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第3話 遊園地へ行こう!

 

 その後も俺たちは次々に屋台を襲撃した。もちろんそれからは一人分だけ塩で下さいと言うのを忘れない。

 異国からの旅人の中にはこの甘ったるいソースを苦手とする人もいるようで、どこの店もさほど嫌な顔はしなかった。


 最後にデザートとして、スライスしたアーモンドっぽい木の実を表面にたくさんまぶしたケーキを買ってみたが、これが激甘だった。

 なんだか中はヌチャヌチャしたヌガーみたいな感じで、とにかく言い知れない甘い味しかしない。

 ね、こんなもんですよ、と言う顔でマルは最後のひとかけらを口に放り込みながら肩を竦めた。


 ほんとにこいつ、尊敬するわ。甘い物ならなんでも食べられるんだな。残りの俺のケーキをそっと差し出したら、ちょっと躊躇った後、受け取ってくれた。

 ごめんな、マル。帰ったら一緒に腹筋しよーな。


 満腹になった俺たちはひとしきり、他のテントを冷やかして回った。この辺は骨董品や装飾品が多いようで、あまり子供向けの商品はない。

 俺がつまらなそうになってきたのに気づいたのか、アインスガー家の執事さんが声をかけてくれる。


「あちらに子供向けの広場があるので行ってみられますか? 移動遊園地がありますよ」


 え、遊園地!? この世界、そんなものがあるの?

 ちゃんとリサーチしてきたらしき執事さんに促されて、俺は目を輝かせ、二度も三度も大きく頷いた。

 広場から別の広場に移動すると子供たちの歓声が多くなってきた。


 遊園地はまぁ、遊園地と言えば遊園地だった。

 手回しの観覧車とか、メリーゴーランドらしきものが見える。


 観覧車はバケツみたいなカゴが六個ついていて、それに乗るらしい。完全に人力だ。

 大人が横に二人ついてカゴを強く引っ張ると、遠心力でぐるりと一回転する。

 ぐるぐる回る観覧車に子供たちはキャッキャと声を弾ませていた。

 しかし一番高いところでも大人の背丈の二倍ほどしかないので、別に景色がいいわけではないようだ。


 メリーゴーランドは馬の模型が乗ってる台を、これまた人力で回しているだけだ。馬が上下に動いたりするわけではない。

 他にはブランコに乗って空中を回ったりするやつとか。空中って言っても高さは、さっきの観覧車と同じくらいだ。

 あとはお互いが向かい合わせに乗り物に乗ってギッコンバッタンするやつ……あぁ、これ、まんまシーソーだわ。


 広場の真ん中には砦を模したらしき巨大なハリボテがあって、これだけは相当大きかった。

 その周囲に螺旋階段みたいにぐるっと滑り台が設置されている。子供たちは大喜びで塔を駆け上がって、何度も滑っていた。


 日本人の感覚で言うとこれは遊園地じゃなくて公園だな。

 でもこんなのマーナガルムでは見た事なかったから、やっぱりシアーズは都会なんだろう。


 マルたちはもう大きいのでこう言うのには興味なさそうだ。完全に俺のために連れて来てくれたんだ。素直に喜べなくて心が痛む。

 俺は皆の前でただぽつねんと立ち尽くしていた。


「師匠の国でも祭りにはこう言う遊園地が来るんですか?」

「いえ、見た事ありませんね。(こちらの世界では)初めてです」


 嘘にならないようにモゴモゴッと口の中で呟く俺を、皆が変な目で見てきた。新しいもの好きで珍しいものが好きな俺のテンションが上がっていないので不審そうだ。


「じゃぁ、一通り乗ってみますか? あれなんか……」

「あ、いえ、僕はこう言うのは……」


 連れて行かれそうになって慌てて言い訳を捻り出す。


「こう言うのは小さい子が遊ぶものでしょう?」


 なに言ってんだとばかりに、その場にいた全員の視線が俺に突き刺さる。

 しまった。俺、この中で一番、年も背も小さいんだった。まだ遊園地で遊んでも差し支えないような年齢なのか。


「師匠ってたまに変なこと言いますよね」

「まぁまぁ、僕はほんとに遊具はいいですから! そうだ、あちらの射的に行きましょう!」


 マルの腕をグイグイと引っ張って広場の端へ連れて行く。皆もぞろぞろと後ろに続いた。

 この広場の構成としては中央に遊具がいくつか置いてあって、その周囲に射的や輪投げ、くじ引きなんかの、いかにもお祭りらしい屋台が並んでいる。


 射的って言っても鉄砲じゃない。この世界ではまだ鉄砲や大砲にはお目にかかった事がない。

 俺の家庭教師であるエラムの授業によると、火薬はあるようだが壺に入れて投下するだけとか言う代物らしい。威力がなく不発や自爆も多いので、あまり戦闘では使われないようだ。

