いてくる。身体を動かすことなくそちらに手を伸ばすと紙の感触があり、引き寄せるとそこには“何か知らない?”とメッセージが記されていた。
差出人は十中八九リリィちゃんだろう。
話をするなら早い方が良い。今日この後の王都散策に断りを入れてリリィちゃんには帰り際にこそッと耳打ちして『ミア・フィーユ』へ向かい、そこの個室で合流を果たした。
「で。ポールスト領何かあった?」
「うん。今ね、他領からの移住者が増えてて金銭負担がさらに膨れ上がっているらしいの」
人材の流入により、治安悪化対策として私兵の人件費、孤児院の補助費増額、炊き出し等の領民支援費増額といった支出負担が拡大しているらしい。それに加えて干ばつの影響を受けて農作物の想定収量がかなり少ない事も心労のひとつとなっているようだ。
炊き出し等はボランティア活動に当たるため経費削減を謳って活動終了も出来るだろうにそれをしないのはポールスト侯爵家当主が良心ある領主ということだ。
が、しかし。
「充分な額の資金援助をしているはずなのに、追い付いてない」
「…それってさあ、展開的におかしくない?だってこの国が限界を迎えるのってゲーム中盤だよ。私達まだ序盤も序盤よ?」
「そうだけど。ゲームと今とじゃ、違うところが多すぎるのも事実だよ」
「それもそうなんだけどさぁ…」
ふんわりとした可愛らしい顔に似つかわしくなく、リリィちゃんは眉間に皺を寄せた。
ゲームでは年々凄惨さを増す飢饉にポールスト領及びメアスミレ王国全土が窮地に立たされる予兆が始まるのはヒロインが二年生夏季休暇以降のはずである。
なのに現実では一年時に兆候が出ている。
もしかして現実ではヒロインであるリリィちゃんのストーリー展開に応じた進行度になっている?
いや、私が援助したことで救われた命も多ければ、その分食品消費量も増大する。
これは、私が撒いた種の可能性が一番高い。
とにかく悠長にしてはいられない。
「資金援助だけじゃ賄えてない現状をどうにかしないと…」
「…もう、エンディングに向けて動くしかないんじゃない?」
「それって…」
「一・二年の夏季休暇イベントこなして、学園が始まったら飢饉をどうにかする」
「…時間がなさすぎるよ」
「無理難題でも何でもやるしかないでしょ!」
覚悟を決めたリリィちゃんの力強い眼差しに私も心を決める。
「…うん、分かった。私はこの休みの間何したらいい?」
「資金援助!…と言いたいんだけど、それだけじゃ駄目っぽいんだよね?」
「そうだよ。………雨、降らしてみる?」
一種の賭けを提案してみた。
現状維持として進行度調整のためには魔法で直接雨を降らすしかない。
本当は介入すべきではないのかもしれないが、このままにしておけない。
最悪、カストル様とポルクス様の両方が政略結婚のために望まぬ婚約をさせられるのだから。
今さら悪役令嬢に出張って来られても困るのだ。ポルクス様がリリィちゃんに対して興味を持っている今、さらなる憂いを負わせる訳にもいかない。
「…それしかないかな、うん!あの面倒な悪役たちがまた登場するかもしれないし」
「良い感じに頑張るから任せて!そっちはひとりで大丈夫そう?」
「もち!この世界に転生して何年あったと思ってるのよ?十年もあればカンストくらい訳ないって!」
「いや、そこまでは求めてないよ!」
「でも、雨が降らせるってことはシャルもカンストしたでしょ?」
「したけど…!」
「ほら~!」
得意げに笑う彼女に釣られて私も笑みが零れた。
好感度と共に重要なステータス・魔法熟練度。
この現実となった世界で自身がカンストしているかどうかを判断する要素は、前世のゲームでカンストした場合にのみ使用できる魔法の存在。そのひとつが人為的な降雨である。
つまり、リリィちゃんと私はどちらも既に攻略に沿うだけのステータスにあるという事。
お互いに作戦を立て、リリィちゃんは一・二年次の夏季休暇に起こるイベントを熟して回ることに。
私はポールスト領に雨を降らして干ばつの影響緩和を。
私は私で大変な部分もあるけれど、彼女は魔獣討伐イベント・領地訪問・好感度上昇イベント等々…
二年分のイベントを攻略するのはなかなかに骨が折れるだろう。それ程にイベントは目白押しだ。
「あはは!シャルにヒロインの座奪われちゃうかも!」
「モブに盗られないように頑張ってよ!」
「了解!…ヒロインの活躍の場、残しておいてね?」
「私、調整は得意なんだ」
こうして健闘を祈り合って、私達は解散した。
期間は約二か月。
しかし、前世と違い移動に何日もかかってしまうのだ。一分一秒を無駄には出来ない。
早速翌日にはオーナーを務める店舗それぞれを周った。普段から経営の殆どを委託しているような状況のため、多少の報告を受けてすぐに準備を整え、領地へ向かった。
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