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第十四話 下克上の少年少女


 地上にて。

 第弍支部の研究室の一角で受験者たちの監視が行われていた。

 不正の確認と、脱落者の把握。

 それと、死傷事故の未然防止である。


 例えば、建物の崩壊に巻き込まれた場合、死亡すると判断された場合、強制的に地上へ召喚する、といったものなどだ。

 他にも色々と予防線を張っており、なるべく死傷者は出ないように努められている。


 ——————もっとも、それでも死ぬときは死ぬのだが。


 とりあえず、今回は全員助かった。

 しかし、それを脱落させたのが占術師だという事実は、観察していた試験官に衝撃を与えていた。



 「………受験番号3063番と3064番をすぐに特定観察に」



 特定観察とは、推薦者などの強力な儀式の使い手に儀式師が付きっきりの状態で観察する扱いの事だ。

 この2人の番号はもちろん、掌と結である。

 すると、



 「あ………それ僕も見る」



 欠伸をしながら気怠そうに歩いてくる女性がそう言った。

 髪は雑に一本に纏められており、気の抜けた様な顔をした女性だ。

 着崩した和服を見に纏い、脇差を一本帯刀している。

 一見場違いにも思えるが、彼女の地位を考えれば誰も文句はいえなかった。



 「み、宮本支部長!!」



 支部長、つまりこの第弍支部の最高責任者である。



 「ふぅん。この子らが盟蓮が言ってた………」



 正弦が煩く言うので、盟蓮は彼女に連絡は入れておいたのだ。

 盟蓮の言う通り、この支部長は一切怒ったりはしなかった。

 というよりはどうでも良さそうだった。

 しかし、



 「へぇ」



 どうやら少し興味を持ったらしい。

 脇差を摩りながら、鼻歌を歌いだした。

 職員達はなんとも複雑そうな顔で監視を続けている。

 彼女が楽しそうなときは結構ロクなことがない。



 「きんいろ………ふふ、ふふふ………………」



 宮本支部長は何しにきたんだろうという視線を気にすることなく、掌達の様子を眺め続けいた。


 だが、彼女と同じくらいやはり掌のことも気になっていた。

 今掌たちは——————













——————————————————————————————














  

