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11.カストル・ポールストの苦悩

「じゃ、俺ちょっと行ってくるわ~」


「ちょっと?行くとはどこへ…」


「すぐ戻るってぇ」


「ポルクス!待ちなさい」


私の言葉に耳を貸すことなく、遠ざかっていく。

思わず「はぁ…」と溜息を洩らした。




私には悩みがいくつかあります。



ひとつは領地の事。


我が国全土を襲った干ばつにより領地の大半が耕作地である我が領は農作物への被害が酷く、領民が飢えてしまうほど。


しかし、この問題に関しては資金援助を受ける事でどうにか凌げているのです。現状は。



二つ目が婚約者選定。


侯爵家の税収入がほぼゼロになっている為に、資金繰りに苦労している貴族は見向きもしません。ですが、そこそこ余裕のある、干ばつによる被害が少なかった領家や干ばつを利用してあくどい商売を行い金儲けに走った貴族は資金援助をチラつかせて婚約を迫ってきています。


今のところはミッレ伯爵家からの資金援助だけで充分ポールスト侯爵家は賄われているので逃げ切れていますが、それも時間の問題でしょう。


最有力候補はミッレ伯爵家の御令嬢。

少なくとも私か、ポルクスのどちらかは婚約する事になると踏んでいます。



三つ目は弟であるポルクス。


ポルクスは兄である私から言わせると『天才』以外の何者でもありません。


真にポールスト侯爵家の次期当主に相応しいのは彼なのですが、本人はあまり乗り気ではなく、何事においても手を抜いているのです。

どれほどの努力を重ねようとも『秀才』でしかない私には敵うはずも本気にさせる事もできず、しかし長男である以上覆せるはずもなく、私が嫡男に治まっています。


そのポルクスが最近になってひとりの女性に興味を持ち始めました。



リリアーナ・レバン男爵令嬢。



鉱石産業や街道の通行税で安定した領地経営を行っている堅実なレバン男爵家の一人娘で、驕った態度を取ることもない寛大な人柄と見受けられます。


しかし、それだけであの弟が気に留めるのかは甚だ疑問が残ります。


そして今も邸へ帰宅しようとしている私を放置してレバン嬢に会いに行っているのです。

通常であればひとりに付き一台の専用馬車を所有しており、勝手に帰宅するのですが、我が侯爵家の財政状況は火の車のため同じ馬車で帰らざるを得ません。



こうして裏庭で授業の復習をしながら待ち時間を潰すのも、何回目でしょうか。








「カストル様?」


勉学に集中して接近に気が付けなかったようで声のした方向へ顔を上げると、ミッレ嬢が風に巻き上げられた髪を右手で抑えながらこちらへと近づいていた。



私の悩み四つ目が彼女、シャルロッテ・ミッレ伯爵令嬢。


我が侯爵家が資金援助を受ける、国随一の資産家であるミッレ伯爵の長女でありながらそれ以外には特筆すべき特徴はない、凡庸な御令嬢です。しかし、その彼女の態度こそが特異に映るのです。



だってそうでしょう?



干ばつで力関係が逆転し、資金難に陥った高位貴族家へ恩を売る事ができる立場の下位・中位貴族は皆一様に居丈高に振舞う者ばかりの中、彼女は至って公平に対応します。


侯爵家嫡男の私にも、男爵令嬢のレバン嬢にも。



何か企みがあると警戒するのは必然でしょう。



「このような所で奇遇ですね。私に何か御用でしょうか?」


「いいえ。カストル様がおひとりでいらしたので、気になっただけですわ。お邪魔でしょうか?」


「ちょうど休憩をしようと思っていましたので、お気になさらないで下さい。ミッレ嬢はもしかしてポルクスをお探しですか?」


「違います!ただその、学園内の施設を把握しておこうと思いまして、見学している所です」



弟の名を出しただけで分かりやすく狼狽えているのが、どうにも資産家貴族の娘らしくない。

ミッレ伯爵家の本意を訊ねた際の、理解しがたい事を大真面目に説いたあの姿ともかけ離れている気もしますが。



「そうですか。因みにポルクスは先程レバン嬢を探しに向かいましたよ」


「まあ!そうなのですね。リリアーナ様と仲良くなっているようで安心しました」



安堵したかのような、慈愛に満ち溢れるような、嬉しそうに微笑んでいるミッレ嬢。


その反応に疑問が湧き上がるのを抑えられません。

彼女はポルクスを「お慕いしている」と言ったはずなのになぜ、ふたりの関係を心から応援するかのように喜ぶことができるのでしょうか?

言葉と行動に齟齬が生じている事に違和感を抱かざるを得ません。



「…嫉妬しないのですね」


「嫉妬、ですか?」


「ええ、レバン嬢に。貴方は弟を慕っていたでしょう?あの時も言っていた“幸せになってくれればそれで良い”という事の真意が私には理解できません」



心の底から分からないといった、不思議そうで悩ましそうな顔を向けられましたが、私はおかしなことを言ったでしょうか。


好いた人に自分とは異なる想い人がいる。それはとても憂うべき事なのではないでしょうか?



「それについてはその、言葉のまま受け取って頂ければとしか言いようがないのですが…。なので、リリアーナ様と親密にしている事は私にとっては喜ばしい事であって嫉む理由がそもそもないのです」


「…本当にただポルクスが幸せであれば良いと?自身が失恋しようとも?」



私の問いに納得がいったとばかりに「あ、そっか。そこからか」と彼女は呟いた。


私はその発言に少し、彼女の本質を見た気がしました。



「私はポルクス様の事をお慕いしていますが、恋情を抱いている訳ではございません。強いて言うのでしたら、敬愛…に似ているでしょうか?」



彼女は思案しつつも何とか自身の考えを述べていますが、理解ができないとは正にこの事。


彼女自身が弟に対して敬愛で済まされない情念を抱いているのは明白です。

しかしこれは私に対してもだと推察しているのですが、果たして何を考えているのでしょう?




その後も何もミッレ伯爵家の思惑に繋がる発言がないまま会話はポルクスの合流と共に終了を告げた。

この時のシャルロッテは「聖地巡礼♪聖地巡礼♪」とルンルン気分で、あわよくばスチル回収ができないかと学園を徘徊していました。


最後まで読んで頂き、ありがとうございます!!!

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