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閑話.実録! セントラル学園ファンクラブ!

セントラル学園ファンクラブ。




それは男子達には秘匿された令嬢達のための推し活の場。


しかし、神聖な場へと至るのは幾へもの試練が待ち構えている___。






「あ、あった」


ここは学園内の端にある空き教室で普段は誰にも使われていない。


しかし、ここはファンクラブ活動連絡を行う唯一の場所となっている。

ファンクラブに加入するためには入学してすぐに自力でこの場所に到達するか、時期が過ぎたならば会員に招待してもらうかの二択。大体の加入者は先人たちからその情報を仕入れてから入学を果たしているが。


この場所に人が出入りしすぎるとファンクラブの存在が露呈する危険があるため活動終了前に次回活動の連絡役が決定されるのだ。

そして今回の連絡役のひとりとして私が選ばれたため週に一度、この空き教室を訪れてはメモ書きがないかを探していて、前回のお茶会から一か月後の今日、やっと手触りの良い封筒を発見する事が出来た。






お茶会への招待状


5月30日の放課後、語らいの御許で各自が茶菓子を持ち寄り、親睦を深めましょう。

お互いに有意義な時間を過ごせますよう。






たったこれだけが綴られた一通の手紙。


ファンクラブの存在を知らない人が見てもあまり違和感を持たせない手紙で、もし疑問を抱いてもお茶会の招待状だとか儚い恋に身を焦がしているのだな、と勝手に妄想してくれるのである。


さて。

これを伝言して回らなければならないのだが、私はあまり友人と呼べる人が少ないから違和感なく会話できる人材が限られている。

しかし、何も全員に言って回らなければいけない訳じゃない。ファンクラブ会員の数人に声を掛けて、そこからまた伝言ゲームがされていくのだ。つまり、この最初の数人の人選が大事なのである。私と同じように交友関係が狭い人に伝言しても功を奏さない。



ならば…。






「本日はお招き頂きありがとうございます」


「あらごきげんよう、シャルロッテ様。お待ちしておりましたわ」



私が会場へ着いた頃には十人ほどのご令嬢が集まっていた。

そのほとんどは高位貴族の御令嬢であるため華やかさと高貴さに溢れていた。


高位貴族の御令嬢が多い理由は、家名を背負っている為に迂闊な言動を出来ない彼女らにとって唯一自身の本音を曝け出しても不問となるのが、このコミュニティだから。


殿方についてキャッキャウフフと盛り上がっているなんて誰も言いふらせないし?



しかし、このファンクラブはそれだけではなかったりする!



「うふふ。今日は我が商会のスイーツ監修も手掛ける料理長特製レモンフィナンシェをお持ちしましたの。皆さまのお口に合うと良いのですけれど」


「まあ!楽しみですわ。(わたくし)は西方諸国のごく一部で食べられているというお菓子をお持ち致しましたの。数はありませんが、ぜひ皆様に食べて欲しくって!」


「他国のお菓子だなんて貴重な品を…ありがとうございます」


「いいえ!こちらこそですわ!」



高位貴族という事はそれだけ伝手があるという事に他ならず、物珍しいスイーツがそれぞれのテーブルに所狭しと並ぶ。

そのためこのお茶会の表向きはスイーツ好きによる道楽お茶会と認識されており、中にはお菓子目当てでファンクラブに加入している人もいるのだ。



知らないお菓子ばっかりで見ているだけでドキドキワクワクする~!



持ち寄ったお菓子は主催者であり、この中での最高位権力者の使用人に手渡してそれぞれのテーブルへと分配される仕組みとなっている。


もしファンクラブの情報が漏洩された場合に主催者の名誉にかけて犯人を特定するという不文律の基こうなっているらしい。


このお茶会はある程度の無礼講が引かれているため席は自由となっているのだが、今回は参加以前に声掛けをしているので、目的の人物たちが座るテーブルへ進む。



「こちらの席にお邪魔してもよろしいでしょうか?リリアーナ様、スーリズ様」


「お待ちしておりました、シャルロッテ様!どうぞお掛けになって下さい!」


「シャルロッテ様…い、いらっしゃいませ…!」


「うふふ。お邪魔します」



昼食で顔を合わせるスーリズ様とリリィちゃんが三人掛けのテーブルを抑えて既に待ってくれていたようだ。


今回参加するお茶会が二回目となる私なのだが、一回目の時にスーリズ様の姿を見つけてとても驚いたんだよね。

だって儚げで物静かなスーリズ様が誰かに熱を上げているのなんて想像できなかったんだもん!