 「次、どっちですか?」


 「北西100m………お、隠しデコイだ」



 軒並みデコイを破壊し、現在成績はトップであった。

 点数はというと、盟蓮からもらった入場許可証に仕掛けがあり、裏面を上に向けると順位の書かれたホログラムが映し出される。

 掌は今結を抱えてビルの屋上を飛び回っているので、そういう情報面は全て結が管理していた。



 「結構圧倒的かと思ったけど、うちら含めて上位6組くらいが接戦だね」



 理由はわかっていた。

 デコイの破壊が罠設置と治療と比べて圧倒的に点数が低いのだ。

 機動力と探知力でなんとかカバーしているが、そろそろデコイも減ってきた。



 「まぁ、この展開になるのは目に見えてましたけどね。問題はやはり、点数奪取です」



 1人5組に限り攻撃が可能であり、ポイント奪取が可能というルール。

 このルール、単純そうで奥が深い。

 例えば、先にポイント奪取しておけば、時間的に余裕は出切るが、5回全て使い切った時に襲われれば逃げるしか出来なくなる。

 しかし、使い切らなければ大抵のペアは上位に行けないだろう。



 では、逆にギリギリまで待っていればどうか。

 この場合、敵が5回使い終えてると分かれば強い敵からポイントを大量に奪える代わりに、見つからなければ限りなく下位で終わってしまう。



 基本中途半端がいいのだろうが、結果は中位層になる確率が高くなるだろう。

 この後は戦闘試験なので、召喚師以外はかなり苦労する事になる。



 極めつけは制限時間と人数だ。

 1時間というかなり短い時間と1000人以上という多人数の敵は、彼らに考える暇を与えず、まともに策をも用意させない。




 であるが故に、ここで他人より抜きんでた策を練られる者や、ゴリ押すだけの馬力を持っている者は勝利出来るのだ。





 「残り35分………」



 もう時間は半分近い。

 だが、掌たちは焦る必要がなかった。



 「二組………二組ですね」


 「まぁ、そのくらいだろうね」



 そう、現在一位の掌達は、接戦を繰り広げている上位層のうち二組でも点を奪えればほぼ間違いなく優勝可能。

 これは、上位層の特権と言って然るべきものだ。



 「少し待ってください」



 許可証を取り出して、点数の上下を観察する。

 すると、ひとつわかった事があった。



 「………3位、5位、6位の人は大きく上がったのがあります。多分、祈祷師がいるのではないでしょうか」



 点数の上がり方を見て、その組みどれを使って点をとっているのかが分かる。

 他人に対する癒しの力があるのは祈祷師限定なので、治療による加点を見れば祈祷師がいる組みだと分かるのだ。



 こういう風にして探ってヒントを得続けることが出来れば、いずれ上位チームにたどり着ける。

 何せ結もいるのだ。

 占いでかなり分かることも多いだろう。



 「それじゃあ、ここは私の出番だね」



 結は水晶をくるくると回してそう言った。

 少しばかり苦労するだろうが、頑張れば見つけ出せるかもしれない。

 念のため、今日二回目のますかけ線も使っておく。



 ただ、懸念すべき問題はあった。

 こちらが他所を見張っているのと同様に、掌達のチームを観察している者は確実にいないとは言い切れない。

 デコイだけでどうにかしているチームは多分目立つ。

 占術師だけだと目立っていた2人なので、見つける者が出てくる可能性は——————



 「!!」



 十分にある。



 「っ………ふッ!!」



 首元に迫る儀具を蹴り上げて弾く。

 掌は結を抱えてすぐ下がって飛んできた方角へ視線を飛ばす。

 痩せぎすの男と少し上のキャップをかぶった金髪の男の2人組みが、そこに立っていた。



 「チッ………躱されたか」



 どうやら攻撃してきたのは痩せぎすの男らしい。

 結の水晶にも映らなかったという事は、恐らくそういう儀式なのだろう。

 何せ気配も感じなかった。

 


 「お前ら、今一位のペアだよな? 生意気にも占術師同士のペアときたもんだ」



 痩せぎすの男の言い草に、結は少し頭に来ていたが、ここは我慢する。



 「ポイントは貰っていく。悪いが容赦はせんぞ。お前らを倒せばぶっちぎりで一位なんだからよ」


 「「!!」」



 運がいい。

 ますかけ線の効果が出たのか、高順位の敵がこちらから出て来てくれた。

 しかし敵は隠密系。

 時間をかけすぎない事を意識して戦わなければならない。

 さて、どう立ち回るか。













——————————————————————————————













 「………」



 難しい顔でタバコを蒸す盟蓮(みょうれん)

 書類を持って頭を抱えている。

 さっきまで奏次郎の取り調べをしていた儀式師からおかしな報告が入ってきていた。

 そして、それとは別だが関係のありそうな報告がもう一つ。

 少しばかり、厄介そうな匂いがしていた。


 すると、



 「おや、どうしたんだい盟蓮ちゃん」



 喫煙室に強面のおっさんが入ってきた。

 もちろん正弦(せいげん)である。



 「ゴリか………」


 「ゴリではないよ。で、何か問題でもあったのかい?」



 盟蓮は短くなったタバコを捨て、書類を正弦に渡した。

 説明するのは面倒だから黙って読めとのことらしい。

 正弦は言われるがまま書類を読むと、確かに引っかかる点を見つけた。



 「これは………」


 「昨日ガキ共を見つけた時に向かったトラックは三台。小娘とそこに乗ってるリヴァースのカスを乗せた一台、小僧を乗せた一台、集められてたチビ共を乗せた一台。収容者は3人だ。しかし、リヴァースのカスには3人程仲間がいた。うち2人は死亡。だが………」



