12.悪役令嬢登場につき、喧嘩を買う
「貴方が、シャルロッテ・ミッレ伯爵令嬢?」
「…そうですけれど」
「あらぁ、そうでしたのぉ?これがぁ、あの有名なミッレ伯爵家のご令嬢だなんてぇ!みすぼらしいわぁ」
珍しく他の方達と都合が合わず、私とリリィちゃんだけで食事を摂っていた所に野太い声で高笑いを上げながらこちらを見下してきたのは、今作の悪役令嬢キャラ、メザリアン・ロンド侯爵令嬢とミザリン・ロートシルト侯爵令嬢。
両方とも地味な茶髪茶眼に大量の宝石が付いたギラッギラの髪飾りやボタン、ネックレス、指輪を隙間なく嵌めている。
そして、それ以上に彼女達の豊満の域を超える身体が目立っている。
カフェテリア窓際のテーブルにいる私達に近づいている時も、ドスッ…ドスッ…と鈍い音が響いていて思わず振り向いてしまったほどで、この場にいる生徒達の視線を集めていた。
ゲームではメザリアンがカストル様の婚約者に、ミザリンがポルクス様の婚約者として登場し、婚約者、身に着けている物、容姿、身分、学年など、あらゆる面でヒロインを罵倒してくる。その上でいい雰囲気になったヒロイン達を無理矢理引き離してくるのだ。
しかし、なぜふたり?そして、なぜ私に声を掛けるのか。訳が分からない。
「…何か御用でしょうか?」
「嫌ぁねぇ、そんなに睨みつけないで下さるぅ?怖いわぁ」
「「…」」
ねっとりとした、鬱陶しい喋り方がミザリンだ。
字幕でさえウザかったのに、現実になると更にウザさに磨きがかかって平手が出そう。
抑えろ……抑えろ私ぃ…!
「あたくしはぁ、そこにいる男爵令嬢に用があって来たのぉ」
「で、わたしは貴方に言いたい事があるんだけど?このわたしを無視するなんていい度胸ね!」
「「…」」
ヤバイ、リアルで二人揃ったらゲームの数十倍ウザい。しかもなぜか喋っているだけで癪に障る。ゲームプレイしてた時の苛立ちが今になってぶり返してきたから自分を落ち着かせるのに大変なんだけど!
あと、無視はしてない。
「どのようなご用件でしょうか、ミザリン様?」
リリィちゃん!?すっごく気持ちは分かるけど、何でケンカ腰なの?!眼、据わっちゃってんじゃん!
貴女家格一番下だよ?!大丈夫?!?!
その様子を見た彼女達も眉尻を上げて臨戦態勢に入っていた。
「あらぁ?男爵令嬢風情がぁ、何偉そうな口利いてるのかしらぁ?あたくしはぁ、侯爵令嬢なのよぉ?身の程を弁えてはいかがぁ?」
「私はただご用件をお伺いしただけですが?それ以外の何に聞こえたのでしょうか?再度お伺い致します。どのようなご用件でしょうか?」
火に油ぁー!!!
何でそんな言い方するの!?私に「助けて」って言った貴女は!令嬢達に囲まれて意地悪されていた貴女は!どこへ行ったの!?ゲームではしおらしくしてたんだから忠実に再現しようよ!
ハラハラとしながら彼女らのやり取りを見て危なくなったら助太刀に入ろうとしていた。
しかし、突然。
バンッ!!!
という打撃音がすぐ近くで響いて、リリィちゃん共々肩がビクッと跳ねた。
そしてすぐテーブルを叩いた張本人が鬼の形相を浮かべて咆えた。
「わたしを!二度も無視するなぁ!!!成金伯爵風情がぁ!!!」
こっわ!図体のデカさもあって迫力あり過ぎ!十代の風格じゃないでしょ!こんなの!
でも、ここで負けるわけにはいかないわ!これでも私は伯爵令嬢ですもの。
「無視したつもりはありませんわ?先程、御用をお伺い致しましたのに答えて下さらないから、待っていたのですわ」
「減らず口をッ!そんな貴方にカストル様は相応しくないのよ!さっさと身を引きなさい!」
凄みの増した顔に更に睨みを利かせている悪役令嬢メザリアン。
だけどひとつ言いたい。なぜここでカストル様の名前が出てくる?
私はヒロインでも悪役令嬢でもない、ただのモブだ。なのに何で、悪役令嬢が私に因縁をつけてくる?本当に意味が分からないんだけど?
「…おっしゃられる意味が分かりませんが?私とカストル様に何の関係があるというのでしょうか?」
「ふん!この期に及んでまだ惚けるのね、白々しい!貴方がポールスト侯爵家に援助をしているでしょ?」
「ええ」
「その援助を理由に、カストル様に言い寄っているのでしょう!?なんて厭らしい!!」
はい?!完全に誤解だし、言い寄るならポルクス様がいいわ!
しかしそんなことなど知る由のない彼女はさらに言い募る。
「汚らわしいその手でカストル様に触らないで!…ああ、思いを踏みにじられてカストル様が本当にお可哀想だわ」
彼女のその言葉にカチンときてしまった。
ゲームでは散々邪魔して、ヒロイン達の気持ちを踏みにじったのはお前らだろうが!
「…私は決して、カストル様とそのような関係ではございませんが?これ以上虚言をおっしゃられるようであれば、我が家はロンド侯爵家とロートシルト侯爵家とは今後一切、関わらないように致しますが、よろしいでしょうか?」
「ふん!成金伯爵家風情が大言壮語も甚だしいわ!出来るようならやって見なさい!一か月後に泣いて謝罪するのは貴方よ!」
「ちょ、ちょっとぉ?!」
巻き込まれたミザリンは可哀想かもしれないけど、私達にケンカを売った貴方達が悪い。
あと、ゲームで散々馬鹿にしてくれたのも。
「では、ここにいる皆様が証言者です!我がミッレ伯爵家は、ロートシルト侯爵家及び、ロンド侯爵家との関りの一切を断ちますわ。覚えておいて下さいませ」
「や!あたくしはぁ!そんなこと一言もぉ…!」
「ゴチャゴチャと言っていないでさっさと行くわよ、ミザリン!…次に会う時が楽しみね、シャルロッテ様?」
「ええ。楽しみにしておりますわ」
お互い目の奥が笑っていない形だけの笑みを浮かべて次回の約束を取り付け、メザリアン達はドスッドスッとカフェテリアを去っていった。その際、ミザリンはこちらをチラチラと何度も振り返っていたのだが、笑顔で黙殺してやりました。
隣では成り行きを見て私を心配そうに見つめるリリィちゃんがいる。
「…大丈夫なのですか?」
「ええ、問題ないわ。うふふ…」
安心させることに失敗したようだけど、そんな顔をしなくてもまったく問題なんてないよ?
何て言ったって今の私は資産家だもん。
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