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3.33.整理しましょう


 コシュ村の村長や村人たちからお礼を言われまくって、ちょっと待遇がよくなりすぎた。

 なので翌日にはすぐに出ることになり、今は馬車でガロット王国に向かっている最中だ。

 村を出て数日……今日中にはガロット王国の領地に入ることができるだろう。


 ヤグル山脈で盗賊にまた襲われるかもと思って身構えていたのだが、そんなことはなかった。

 操り霞で調べても魔道部隊が配置されていた所には沼しか残ってなかったし、周囲をどれだけ探しても人っ子一人いなかった。

 沼に落とした盗賊は死んではないと思うのだが……確認できなかったのでちょっと心配だ。

 とは言っても沈み切らない程度の深さに設定したから大丈夫だとは思うのだが……。


 まぁそんなこんなで特に目立った襲撃もなく、無事にここまで帰ってくることができた。

 今は進んでいる場所は畑も多く見え始め、村もぽつぽつと点在し始めている。

 帰り道は行より早く感じるのは何故なんだろうな~、とそんなことを考えながらスターホースの手綱を握っていた。


 だが俺は少し後悔していた事がある。

 あの野郎にマナポーション飲ませるのすっかり忘れていたのだ。

 話を聞いて同情してしまったのだ。

 全て自業自得だったのにな。

 今度会った時は問答無用でマナポーションを口の中にぶち込んでやろうと今誓った。

 名前は鳳炎だったな……覚えたからなあの野郎。


 もしそれで戦闘になっても俺の水系技能なら何とかなるだろう。

 あの炎系技能は強力だが、水には勝てまい。

 でもアイツちょっと零漸に似てるところあったんだよな。

 頭悪いけど戦闘に関してはめちゃくちゃ強いみたいな。

 あれだけの範囲を燃やすのだ。

 それも雨の中。

 技能は相当強いと思っておいた方がいいだろう。


「あーにきっ」


 すると後ろからひょこっと零漸が出てきた。

 先ほどまでアレナたちの遊び相手になっていたはずだが……。

 そう思って後ろを確認してみると全員が寝ていた。

 遊び疲れたのだろう。


 ウチカゲは夜のために眠ってもらっている。

 アレナとサテラがうるさい中よく寝られるなと少し感心した。


 零漸は隣に座って外の景色を見ながら俺に話しかけてきた。


「これからはどうするんでしたっけ?」


 そう言われてふと考える。

 いつの間にか沢山の予定を増やしまくってしまっているのだ。

 この際だからちょっとばかし整理して円滑に進めるようにしよう。

 まずは……。


「ああ。まずはアレナとサテラをガロット王国に連れて帰る。アレナとサテラの父親の護衛を務めていたバラディムという奴がいるから、そいつにアレナとサテラを預けて領地の復興をさせるつもりだ」

「えー! アレナとサテラってお嬢さんだったんですか!」

「知らなかったのかお前……」

「だってあの二人自分のことあんまり話そうとしないんですもん」


 まぁそれもそうか。

 目の前で親とか殺されたらしいし、奴隷に落ちたし……昔のことなんて話したくもないだろう。


 でも問題は、その二人が領土の復興に協力するかどうかなんだよな。

 まだ子供だし、責任なんて言葉はまだ分からないだろう。

 バラディムもアスレも協力はしてくれると思うが……それについてきてくれる人がどれだけいるか分からないというのが現状だ。

 まぁ決めるのはあの二人だ。

 俺がどうこう言っていい物じゃない。

 俺はあの二人が決めたことに賛同してやるだけだ。


 そのことを零漸にも話したが、いまいちよくわかっていないようだった。

 なんで分かんねぇんだよ。


「その後はどうするんですか?」

「ガロット王国で冒険者登録をして、一度前鬼の里に帰る。これは一日で行けるからさほど時間はかからないだろう」

「前鬼の里っていうと……ウチカゲの故郷っすか?」

「んー何とも言い難いんだよな。まぁウチカゲの家族がいるところだな」

「ほー!」


 零漸は鬼の里という物に興味があるらしい。

 まぁなんせこいつも日本人だ。

 昔の伝承でしか語られなかったものが見れるんだからそりゃ興味もわくだろう。


 俺だって見た時はそりゃもう興奮したさ。

 でもそれを見せるほどの余裕はなかったな。

 あの時は姫様もテンダも大変だったんだ。

 でも鬼たちを助けたおかげでアレナとサテラを助けることに繋がったからな。

 本当に助けてよかったと思っている。


 まぁ前鬼の里では俺のことをとりあえず話しておかないとな。

 あの時は蛇のままだったんだし、人間の姿になってるってわかったらあいつら驚くぞ?