因みにリリィちゃんは今回が初めての参加。前回の参加には都合が合わなかったらしい。



「さあ!時間は有限ですからね!お話ししましょう!」


「そうね。その前にまずスーリズ様はどなたの事をお慕いしているのかしら?私とリリアーナ様はポルクス様なのだけれど」



私がスーリズ様に問いかけると頬を紅潮させて俯き、恥じらう。


儚い系の赤面顔って、何というかほっこりするなぁ…。



「そ、その……私、頼りになる男性が好ましく感じるのです…。例えば、ロ、ロードロクス様とか…」


「「!」」



まさかここでこの名前を聞くことになるとは…。


リリィちゃんも同じくそう思ったのか目を見開いていた。



ヴェルデルディ・ロードロクス。

第三王子殿下の側近候補にして騎士団長の息子。


攻略対象者のひとりだ。


ゲームでのこの人を分かりやすく例えるならば、『熱血脳筋馬鹿』である。

その分熱烈でストレートな言葉をくれる所に好感が高いキャラクターでもあった。


我が儘放題に傲慢で、自身をアクセサリーのように扱う悪役令嬢にも誠実であろうとする生真面目さがゲーム内の彼の心を疲弊させていく。それをヒロインとの交流で癒していく、というストーリー展開もなかなか評判が良かった。


でもそれがなければ顔貌の良い筋肉ゴリゴリマッチョなのだが…。



「ロードロクス様は剣技の腕前が素晴らしいと、学生でありながら騎士団との訓練に参加許可が下りているほどの方ですものね」


「!はい!そうなのです!あのしなやかで逞しい筋肉は素晴らしいのです!解って頂けますか!?」


「え!?ええ…」


「嬉しいです!あのお方の広背筋は厚みが素晴らしいだけでなく漢らしさも溢れていまして!まさに『背中で語る』を地で行くような頼もしさで……!」


「そ、そうですわね…?!」



あの普段のオドオド感はどこに行ったのやら、スーリズ様によるマシンガントークが止まらない止まらない!

隣から「まさかスーリズ様が筋肉フェチだったなんて…」というリリィちゃんの呟きに心の中で完全同意しておいた。


途中からどのタイミングで呼吸をしているのか分からないほどの早口で心配してしまうほどの熱烈な筋肉語り。

あと、筋肉の部位名が沢山出てきましたが、その殆どが理解できなかった…。



マシンガントークを始めて約十分。やっとスーリズ様の口が止まり、紅茶で喉を潤した。



「ふぅ……。…し、失礼しました。私の嗜好をお話しする機会なんて普段なくって…」


「いいえ。スーリズ様のお好きなものを知れて良かったですわ」


「そうですよ!ここは好きな物を好きだというお茶会ですから!」


「ありがとうございます…!私ばかりお話ししてしまいましたが、お二人はポルクス様を、その…お慕い、していらっしゃるんですよね…?」



お慕い、という言葉に照れてしまうスーリズ様が可愛い。



「そうです!ポルクス様の事が好きなのです!…出来る事なら、婚約者になりたいと思うのです」


「そ、そうなのですか…!?シャルロッテ様もですか…!」


「いいえ?私はただポルクス様が幸せになって下さればそれでいいのですわ。それに、私ではポルクス様と趣味趣向が合いませんもの」


「そ、そうなのですね。よ、良かった…」


「うふふ。心配して下さってありがとうございます」



ホッと安堵している姿を見ると気を遣ってくれたようで嬉しい。



「その。お二人が思う、ポルクス様の素晴らしい所を教えて下さい…!」


「そうですね…。私はポルクス様のセンスが好きです。お話してしてとても楽しいです!…最初はただの一目惚れでしたけれど…」



リリィちゃんが恋する乙女のように頬を染めていた。


右見ても左見ても可愛いのだが。これが両手に華ということか…。



「シャ、シャルロッテ様はいかがですか?」



恥ずかしがったリリィちゃんが今度は私に問いかけた。



ポルクス様の、素晴らしい所…。



少しの思考の末に口を開く。



「…ポルクス様が、自由でいらっしゃるように振舞うところでしょうか」



私の返答に?を浮かべて首を傾げた二人。

納得してくれるかは分からないが言葉を続けていく。



「侯爵家の次男ですから自由であるはずがありませんけれど。それでも振る舞いが自分本位であるかのように他者には社には映ると思います。何か考えがあると思いながらあの方を観察していると、不意に悲壮感が漂っているかのように感じてしまう事があるのですわ」



基は乙女ゲームのバッドエンドスチルからハマった。


けれど、現実のポルクス様の事を知れば知るほどキャラクターとの違いを感じて、ああはなって欲しくないと思った。



「ですから私は、ポルクス様の憂いが晴れる事を願っているのですわ」




ゲームではない、本物の『ポルクス・ポールスト』に。




だから、私が今の彼を気にするのはこれが本当の理由。



「そうなのですね…!何だか、シャルロッテ様に母性のようなものを感じてしまいました……」


「私もです。とても慈愛に満ちたお顔をなさっていました」



なぜか感激したといって様子で私を見つめているスーリズ様と少しニヤついているリリィちゃんがいた。

何だかそれを目にするととても恥ずかしさが込み上げてくる。



「お二人ともからかわないで下さいませ!私の事はもういいですから、お話を聞かせて欲しいですわ」


「仕方ありません。この話は終わりにしますね?シャルロッテ様?」


「リリアーナ様~!」


「うふふ…!冗談です」


「もう!」


「ふふふ…!」



散々笑われた後に話題を変えてお互いの『推し』について時間いっぱいまで盛り上がった。

テーブルに用意されていたスイーツもどれも美味しくて途中は好みのお菓子についても花を咲かせた。



普段聞き役になる事の多いスーリズ様の事を知り、また堅苦しかった言葉遣いを緩める事にも成功した。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

おしとやか系とか儚い系の女の子には筋肉フェチ属性だと思うのは作者だけですか?

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