 この世界の戦いの主流は剣、槍、弓、そして投石器だ。

 子供たちの遊びもそれを模している。


 射的は弓。その他にも、木の杭に張った動物の皮に向かって槍を投げたり、小さなカタパルトを使って石を投げて砦の模型を倒すなんて屋台もあった。

 どこの屋台も、下手くそでもなんらかのお菓子や景品は貰えるみたいだ。


「俺、弓は苦手なんですよ」


 俺に引っ張られるマルの顔は冴えない。モリスは腕が使えないから置いとくとして、ジョエルも同じような感じだ。

 安心しろ。俺も弓は大の苦手だ。どうやったらまっすぐ矢が飛んでいくのか、いまだに理解できていないんだ。


 射的の矢は先端が潰されていた。子供が間違って変なところに打って事故が起こらないようにだろう。

 標的は木の板。刺すんじゃなくて、これを倒すらしい。


 あぁ、あっちの槍投げとかにしとけば良かった。そんなのがあるとは知らなかったんだ。お祭りなら射的だろ、みたいな安易な気持ちだった。

 浮かない顔でお金を払って子供用の小さな弓と矢を受け取る。

 マルとジョエルもほんとにやるんですかって顔だったが、所詮、遊びなので口では反対してこなかった。


 一人五本もあったのに、俺たちの矢はヘロヘロとあらぬところにばっかり飛んで行った。

 かろうじてジョエルの矢が一本、木の板を倒したが、狙った板とは違うものだったらしい。


「はい、残念賞」


 射的の屋台のおっちゃんにそれぞれ小さな飴玉を手渡され、微妙な顔を見合わせる。


「上手くもないのにどうしてやろうとか言いだしたんですか」

「子供用だからなんとかなると思ったんですよ」


 まさか遊具に乗りたくないから目についたものを口にしただけとも言えない。

 手の中の飴玉を見下ろして、はぁ〜っとため息をつく。

 いらない恥をかいてしまった。


 ふと視線を感じて振り向くと、ユーリが細目をニヤニヤとやに下がらせて俺を見ていた。

 こ・い・つは~。

 ユーリはアレか。弓が得意なんだっけか。内心、大爆笑しているに違いない。


「そんなに自信あるんだったらユーリは全部当てられるんだろうね?」


 むっとして痛くない程度に足をつねってやったら、ユーリは生温い微笑みを浮かべた。


「ご冗談を。動かない的など、目を瞑っても当てられますとも」


 余裕しゃくしゃくな態度が気に入らない!

 と思ったのは俺だけではなかったようで、屋台のおっちゃんが眉を寄せて口出ししてきた。


「言うね~、兄ちゃん。ま、口だけならなんとでも言えるだろうけどよ」

「そうだよ、実際やってもないのに、できるか分からないだろ!」


 もはやどちらが味方か分からないほど、俺はおっちゃんの隣に立って一緒にユーリを煽った。

 騒ぎを聞きつけて、なんだなんだ、射的屋で何か面白い事をやるらしいと、わらわらと人が集まってくる。


「できるってんなら口だけじゃないところを見せてみろよ!」


 腰に手を当て、指を突きつけて挑発する俺に、あまり気乗りしなさそうにユーリはやれやれと首を振った。


「それはご命令ですか、ルーカス殿下?」


 ここまで話が大きくなったら、もう子供の悪乗りで済ますしかないな。


「あぁ、命令だ。ユリアン・ユスティウス・フロイ」


 俺の言葉を聞いたユーリは、気乗りしなさそうな様子で腰から手を外した。自信がないと言うより、心底面倒くさそうだ。

 本当にユーリにとっては目隠しして全的するなんて朝飯前なんだろうか。


「しばらくお一人で警護願いますよ、アレク先輩」

「あぁ、問題ない」


 集まって来る群衆に油断なく視線を向けながら、アレクは脅威になる者はいないと判断したのだろう。ユーリに軽く頷いた。



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