 それよりも会話できることに感動しそうな勢いあるけどな。

 なんにせよ帰るのが楽しみだ。


「で、その後なんだが……もう一度サレッタナ王国に戻る」

「またっすか!?」

「ちょっと向こうで約束事をしてしまってな。あとレクアムの実験体も回収しておかなければならん。あの呪いは俺でしか治せないんだ」


 あれから暫く経つ。

 あの奴隷たちのことが心配だ。

 もしかしたらすでに何人かは亡くなっているかもしれないが……。

 いや、後ろ向きな考えはやめておこう。

 助けられるだけ助けるのだ。


 後はイルーザの所に置いてきた四人の子供たちの様子を見ておきたい。

 問題ないとは思うが俺が押し付ける形で任せてしまったからな。

 顔くらいは出してやらなければならないだろう。


 それとドルチェだ。

 奴隷に落ちる子供を助けなければならない。

 これは相当な時間がかかる作業だ。

 こういうのはサレッタナ王国の国王とかに申し出るのがいいと思うのだが……。

 まぁ直接会ってから話をつければいいだろう。


「とりあえずはこんなところか」

「……既に予定詰まりまくりじゃないっすか」

「もしかして俺いい奴すぎるか?」

「そんなことないですよ。前世では奴隷なんていませんでしたし、自分が正しいって思う事してるなら何の問題もないっすよ。価値観の違いもありますしね」

「……お前本当に零漸か?」

「心外っす!!」


 まさか零漸の口からこんな言葉が出てくるとは思っていなかったので、ちょっと驚いてしまった。

 だが言っていることはわかる。

 この世界の人間からしたら俺は良い奴すぎるだろう。

 まぁ何と言われてもいいさ。

 奴隷制度を変えるってのは無理だろうけど、子供だけは除けってくらいなら全然できるだろう。

 その辺はおいおいやっていくか。


「あ、そうだ。零漸は何かやりたいこととかないのか?」

「俺ですか? んー……やっぱ早く冒険者の仕事やってみたいですね~!」

「ああ、そうだな。今回は移動しなきゃならんからガロット王国での仕事は無理だが、採取系の依頼を書き記しておけばサレッタナ王国でも依頼達成できるかもしれないな」

「おお……考えてるっすね……」

「そうか? これもちょっとした賭けだぞ?」


 ガロット王国で必要とされている物が、サレッタナ王国でも必要とされているかどうかわからないのだからな。

 だがFランクの採取系依頼は多いと聞く。

 運よくサレッタナ王国でも同じ依頼がある可能性もあるのだ。

 ここは期待しておいてもいいかもしれない。


 まぁこういう事をやっていいのかどうかとかは、聞いてみないとわからないけどな。

 多分大丈夫だと思うけど……。

 そういえばパーティーを組む時は、パーティー名を考えておかなければならないんだったな。

 パーティーの人数の上限とかあったっけ

 まぁ三人くらいなら問題ないだろう。


 そんな話をしていると零漸が上体を倒して寝転がった。

 空を見て満足そうに笑っている。


「いやー楽しみっすね~。てかこの世界楽しくないっすか!?」

「ああ。確かに楽しい。隠さなきゃいけないことが多すぎてちょっと肩身狭いけどな」

「あー兄貴の技能って特殊ですもんね」

「そうなんだよなー。ま、それ抜きにしたら普通に楽しめてるさ。前世でできなかったこと沢山やれてるしな」

「あれ? 兄貴って記憶喪失なんじゃ?」

「普通に生活してたらこんな事できてないだろ?」

「あーそれもそうっすね~」


 二人でこの世界に来られてよかったなどと話していると、遠くにだがようやくガロット王国の城壁が見えた。

 零漸にアスレのことは説明しているし、バルトが俺たちを迎え入れてくれることだろう。


 遠くで見てもわかるが……相変わらずでっかい城だ。

 でもやっぱりサレッタナ王国よりは小さく感じる。

 それでも大きく見えるのは隣にある鉱山が原因だろう。

 鉱山の働き手は今どうなっているのだろうか?

 奴隷があまり使えなくなったからな。

 闇奴隷は回収されているだろうし……ま、行ってみればわかる事か。


 そうして俺たちはガロット王国に帰ってくることができたのだった。


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