10.デート…でいいのかな?これ。
『ミア・フィーユ』へ到着して個室へと案内され、それぞれ紅茶とケーキを注文してしばらくすると給仕がワゴンに乗せて注文の品を運んできた。
リリィちゃんとポルクス様はチーズタルトを、私はショートケーキ、カストル様にはチョコレートケーキがテーブルに並び、給仕が退室してすぐに手を付けている。
リリィちゃんは相変わらず地球産スイーツが食べられて嬉しいのかとても幸せそうで、見ている私も嬉しくなってしまうほどの良い食べっぷりだった。
お二方は高位貴族らしい上品な食べ方で召し上がられていて、ポルクス様が気に入ってくれているのは何となく表情で分かるのだが、カストル様はいつも学食で食べている時と変わりない様子。
「お口に合いませんでしたでしょうか?」
「いいえ、とても美味しいですよ。甘過ぎないのでもう一口とついついフォークが進みますね」
いつも通りの速すぎず遅すぎずのペースで食べている気がするから、これが本音なのかお世辞なのか私には判別がつかない。
ただまったく口に合っていないという事はないと思う。
「カストル様にそう言って頂けて嬉しいですわ。…ポルクス様もいかがですか?」
「ん、うまいよぉ~」
「そ、それは良かったですわ…」
ポルクス様に「うまい」と言って頂けましたわ!スイーツ専門店を経営していて良かった…!
このシャルロッテ・ミッレ、感無量で胸がいっぱいです!
「シャルロッテ様。こちらのチーズタルト、とても美味しいです。ねっとりとしていてさっぱり。なのに濃厚なチーズがたまりません」
「気に入ってくれて嬉しいわ。宜しければお土産に少しお持ちになって?」
「良いのですか?お言葉に甘えてさせて頂きます!」
リリィちゃん、ぜひいっぱい食べてね。
ニッコリこっちに笑顔を向けてくれてる…!
ホントに可愛いわぁ~!推し増してしまいそう…。
にやけて気持ち悪い顔を晒してしまう前に淑女の笑みで蓋をしなければ…!
「うふふ。リリアーナ様が美味しく召し上がって下って私も嬉しいの。…お二人もお嫌でなければいかがでしょうか?」
「私達まで。よろしいのですか?」
「はい。ぜひ他のスイーツも食べて頂きたいのです」
「そういう事でしたら、お言葉甘えますね」
「俺このチーズタルトもっかい食べたいんだけどなぁ…?」
おねだり?可愛いかよ。
カストル様が「ポルクス?」と名前を呼んで窘めようとしているけれど、ノープロブレムですよ!
むしろいくらでも好きなだけどうぞ!!!
「気に入って下さって嬉しい限りですわ。皆さまの分のチーズタルトを用意するように致しますわね」
「ホント?ありがとね~」
「どういたしましてですわ。チーズタルト以外で気になるスイーツがございましたらお教え下さい」
「申し訳ないありません、ミッレ嬢」
「いいえ、お気になさらないで下さい。カストル様にもぜひチーズタルトを召し上がって頂ければ幸いですわ」
「…ありがとうございます。邸で美味しく味わわせて頂きますね」
こちらこそありがとうございます!!!推し達に貢げるのなど、存外の喜びです!!!
皆さんの希望を集めてから早速呼び鈴でスタッフを呼んで、用意するように手配せねば!
ふむふむ。やっぱりショートケーキとチョコレートケーキ、チーズタルトは外せないよね。
他に何が良いだろうか?
期間限定は当然としてフルーツロールケーキは季節のフルーツを使っているから是非とも食べて欲しいし…。
悩みに悩んでケーキを選び抜き、呼び鈴を左右に振る。魔法道具なので音はならないが、階下の調理室には信号が届いている事だろう。
言葉にして読み上げると楽しみが半減するからスタッフが到着する前に魔法を使ってコッソリとテーブルの下でメモを残して、これを来たスタッフにサッと渡す。
何気に魔法で文字を書くのは高等テクなので、傍から見たら技術の無駄遣いだと思うかもしれないが、推しの楽しみを欠片も奪わない事が私にとっての至上命題なのだ!
それはさて置いて、私が手配している間にリリィちゃんはポルクス様との仲を深めるため果敢に話しかけている模様。
「ポルクス様。ショートケーキも美味しいのですが、召し上がった事はございますか?」
「一回だけねぇ。また食べたくなってきたんだけど」
「ショートケーキは定番ですからお土産に持たせて頂けるのではないかと思います」
「ホントぉ?」
「はい、今準備させております」
「楽しみだな~」
「私も楽しみです」
スイーツが良い感じに話題として作用してる!
これは私はあんまり会話に介入しない方が良いよね。大人しく紅茶とケーキを食べとこ。
「俺このカスタードプリンっていうの食べた事ないんだけどぉ、どんなの?」
「卵を使っていた滑らかな食感がクセになって、とても美味しいですよ」
「へぇ~。じゃあこのシフォンケーキは?」
「それはですね…」
ケーキ談義する推し達とかマジ癒し空間だわ………私の中の何かが浄化されそう。
お二人に微笑ましさを感じながら眺めていると、カストル様の視線が私に向いている事に気が付いた。視線をそちらに向けて目を合わせると、何かを探られているような気分になる。
「あの、何かございましたか…?」
「いえ、申し訳ございません。つい」
「つい?」
「先日学園の裏庭での言葉の意味を考えていたのですが、私の杞憂だったようですので」
「うふふ。ご理解頂けたのであれば良かったですわ」
お互いに愛想笑いを浮かべて微笑み合う。
何とも貴族らしいやり取りな気がするのだが、休日までこんな肩ひじ張った会話をしなくても良くない???
まあ、攻略対象とお話しできるなんてファンからしたら夢みたいな話ですけども。
でも、それとこれとは話が別なの!
「カストル様には過分なご配慮を頂きまして、ずっと心苦しかったのですわ」
「そのように気に病まずとも私はただ魅力的な貴女の事が気になっているだけですよ」
「まあ!本気にしてしまいそうですわね?」
「私はそうなって頂けると嬉しいですよ?」
上品に微笑んでいるが、目の奥が笑ってないのよ、貴方!
優雅に語らっているかのように傍からは見えるのがホント質が悪いわ。
だって、今の会話を要約するなら。
「疑う必要性ないんだけど?迷惑ですよ」
「何を言っているのでしょうか?これからも監視は続けますよ」
「マジで言ってんの?」
「言ってますが何か?」
みたいな会話よ、今の。
美味しい紅茶にケーキが並ぶこの場でする話題じゃないと思うの…。
その後もほのぼの空間を作り出しているお二人の隣で一見和やかに会話をしながらも、水面下で貴族特有の言い回しでカストル様とお茶会が終了するまで牽制し合っていたのだった。
邸に戻って精神的疲労によってベッドに外出着のままバタンと倒れこんだのは仕方のない事だと思う…。
後日、お土産に渡したスイーツがどれも美味しかったとお三方から感想を聞いて、一人でニマニマしたのは言うまでもない。
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