 そう、先日結が乗り込んだ際、2名はミノタウロスに殺されたが、最初に気絶させた一名はいつの間にか消えていた。

 逃亡した可能性が高い。

 そして、もう一つの報告というのは、警備を行なっている占術師からであった。

 内容は、第弍支部で不審な神力反応を探知したというものであった。



 「復讐か………?」


 「どーだろーな」



 妙に無気力な盟蓮。

 一体どうしたのだろうかと正弦は疑問に思った

 ここに乗り込んだのなら捕まえるのも簡単だろう。

 しかし、捕まえられてないからこんなところで難しい顔をしているのだろうとも思う。



 「対処は?」


 「はぁ………………止められた」


 「は!?………まさか」



 彼女を止める権限があるのは1人だけだ。

 そして、やりかねないのも1人だけ。



 「侵入者は地下に向かった。だからそのまま地下で試験として捕まえさせろと言ってるんだと」


 「相変わらず無茶苦茶な………公平性にかけるんじゃないのか?」


 「それもそうだし、処理が面倒だからイレギュラーは勘弁して欲しいんだがねェ」



 困ったように頭を抱える2人だが、受験者の安否に関しては一切心配していない様子だった。

 死ぬ時は死ぬ。

 それを弁えている彼らも死んでも大丈夫だという事で試験を受けている。

 どうするもこうするもなかったのだ。










——————————————————————————————










 睨み合い合う二組。


 痩せぎすの男が隠密系の攻撃を使ってきた以上、金髪の男は探知系………つまり占術師であると踏んだ。



 「それは、挑んで来ているということでよろしいですか?」


 「は? あははははは!! 挑む!? おいおい笑わせんなよ。これは喧嘩じゃない。一方的な略奪だ」



 やはり油断しきっている。

 不意打ちを喰らわせるのもいいが、儀式師の戦いに絶対はない。

 突飛な儀式や不可解な儀式もある。

 ここはひとまず慎重になるべきだ。



 「まいったと言えば、逃してやらんこともない。さぁどうする?」


 「「断る!!」」



 掌は親指を掌に当て、結は儀具の棒を構えた。

 逃げる気はもとより、逃す気もない。

 ここで確実に仕留めなければならないのだ。



 「ハッ………馬鹿が………じゃあ思う存分叩き潰してやる」



 敵がベラベラと喋っている間に、結は敵の所持している儀具や儀式系統を探っていた。

 蒼い神力が結の周りを漂っている。

 にも関わらず敵は好きなだけ見ろと言わんばかりに堂々と突っ立っていた。

 

 利用してない手はない。



 儀具はどうやら強力なものはなく、使い捨ての儀具が8つ。

 能力系統は——————



 「!?」



 痩せぎすの男は呪術師。

 金髪の青年は、



 「せ……占術師じゃない………!?」


 「なっ………………!?」




 金髪の男から漆黒の——————呪術師の神力が溢れ出た。



 『起動(セット)



 予定外の出来事である。

 探知でないならどうやって探った?

 では儀式は?

 そもそも何を企んでいる?

 そんな考えが頭をよぎったが、こうなっては取る行動はひとまず一つ。


 ——————やむを得ない


 先手必勝。

 神力を解放して飛び出す。

 弾丸の如く飛んでゆき、拳を放った。

 そして、その拳が顔に触れる刹那、






 『かァくれんぼ、しィーましょ?』






 儀式行使の宣言。

 失敗を悔やむ間も与えず、黒い渦が2人を飲み込んだ。

 掌と結、そして痩せぎすの男は一瞬にして消えたのだった。




 「………」





 誰もいなくなった瓦礫の山の上で、男は立ち尽くす。

 すると、迫った拳を思い出し、ブワッと滝のような汗を流し始めた。




 「っ、はァッッ!!………………あ、あれが占術師………? クソッ………どんな儀具使ってやがった………」




 後一瞬遅れていたら確実にやられていた。

 しかし、青年は成功した。

 じわじわと、その成功を実感し始める。




 「でも………これで上位の結果が残せる………間違いなく、儀式師になれる………………ふ………ふふ、ふはは、ははははっ、ははははははははははははははは!!」




 金髪の青年は声高らかに笑い声を上げ、勝利を確信した。

 悪意いっぱいのその笑みには、当然秘密がある。

 知られれば罪となるほどの、大きな秘密が。





 「ふふふ………後は、どうにかしてくれよ、おっさん」


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